『あなたに逢えてよかった』――――――――
遠くにガーディの遠吠えを聞きながら、夜の廊下をたったと駆ける。
アオイは美術室を目指していた。
宿題をやろうと鞄を開けたら、筆箱が入っていなかったのだ。今日最後に受講したのは美術だった。デッサンの時に使って、そのまま忘れてしまったのだろう。
アカデミーは夜も開講している。とはいえ、昼に比べればやっぱり少しだけ静かだ。自分と同じような年の子どもが減り、社会人の生徒が多くなるからかもしれない。
だからアオイは気が付いた。
扉の向こうの鼻歌に。
「……?」
どこか聞き覚えのあるフレーズだった。今よりもずっと小さな頃、アオイはこの歌を聴いていた。なんとなくママを思い出し、懐かしい気持ちが込み上げる。
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