貴方のことをフルスイング! 孫悟飯は苛ついていた。それはもうとてつもなく苛ついていた。普段のにこにことした笑顔は消え、眉間にシワを寄せ、汗を流しながら只管走る。
「1号さん……!重すぎる!」
背中に意識不明のガンマ1号を背負いながら只管長い廊下を走っていた。
ブルマの命によりとある悪の組織をやっつけることになった悟飯、ピッコロ、ガンマ1号と2号。敵自体は大した強さではないらしいが、規模がでかいらしい。その為一般の地球人相手に過剰ではないかと思われる程の戦力投下となった。
アジトに着いた4人は2グループに別れて潜入することになった。館内図の把握データ破壊が必要な為にガンマ達をわける必要がある。
色々と話し合った結果、くじ引きによりピッコロと2号、悟飯と1号というグループ分けがなされたのだった。
さぁ潜入開始だとピッコロ達と別れて悟飯と1号は人気のない扉からこっそりと建物内へと侵入する。真面目な二人である。潜入は順調に進んでいった。
「見つけたぞ、コンピューター室だ」
「扉、開けられますか?」
「問題ない」
目当ての部屋にたどり着いた二人、1号の手によって扉のロックはいとも簡単に開かれた。
「無用心ですね、誰もいない……」
部屋には誰もいなかった。大きなコンピューターがカタカタと稼働音を鳴らしてそこに存在しているだけだった。
「データ破壊を開始する」
今はいないだけでいずれ警備の人は来るだろう。1号は素早く任務に取り掛かる。しかしここで問題が発生した。
「まずいな……」
「何が?」
「データが膨大すぎる、あと防御プログラムが相当のものだ。解除には時間とエネルギーを相当使う……」
どのくらい掛かるのか尋ねると4時間は軽く超えるらしい。家に帰れるのは大分先だなと悟飯は苦笑いするしかなかった。
カタカタカタカタ……
「もうすぐ4時間……警備ざるすぎませんかここ……」
悟飯の指摘通り、警備が甘々だった。4時間の長い間誰もこの部屋に来なかったのだ。1号は絶賛仕事中だが正直悟飯はやることがない、つまりかなり退屈な時間を過ごしているのだ。
「ピッコロさん達どうしてるかなぁ……」
「……悟飯……」
コンピューターに向き合いずっと黙りこくっていた1号が悟飯を呼んでいる。その声はとても小さく弱々しいものだった。
「すまない……エネルギーが切れる……」
「へ?」
「データは破壊した。だがもう私が限界だ、すま……あ、とは……たの…m…」
ピーーーーーー
「へ?!」
1号からビープ音が鳴り、そのまま動かなくなってしまった。
「え、ちょっと!?そんな急に動けなくなるんですか!?てかもっと早く教えてくださいよ!」
古いテレビを直すかのように頭をバシバシと引っ叩くが悟飯の手が痛くなるだけで1号は全く動かない。
悪い事とはたて続けに起こるものだ。何度も声を荒らげながら1号を叩き続ける悟飯にいよいよ敵が気づいてしまった。
「侵入者有り!侵入者有り!殲滅せよ!」
建物中から警告音と共に聞こえる放送。そしてバタバタと廊下に響くこちらに向かってくる沢山の足音。
「嘘でしょ!?」
悟飯、絶体絶命である。
「追えー!敵は手負いだ!数で攻めろー!」
「来ないでくださーい!」
そんな感じで只今逃走中の悟飯。敵は事前に聞かされていた通り確かに強くはない。しかし規模は情報よりかなりの差があった、悪い意味で。
塵も積もればなんとやら……一人一人は大した実力でなくても、悟飯を疲れさせるには十分過ぎる数だった。
「1号さん本当重い!この人の素材なんなの!?」
実は疲れている理由の6割は背負っている1号なのだがそれは悟飯しか知らない。
「ぜぇっ……はぁっ……くっそ……!」
普段は穏やかな口調は次第に荒いものへとなっていく。いっそのこと建物すべてぶっ壊してやろうかとも考えた。考えたが無闇に人を殺すわけにはいかないので脳内会議で却下された。
「早く……帰りたい……!」
今朝悟飯は家を出る際に大事な妻からメッセージを受け取っている。
『今夜は頑張る悟飯くんの為に沢山、美味しいご飯用意してるわね!』
「ビーデルさんの美味しい手料理……!」
いつも美味しいご飯を用意してくれている、それでもやはりそんな言葉を貰ったら特別感が出てしまう。つまり悟飯にとって今夜の夕食は超重要案件なのだ。
「ご飯食べるビーデルさんパンちゃん中華和食洋食ピッコロさんにはお水……」
呪文のように口からは楽しみな夕食への強い想いが紡がれていく。
「疲れた帰りたい早く帰りたい速攻帰りたい1号さん重い敵多すぎる殺しちゃ駄目だよ1号さん本当重い……」
呪詛のように口からこの状況への文句が紡がれていく。
「侵入者が動きを止めたぞ!チャンスだ!殺せー!」
プツンッ
悟飯は限界突破した。
「鬱陶しいんですよぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「ギャァァァァァ!!!!」
近付いてきた数十名の兵士が遠くに吹き飛ばされる。
「あ、あいつ!仲間をバット代わりにしやがった!?」
「なんてやつだ!鬼か!?悪魔か!?」
兵士達は恐怖した。先程まで背負っていた仲間を床に降ろしたと思ったらそのままバットの様にフルスイング。野球選手顔負けの勢いのあるバッティングで人をボールのように打ち飛ばしたのだ。
「流石1号さん……硬いですね……これなら幾らでもフルスイング出来そうです」
足を掴まれた1号、悟飯が歩く度に頭のヒレがゴリゴリと床に擦れているが気を失っているため文句を言うことはできない。まさか自分を凶器として使用されるとは思っていなかっただろう。
「さぁて、次は誰が吹っ飛びますか?大丈夫、死なないように手加減はしますから」
「ヒィィィィ!」
「待っててボクの夜ご飯ー!!!!」
その場にいた全員悪魔の手によりふっ飛ばされた。
「む!悟飯!無事だった…………か?」
「あ、ピッコロさん!すみません心配かけて」
先に出口に辿り着いたピッコロと2号は出てくるのが遅い悟飯達を心配して中へ戻ろうとしていた。そんな中現れた悟飯にピッコロは安堵したのだが、潜入前と様子が違い困惑している。
「え、悟飯?その肩に担いでるのって……」
「1号さんですよ、エネルギー切れだそうです」
「やっぱり!1号がエネルギー切れるなんて……え、あの……?」
悟飯から1号を引き取り、状態確認をしようとした2号は直ぐに異変に気付いたのだった。
「1号!?なんで頭少しへこんでるの!?ヒレが曲がってるの!?え、ボク達そんじょそこらの攻撃じゃこんな風にならないよ!?何があったの!?」
「すみません、ちょっとフルスイングしたらへこんじゃって……」
フルスイング!?この状況で出ることは無さそうな単語に2号はわけがわからなくなっていく。そんな2号に悟飯はにっこり笑顔でこう告げるのだった。
「ヘド博士に伝えておいてください。軽量化お願いしますって」
終