終末の死神が問う ヒトは脆く崩れるって知っているかしら。
例えば、自分よりも偉大たるモノに出会った時。例えば、現実を超えた存在を見た時。例えば、自己の尊厳を踏み潰されそうになった時。とにかく何でも構わないわ。其れがあまりにも自信の知る世界からかけ離れていればいるほど、ヒトはソレを恐れて足を踏み外す。そして崩れて壊れてしまう。
元から足場が小さいヒトも勿論いるわ。足場が大きかった筈なのに、追い込まれて崖に伏す羽目になるヒトもいるのだけどもね。足場が小さいヒトは気の毒よねぇ。だって、大きな異物が同じフロアに立っていたら狭過ぎて押し出されて落ちてしまうじゃないの。
ああ、ヒトが高望みする野望を掌握されたり、握り潰された時なんかは特に状況が躊躇よね。自身が偉大であると信じていた、疑っていなかったのに、呆気なく斬り込まれれば立っているはずの踏み場が気付けば小さくなる。そして滑り落ちていく。
「そして言われるのよ。バチが当たったんだって」
黒い長髪の女性は静けさを宿す三日月のように笑ってみせた。ただ其処に立っているだけ。そして笑っているだけ。それだけ。
「貴方は如何かしら?」
手元には何も持っていない。武器なんて見当たらない。本当に、本当の無防備であった。それだけども彼女はただ、凛とした瞳を向けて立っているだけ。彼女がいる。だけ。
切り立った崖のすぐ手前。手元には拳銃が一丁。崩れ始めている地面には二人も乗っていられない。ならば突き落とすべきは──と手元に握り締めた漆黒の拳銃を向けるものの、銃口は呼吸に合わせて揺れ動く。
「教えなさいよ。貴方は、脆くなったヒトかしら」
一発。赤が彩った。
ジワリと溢れて、染まって、伝って、床を塗る。
そして女はその赤を口元に運ぶのだ。白い肌を彩るルージュを唇に塗って、目を細めて笑うのだ。
「あら…そう、其れが貴方の答えね」