《『あーん』しますか? ▶する しない》――――――――――――
文献ではなく生まれてはじめて本物のりんご飴を目にしたハッサク少年。
(こ、これが本物のりんごあめ…!すごくきれいですけど、こんなに大きいもの…どうやって食べるのでしょう…?!)
(不肖ハッサク。みじゅくの身なれど竜のまつえい…心にきめたひとの前でぶざまは晒せないのです!)
(…💡)
「おねえさま!アオイおねえさま!このりんご飴なるもの、ハッサクといっしょに食べましょう!」
「こんなに大きいのですから、きっとこれは二人ぶんにちがいありません!」
「外の世界のつがいたちは、飢えていなくとも一つの食べ物を食べさせあったり、飲みものを『すとろお』でわけあったりするのでしょう?」
「ぼくもそれをやりたいです。アオイおねえさまとやりたいです!」
「『あーん』して下さい、おねえさま!」
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《『あーん』しますか?》
▶「ひ、ひとくちだけだよ!」
「ちょっと恥ずかしいかも…!」
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きらきらと陽色に輝くまなざしに負け、アオイはりんご飴の端っこを噛む。
金髪の少年は嬉しそうに笑った。反対側の薄く、赤色に透き通る飴の際をかじって――ばきりと砕く。
「見た目は宝石のようですが、あんがいやわいのですね。でも、とてもおいしいです」
ばきりばきり。
ちいさな少年の口の中で、容赦なく飴の砕かれる音がする。
わたあめでも食べているみたいに、かんたんに硬い飴を噛み砕いて食べ進める姿に、よっぽど気に入ったのかな、はんぶんこって言ってたけど全部丸ごとあげちゃおうかな。さすがにこれ以上は恥ずかしいし、……と口を離そうとして。
「おねえさま」
……まっすぐに飛び込んできた陽色のまなざしに、ギクリと体が固まった。
「はなれてはだめなのですよ。だってこれは、ぼくたち二人のもの……」
すす、と腰に手が回る。
「つがいは、めおとは、分かち合うものなのでしょう?」
自分よりも華奢なこどもとは思えない力強さで、きゅうっと抱き締められる。
「……でも、ごめんなさい、つい食べすぎてしまいました。こんなに赤くて、甘くて、おいしいものを、生まれてはじめて食べたものですから。あとは、おねえさまが召し上がってくださいませ」
……なんて、言われても。一周り以上小さくなったそれに二人で口付けたらどうなるかなんて目に見えている。
「おねえさま。アオイおねえさま」
あらわになった中身のりんごに舌を伸ばして、少年は夢見るようにうっそりと目を細めた。
「おねえさまのその真っ赤なほっぺたも、くちびるも、……とても甘くて、おいしいのでしょうか」
――アオイからは見えなかったが、あどけなく微笑む少年の口許には、きらりと一対の牙が――竜たる証がきらめいていた。