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    おるぴ

    ちょっと見せたいけど、あんまり見せたくなくて、でもやっぱり見せたいな〜〜〜!!

    ってものをポイっとするだけ

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    おるぴ

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    discord企画の話2

    ことほぎのうた(この子の名前どうしましょう。こんなに可愛い子だもの、もっと良い名前にしなくちゃ…)
    (それなら、お守りになる名前にしよう。こんなに可愛かったら、神様に攫われてしまうよ)
    (もう、それは無いわよあなた!)
    (だってほんとに心配じゃないか……)

    (でもこの子が困難に直面した時は、きっと妖精たちが助けてくれそうね)
    (もしもこの子が人生で迷った時は、きっと妖精たちが導いてくれるだろうね)

    (…やだ、私たち同じことを考えていたの?)
    (はは、これは神様の導きかもしれないよ?)

    (それじゃあ決まりね)
    (あぁ、そうだね)
    ((巫師ラムアンの名の下に、其に授けし名は───))



    「「アルファル・ラムアンさん、こんにちは」」

    不意に軽やかな声で名前を呼ばれ、考え事をしていたアルファルは顔を上げて振り返る。
    工房の入り口に立っていたのは三人。来客の呼び鈴を聞いて玄関に行ったと思ったら、「ぎゃあっ!?───……様!?」と叫び、真っ青な顔で戻って来たエッダ。
    もう二人は、エッダの手の上でどこかで見た封筒を持ちながらちょこんと佇む、初夏の風のような妖精さん。

    うーん、なるほど。これはつまり。

    「白昼夢ってやつだね?」
    「んなわけありますか!!」

    飛び蹴りを喰らわす勢いで怒る従者に、主人は畏まって居住まいを正す。そうだよねぇ。夢じゃないってことは、そちらはマチカさんとミチカさんだよねぇ…。
    くすくすと木の葉が擦れるような笑い声に、アルファルの頬がふわっと赤くなる。しまった、と慌ててコホンと咳をして取り繕い、工房の中で唯一綺麗な丸テーブルにお通しした。

    行商で使う紺のハンカチを一枚敷いて、先日アミュレットのお代としてもらった生糸の束をソファのように置く。エッダの手からひらりと降りた二人が座るのを待ってから、アルファルは椅子に腰掛けた。

    「えぇと、今日はようこそ。ご用件を、お聞き、します……」

    改まって絞り出した声は、ぽそぽそとしてなんとも情けなかった。……仕方ないじゃん、好きな人たちが目の前にいるんだよ?

    先日、エッダが大慌てで小さな便箋と羽根の腕輪を持って来た時は、アルファルは驚いて椅子ごとひっくり返ってしまった。まさか承諾の返事が来るとは想像していなかったし、それこそ白昼夢のような出来事だったのだから。
    そんな二人を目の前にして、気恥ずかしいような顔を覆ってしまいたいような、こそばゆい衝動でそわそわとするアルファルにクスリと笑って、彼女たちは封筒を開いて文字が詰まった紙を出す。

    彼の呼吸が一瞬止まった。
    見覚えのある手紙に、馴染み深い筆跡。
    書いた人物はもちろん───目の前のアルファル本人だ。

    「ぇあッ」
    「あぁ、これは……先日うちのご主人が書いた恋文ですね」
    「や、待って……!ぁ、うわ、……うわぁ……」
    「はいご主人目を逸らさない!話を聞く!!」
    「ええぇ……」

    従者にせっつかれて、なんとか手紙に向き直ってみる。……が、やっぱ無理だよとアルファルの顔がきゅっと縮んだ。
    沸いた頭で書いた文章を素面の時に読む恥ずかしさといったら、それはそれはもう控えめに言っても「無理」の一言に尽きる。堪らず突っ伏したアルファルの耳がぽかぽかと温かくなると、まるでイタズラが成功したかのように、彼女たちはきゃらきゃら笑っていた。
    鈴のように響く笑い声を聞きながら、たとえ自分が羞恥を被ろうが、こういうところも引っくるめて好きなんだよなぁ…と、彼はつい幸せを噛み締めてしまった。

    「「それでね、この文字はなぁに?」」

    閑話休題。
    彼女たち曰く、回答の便箋に書いてあった通り、布団にして眠ったら夢見が良かったのは事実だったそうで。何か仕掛けがあるのかと目を付けたのが文末の奇怪な文字であり、今日は近くに立ち寄ったついでに、その意味を聞きに伺ってくれたのだという。
    というかお二人はハイソン村までどうやって来たんですかとか、道中お手紙重くなかったですかとか、次は塔までお迎えにあがりますとか、頭の中をぐるぐると駆け回っていた言おうとした言葉が全部綺麗に吹き飛んで。

    「あ、おまじない効いてたんだ……」

    という合点だけが、ピンと閃いた。
    おまじないという言葉に首を傾げる彼女たちに、アルファルはハッとする。
    彼女たちがこのおまじないを知らないのは至極当然で、アルファルが手紙の文末に添えていたそれは、彼が極北の山で巫士をしていた頃から依頼の手紙に添えていた、所謂“癖”のようなものであった。
    一応、相手の魔を除け幸運を願う効果があるらしいが、実際効くかどうかは個人の感じ方次第である。そもそも王国に地元のような神様がいるか定かではないのだが、もしこの言葉が彼らに届いていたら、身を委ねた彼女たちへ微笑んでくれたのかもしれない。

    故郷を思い出し、懐かしくなってフッと微笑んだアルファルは、姿勢を正してから巫士としておまじないについて語り出す。
    自分のような巫士は目に見えない神様を信じ、その力を借りていること。この文字は力を借りる手段の一つで、大祖母から教わったものであること。古い文字で“あなた達に祝福を”と書いてあること。

    「だからきっと、マチカさんとミチカさんに祝福があったのかなって」

    えへへ、と少し緩んだ笑いで締めると、彼女たちは顔を見合わせる。暫しの間の後、もう一度木の葉が擦れるようにくすくすと笑い合って、納得したように立ち上がった。
    帰られるのかと思い、二人に差し伸べられたアルファルの手は、小さな二組の諸手によって引き寄せられ、手紙に記された古い文字の上に添えられる。
    突然のことに驚いた彼に、彼女たちはまじないの歌でも歌うかのように告げた。

    「「これからは、“あなたたち”のなかに“あなた”も入るのよ」」

    至極当たり前のように言い切って、きゃらきゃらと満足気に笑っている。
    そんな彼女たちに目を丸くしながら、アルファルは小さく「あ、」とこぼした。


    ((───極北の巫師ラムアンの名の下に、其に授けし名は“アルファル”))
    ((妖精[アルファル]の加護が、この子の未来を包み込みますように……))


    遠くで聞こえた声は、亡くなった両親のもの。
    この声でたくさん愛情を注いでもらっていたのに、日々に忙殺されて忘れて久しかったもの。
    今この瞬間になって突然思い出すなんて、思ってもみなかった。
    まるで神様から気まぐれに与えられた啓示、あるいは祝福のようで───。

    アルファルは感嘆するように、あぁ、と溜息を吐いて面映く笑う。

    「……はい。これからのぼくらに、祝福がありますように」

    そう短く呟いて、頭を垂れた。



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