「年、あけたな」
「だな。一時間前に」
年明けの瞬間に口では言えないようなことをしていたせいで、これが新年初めてのまともな会話だった。
悲鳴に近いような声をあげさせられたせいでひりつく喉にぬるくなった水を流し込んでいると、俺にも、と手が伸びてくる。そのままボトルを渡してやれば、一気に全部飲み干された。
空になって返ってきたボトルを見て沢北、と抗議の声を上げると、まだ汗の引ききらない体を抱きしめられる。
「お前な」
「まだあるっしょ。あっちに」
「じゃあ取り行けよ」
「んーそれより」
絡められた足にあたる感触から逃げるように宮城は腰を引く。硬く芯を持ったそれは、まるでまだ一度も出していないかのようだ。沢北の底なしの体力もこんな時ばかりは余計だと思った。
「お前、あんだけやってまだたりねえのかよ」
「たりるわけねえだろ。俺は二回しかイってないんだから」
お前と違って。
にやにやと笑って言われ、顔に血が集まる。手でも口でも挿入でもイかされた宮城は、正確な回数もおぼえていない。最後は中だけでイっていたのだから、そもそも数えられないのかもしれない。
「だからさ宮城。姫はじめといこうぜ?」
「姫はじめってお前、おっさんか」
「いいだろ。こういうのは男のロマンなんだから」
遠慮なく尻をつかんでくる大きな手に形ばかりの抵抗をしてみせる。なぜか沢北といるとずるずるとそういう方向に進んでしまうのだが、それを止める理性が今日はまだあった。年があけたことに厳かな何かでも感じているのだろうか。
「お前に付き合ってたら体がもたねえっての」
「だからいつも満足するまではしてないんだけど」
「……」
嘘つけと言ってやりたいが、あいにく宮城は沢北の言葉が真実であることを知っている。一度つまらない意地の張り合いで「ならお前がイけなくなるまでやってみろよ」と言ったら地獄を見たからだ。
気を失っても関係なく揺さぶられ、逃げようとすれば体格差で容易に押さえつけられた。しまいには泣いて許しを請うたのをおぼえている。許されなかったが。
結局次の日は体が使い物にならず、ベッドから起き上がれば床にへたりこんでしまう始末だった。
そんな宮城を見下ろす沢北の顔といったら、ファンの女性全員に見せてやりたいくらいだった。雄の征服欲に満ちたあの顔を。
それ以来宮城はこの手の会話に慎重になっていた。自分の身は自分で守らなければいけない。この男相手なら、なおさら。
「な、いいだろ? 宮城」
「だめっつったら?」
「言ってみるか?」
――言えるものなら。
あからさまな挑発だった。だが乗ってはいけない。乗った先は沢北のペースだ。のるかそるかは、勝機を見て決めるべきだ。
「だめって言ったらどうなるか試してみろよ」
「……いい」
「ん?」
「いいって言ったんだ。さっさとやれ」
宮城の言葉に、沢北は意外だという顔をした。
「へえ。案外冷静なんだな。ますます落としがいがある」
「そう簡単に落とされるかよ」
ポーカーフェイスの化かしあいなら宮城とて得意分野だ。
まるでこれから1on1でもするかのような視線をぶつけ合いながら、唇を重ねた。
「とりあえず、去年出したやつはかきだしてやろうな」
「んぅっ……ッ」
沢北が関節の太い指を二本まとめて宮城のまだやわらかい後孔に埋める。それだけで開いた隙間から中に入っていた沢北の精液があふれ出るのを感じた。
「あーくっそエロい……俺こんなに出してた?」
「お前のはいつも多いだろ。さんざん中で出しやがって」
「へえ? わかってたんだ。俺が出すころにはお前の意識なんてもう飛んでるんだと思ってた」
かきだすと言いながら、自然にこぼれ出てくる光景を楽しんでいるかのように沢北は宮城の広げられた足の間を眺めている。
「それでも腹ん中であれだけ出されればわかる」
「だったらゴムつけてほしい?」
「……」
「お前さあ、そこで黙るのほんと」
沢北の細められた目が獲物を見るように暗い輝きを帯びている。煽ったつもりはなくても、互いに煽られるのは得意だ。じゅぷっと音をたてて指が抜かれ、まとわりついた体液を下腹部に塗り広げられた。
「なら望みどおり、ここが膨れるまで中に出してやるよ」