悪戯娘と悪戯坊主 それは本当に可愛らしいただの悪戯心じゃった。
頭に矢が刺さっているように見える玩具と血糊が手に入ったからそれで遊ん……ごほん! 何か縁結びに役立てられないかと試行錯誤していた我は、たまたま鬼童丸が木陰で寝そべってぼんやり空を眺めておるのを見つけた。
うん、いかにも暇そうじゃ。丁度良いところに丁度良い暇人がおるではないか。鬼童丸にはこれまで散々脅されてきたしたまには少し驚かせてやろうと思って、玩具を装着し、血糊で頬を飾ると、なかなかに恐怖を煽る姿に仕上がった。
準備万端。そろりそろりと鬼童丸の背後から近付いて、努めて弱々しく声を掛ける。
「おぉい助けてくれぇ……矢を、射られて……」
いかにもつらそうに、息絶え絶えにふらつきながら鬼童丸のほうへ手を伸ばすと、奴はあからさまに動揺して立ち上がった。我ながら渾身の演技。これは芝居でも食っていけるのではないか?
「神明…さま…?」
「なぁんてな! ただの戯れじゃ! よく出来ておるじゃろ、驚いたか?」
優しい我は、狼狽える信者に早めに種明かしをしてやった。矢の玩具を頭から取り外してみせると、まんまと呆気に取られておる。鬼童丸め、本当に我の頭に矢が刺さっていると信じたようじゃ!
悪戯は大成功……あれ?
「……」
「何じゃ? どうして鎖を構えるのじゃ?」
鬼童丸の様子がおかしい。何故ここで鎖を手に取る必要がある? 種明かししてなぁんだ良かったびっくりしたなぁ〜で終わりではないのか?
嫌な予感がして一歩後退りをすると、奴も一歩踏み出してくる。何だか背筋がひんやりと冷えてきた気がするぞ。
「僕の大事な神様の頭に矢を刺すなんて酷いことをした犯人に、信者としてお仕置きをしないといけないからね」
鬼童丸はにこやかに笑っておる。こんなにも相手に安心感を与えない笑顔が世の中にあるじゃろうか。
というか犯人にお仕置き? いや待て我、詰んだのでは? だって犯人は、我……
「け、敬虔な信者で嬉しいぞ。じゃが今日はその気持ちだけ貰っておこう! またな!」
こんなところに長居は無用じゃ。
素早く走り出す我と、すかさず飛んでくる鎖。
「ねぇ、こんなことをするってことは神明様は暇なんだよね。遠慮しないで。僕が構ってあげるからさ」
うぅ、悪戯心なんて出すものじゃないのぅ……