死後の世界で、記憶がない二人が出会う話③「ということで、俺達はどうもこの世界で満足しなければ、ここから出られないらしい」
「なるほど……、つまり、ちょっとした日常生活で消えない煉獄さんは、この日記の人のように自力で記憶を戻さないといけない、と言う事ですね!わかりました!俺、煉獄さんの記憶を取り戻す手伝いします!」
「何故そうなる!?というか、君もここから脱出しないといけないんだぞ?」
「いえ!俺の前にまず煉獄さんです!!だって、あんまりじゃないですか!!これまで何人見送ったんですか!?寂しいじゃないですか!!そんな思いをこれ以上あなたにさせたくないです!!」
想いが溢れて、炭治郎は思わずわーっと声を上げて泣いてしまった。煉獄は今まで何人の人を見送って、ここでずっとあり続けたのだろうか。そう思うと、自分のことなんて本当にどうでも良くなってくる。このちょっと変人だけどお人好しの煉獄を何としてでもこの世界から卒業させなければという使命感に駆られてしまった。
「明日から!俺が全力で煉獄さんの卒業を応援します!!具体的な案はまだ一つも思いつかないですけど!!」
「君は頼もしいのか頼もしくないのか、さっぱりわからないな!しかし、あまりここで大声を出すと苦情がくるので少し落ち着いてもらえないだろうか」
その時、煉獄の部屋の扉を誰かが叩いた。先ほどから部屋で騒いでいたから、苦情がきて見回りの先生が来たのだろう。煉獄は、頭を抱えて、はぁ、とため息をついた。
「昨日はすみませんでした。先生に怒られちゃいましたね」
食堂で朝食を取りつつ、炭治郎は煉獄に謝った。あれから煉獄と炭治郎は先生に騒いでいたのを怒られて、そのまま解散となった。
「いや、大丈夫だ。どうせ授業にも出ていない俺は、先生から目の敵にされているからな!ははは!」
「それで昨日言ってた件なんですけどね、早速今日から色々と探ってみようと思っていて……」
「昨日の件とは?」
「煉獄さんがここから卒業できるように、お手伝いするって俺言ったじゃないですか」
「いや、それより君はまず自分の事だろう。君もここから出られなくなるぞ?」
「俺の事はいいんです!いや、良くはないですけど、とりあえず、当面の目標は煉獄さんをここから出すことです!さぁ、食べ終わったら早速探しに行きましょう!」
「いや、君、授業は……」
「授業なんて受けてる暇ないですよ!ほら、早く早く!」
朝食を食べ終わったあと、炭治郎は煉獄を連れて校門前に来ていた。学校は敷地内と外は壁やらフェンスやら門やらで区切られている。校門から外は山の中のように木が生い茂っていて、奥がどうなっているのかよく見えない。区切られた先がどうなっているのか、まずは確認してみようと思ったのだ。
「今日はこの区切られた学校の外があるのかないのか、検証してみたいと思っています!」
「……、竈門、盛り上がっているところ申し訳ないのだが、既に数年前に検証済みだ」
「いえ!もしかすると新発見があるかもですよ!いざ!」
「あっ、ちょっと待て!!」
煉獄が止める間もなく、炭治郎は校門をひらりと飛び越えてしまった。そして、校門前には煉獄だけが取り残されてしまった。
「……、だから待てと言ったのに。はぁ、彼、意外と無茶をするなぁ。迎えに行ってやるか」
煉獄は校舎の玄関のリスポーン地点に向かった。煉獄の予想通り、炭治郎が気絶した状態で転がっていた。煉獄が炭治郎の頬をちょいちょいと指先で突くと、うぅんと唸って炭治郎が起き上がった。
「あれ、俺、死んでました?外に出ると死んじゃうんですかね?」
死んでいたというのにケラケラと笑う炭治郎に、煉獄は頭を抱えた。煉獄が一度窓から炭治郎を突き落としたことがあったが、あれで死ぬことにすっかり慣れてしまったようだ。
