あなたのお馬 シャクシャクと霜を踏みしめる音が、まだ藍色の空のしたに響く。少年は足元に残る雪を踏みしめ、祖父が歩く道をつくってやる。澄み切った春の空でも、北海道ではまだ雪が深い。重たいスコップを祖父の代わりに持ってやり、少年は大きく足を鳴らして雪を踏んだ。
「坊は今年でいっつになったんやな?」
「とぉ」
「おお、もうそげん年か。ふてねえ」
冬に膝を痛めたという祖父は、孫の名前を覚えない。男の子はみな坊で、女の子はオコジョである。ついでに年も覚えない。去年も似たような質問をされた。きつい薩摩訛が残る祖父の言うことは、少年には半分も理解できてはいないが、穏やかな慈愛がともる瞳で見下されるのは悪くない。父には怖い人だから怒らせるな、と度々言い聞かされてはいたが、膝をすりすり時々立ち止まらなければならない老人を恐れるというのも難しい。
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