触るとうつるよ見張っていてください、でも、触ったらダメですよ、と、蟲柱の胡蝶しのぶから言われてかれこれ1時間、煉獄は触りたい欲と必死に戦っていた。目の前には猫の耳と尻尾が生えて、猫のように縁側で日向ぼっこして転がっている恋人の炭治郎が可愛らしい姿を晒している。恋人の何とも可愛らしい姿に、つい手が出そうになるのを引っ込めては、首を横にブンブンと振って気を紛らわせた。
丁度1時間ほど前、蝶屋敷に常備薬をもらいに訪ねていたところ、そこに偶然、炭治郎が鬼血術を食らったとのことで担ぎ込まれてきた。炭治郎の事が心配で、しばらく診察が終わるまで蝶屋敷で待たせてもらっていたのだが、胡蝶からいきなり診察室に呼ばれて、炭治郎の監視を頼まれてしまったのが我慢の始まりだった。
胡蝶から話を聞いたところ、炭治郎、伊之助、善逸の3人で任務をしていたそうなのだが、その際に首を切った鬼が最後に鬼血術を使ったそうで、炭治郎が二人を庇ってもろに鬼血術を受けたそうだ。恐らくその鬼血術は相手を猫に変えてしまうものだったようだが、首を切られていたため不発だったのか、人間の姿のまま、猫の耳と、尻尾だけが生えたそうだ。
人間の姿で、猫の耳と尻尾が生えただけなら別に問題はないかと二人は思ったのだが、まさかの中身が猫になっていたようで、二人が話しかけてもニャーニャーしか言わず、おまけにその場から逃げ出そうとしたので、慌ててとっ捕まえて蝶屋敷まで連れてきたそうだ。
しかもこの鬼血術が厄介な事に、触った人に感染するようで、炭治郎を蝶屋敷まで担いでやってきた善逸と伊之助も、頭に猫の耳と隊服のズボンからはみ出るように尻尾が生えていた。ただ、炭治郎と違い二人とも意識はあるようで、言葉は普通に喋っていた。語尾にニャ、は付いていたが。
善逸と伊之助はしばらく様子見で別室待機となり、中身が猫の炭治郎は隔離室に閉じ込められることとなった。
炭治郎の監視役は誰でも良いのでは?とも思ったが、猫炭治郎が胡蝶達の言う事を聞かず、恋人である煉獄が呼んだら言う事を聞くのでは?と思われたらしい。実際、俺が呼んだら後ろをついて来てくれた。
と言う事で、隔離室から逃げ出さないよう炭治郎を見張りつつ、触らないように監視する、という役目を任されてしまった。
隔離室とはいえ、蝶屋敷は広いので、実質離れと言った方が良さそうなくらいの広さはあった。逃げ出さなければ縁側で日向ぼっこしてても良いと言われて、こうしていざとなったら捕まえる用の紐を持ったまま監視している。しかし、いつもと違う炭治郎の可愛らしい様子に、何度も手が出そうになった。胡蝶からは、鬼血術がうつると何があるかわからないから絶対に触るなと言われたが、単に頭から猫の耳が生えて、ちょっと尻尾が出るくらいなら、触ってもいいのではないかと思ってしまう。
ゴロゴロと喉を鳴らしながら四つん這いで煉獄の足元にくる炭治郎を、必死で避けなければいけない苦行が辛過ぎる。珍しく昼間から甘えて来ているのに、触れないなんて。普段は恥ずかしがって自分からはあまり来ない炭治郎が、今、すごく来てくれている。なのに全力で避けているので、少し寂しそうな顔をしているのがギュと胸に突き刺さる。そんな顔をしないでくれ、俺も必死なんだと言いたくなるが、猫の炭治郎には通じない。
そうこうしている間に、猫炭治郎は飽きてしまったのか、縁側でゴロゴロと転がり始めた。そして、こちらを誘うようにじぃっと見つめてきた。
猫の耳と尻尾が付いただけなのに俺の恋人が可愛過ぎる。もう触っても良いんじゃないかな?ダメなのか?柱だから鬼血術がうつったら不味いとかもうどうでもいいんじゃないかな、まだ昼前だし。
我慢しきれず、ついに炭治郎の頭を撫でてしまった。待ってましたとばかりに擦り寄ってくる炭治郎が可愛くて、ヨシヨシと沢山撫でてしまう。撫でていると、炭治郎の方からペロリと唇を舐められてしまった。今日の炭治郎は積極的だ。いつもは自ら口付けなんてしてこないが、今日はベロベロ舐められている。積極的な炭治郎、可愛い。鬼血術が解けて本人がこの事を知ったら気絶しそうだが、まぁ、それまでの間楽しませてもらおうか。
こちらも舌を出すと、炭治郎は嬉しそうに絡めてきた。やはり積極的。生えている尻尾を触ると、ニャンッ!と一声鳴いて気持ちよさそうな顔をする。そのままズボンの中に手を入れて少し弄ってやると、声を我慢しているのか、プルプルと震えているが、嫌そうな感じではない。ヤバい、勃ってきた。
...、何て思っていたら、離れの襖がすーっと開いて、胡蝶がすごい形相でこちらを見ていた。
「触るなって私言いましたよね?」
「すっ、すまないニャ!ちょっとした出来心でニャ!」
こうして、耳と尻尾が生えた俺は、胡蝶からしこたま怒られた挙句、実験台として色々薬を試されたのだった。ついでに、試していた薬が効いたので、炭治郎にもそれを使って、無事にこの鬼血術事件は解決した。
ちなみに、炭治郎に猫だった時の記憶が残っていたので、俺は夜に続きをお願いした。