「君、意外と大胆だな。止める間もないよ」
「そうですか?使命があると意外と止まらないものですよ。そんなことより、次は別方向のフェンスを乗り越えてみましょう。もしかすると、違うところに出たりするかもしれません」
「いや、どこも同じだと思うが……」
「やってみない事にはわからないじゃないですか!次行きましょう!」
次に炭治郎は、校門とは裏側にあるもう一つの裏手の門を飛び越えてみた。またも炭治郎の目の前はブラックアウトして、次に気がつくと校舎の玄関前で煉獄が呆れた様子でこちらを覗き込んでいた。
「君も懲りないなぁ」
「そりゃ始めたばかりなので。煉獄さん、次は二人で飛び越えてみましょう。もしかすると、二人で飛び越えると違うかもしれません」
「人数の問題かなぁ……」
煉獄の手を引き、改めて校門前に立った。煉獄も渋々だが、提案に付き合ってくれるようだ。互いの手を握って校門を思いきり飛び越えてみた。
結果、いつもの校舎の玄関前で二人仲良く手を握って転がっていた。
「うーん、数の問題ではなさそうですね」
「そうだろうよ」
「でも安心してください!絶対俺がここから煉獄さんを卒業させますから!」
握っている手をぶんぶんと縦に振る炭治郎に、煉獄は笑ってしまった。
「君は面白いな」
「あ!今馬鹿にしたでしょ!?俺は本気ですよ、絶対ここから煉獄さんを卒業させるんで!」
「その気持ちだけでありがたいよ。俺も君がここから卒業できるように手伝うよ」
このあとも色々なところから学校外に飛び出してみたが、結果はどれも同じだった。20回目辺りで煉獄が、いい加減玄関前に君を迎えに行くのが面倒なんだが、と言われてこの日の探索は終了となった。
次の日は、校舎内に怪しい箇所が無いかの捜索を行った。煉獄は、既にほぼ校内中捜索していると言ったのだが、諦めの悪い炭治郎がそれでもと言うので渋々付き合っていた。そんな探している最中に、たまたま通りかかった理科室で炭治郎が天体望遠鏡を見つけた。天体望遠鏡を見たことがない炭治郎は、三脚の上にある長い筒を見て、最新式の射影機か何かだろうかと首を傾げた。
「これってなんですか?」
「あぁ、これか、天体望遠鏡というものだ。夜空の星を見るためのものだな」
「星?星って点ぐらいにしか見えないですけど、それ以外何か見えるんですか?」
「天体望遠鏡を覗き込むと、色々と肉眼では映らないものまで見えるぞ。ここは条件が良いから、オリオン大星雲やアンドロメダ銀河なんてのも見えるんだ。竈門が興味あるなら、今日の夜、一緒に見て見るか?」
「えっ、でも、煉獄さんをここから早く卒業させる手がかりを探さないと……」
「十年もここにいるんだ。今更数日延びたからと言って気にしないさ。それより、俺は竈門と一緒にもう少しだけ遊んでいたい。ダメだろうか?」
年上のようなのに、こんな可愛いお願いをされてしまうと炭治郎もノーとは言えなかった。
「くっ、仕方ありませんね。ちょっとだけですよ。こちらの天体望遠鏡、借りられるように先生に言いましょうか」
「いや、竈門、既に君は今日の授業を受けていないのだから、先生に話しかけると怒られてしまうぞ。そして怒られた挙句、天体望遠鏡は学校の備品だから借りられない」
「じゃあ、仕方ないですね。諦めましょう」
「まぁまぁ、一日だけ借りてすぐに返せば問題ないだろう。拝借していこう」
そう言って、煉獄は天体望遠鏡を手際よく分解して担いでしまった。
「またそうやって、怒られてもしらないですよ」
「竈門も一緒に怒られてくれるんだろう?」
「……、もう!すぐそんな事言うんだから!」