ブルーグレイ&ブラック「ねぇねぇ、今度ここ行かない?」
嬉々とした明るい声色で犬飼は液晶を向けてきた。SNSのスクロールには沢山の小動物、うさぎたちと可愛らしいラテアート、女子の喜びそうなトッピングのケーキやクッキーの写真が散らばっている。
「んだよ、これ……」
「んー、いわゆるアニマルカフェってやつ?」
「……つーか、こーゆうの好きなのかよ」
「まぁね~」という曖昧に答えを聞き流し、うさぎがぴょこぴょこと耳を動かしている動画を眺めた。影浦は犬飼の興味対象なんて知ったこっちゃなかった。コイツは割と何にでも、好意的な反応を示す。そのわりには、決まって好きなもの、というのは数えられるほどしかない様子だった。気にするほうが馬鹿らしい。
「うさぎは普通に好きだよ。ほら、可愛くない?」
前に姉さんが友達と行ったらしくてさ。と聞いてもいない店の情報をペラペラと喋り始めた。
「カゲが嫌なら行かないけど」
「……別に」
苦手ではない、だが特段好きでもない。副作用も相まって幼少期から様々な感覚に敏感であったし、動物園のような人の集まるところには好んで行かなかった。ああいった場所には、ひよこやモルモット、そしてうさぎを撫でることが出来るふれあいコーナーが設置されている。狭い空間に、人間と動物が密集して、様々な感情や稀に動物にひっかかれるなど物理的な刺激を受信してしまい混乱することがあった。あまり良い思い出ではないが、大分昔のことだ。
「おめーが、どーしても行きてぇ、つうならな」
素直に言葉で表せないが、少し克服したいような、大人になって、また違った感じ方があるのではないかと影浦は淡い期待を抱いた。犬飼はぱちくり、と淡いブルーの瞳を見開いたあと、口角を上げて唇は理想的な弧を描いた。
「小動物が苦手だなんて……まさとくんはかわいいでちゅねー」
「ハァ?!んなこと、一言も言ってねぇだろうが!」
「だってさ?乗り気じゃないけど、嫌とも言わないから。面白いモノが見れるといいなぁ」
小さく舌打ちしたのち、言葉を発しなくなった影浦を少しも気に留めた様子もなく、犬飼はトークに位置情報を共有してきた。
「いっつもおればっかり、店決めたりしてさー。少しくらい振り回されといてよ」
犬飼は冷めて飲みやすくなったマグのブラックコーヒーを啜り、様々なうさぎが載った画像をブックマークしていく。ブルーグレイの瞳が美しい黒毛の子が影浦の膝に来てくれることを願いながら。