それからの日々は、淡々としていた。
公務に追われ、報告書に目を通し、臣下の言葉に相槌を打つ。でも、どの場にもヘクターの姿はない。
書面に目を落としていて、文字が頭に入ってこない時があることには気づいていた。
廊下を歩いていて、ふと振り返ってしまうことがある。気づけば足音を探していたり、視線を感じて立ち止まったりすることもあった。
夜中に何度か目が覚める。そのたびに冷えた体を一人で小さく丸めていた。
怪我はしてないだろうか、無事でいるだろうか。早く帰ってきてほしい。顔が見たい。
それでも口には出さなかった。誰にも、なにも。
そうして何日が過ぎただろうか。今日もまた同じように一日が終わる、はずだった。
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