ニーベルに着いてからもヘクターは相変わらず少し距離を置いたまま、周囲の様子に目を光らせていた。
住民と会話するジェラールを、離れた場所からじっと見ている。格闘家に近況を尋ねている時は、どこか苛立つような視線をその男に向けていた。必要以上に踏み込んでくることはなかったが、その態度には始終とげとげしさが残っていた。
とはいえ町の様子は把握できたし、住民の笑顔が見られたことにせめてもの救いを感じた。
そうして帰城する頃には、ひどく疲労がたまっていた。
理由ははっきりしている——どう考えてもヘクターのことばかり気にしていた自分のせいだ。
体も心も重い。こういう気分の時は、決まって夢見がよくなかった。
夜も幾分か更けた頃、ジェラールは自室で灯りも落とさないままベッドの縁に腰掛けていた。
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