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    扶揺の正体のネタバレあり/本当にモブ小神官の話/BL要素なし、ほっこり系好きな人は好き?自己満

    《あらすじ》
    玄真将軍みたいなかっこいい人になりたいと子供の頃から慕情を憧れたモブ男。そんな時に玄真殿の採用枠募集がありあわてて応募しなんと採用される。しかし思っていた以上にモブ男はうまく仕事をこなせなくて──。

    玄真殿に入った新米モブ小神官君の話 じゃり、と地面にある小石が音を立てた。黒を基調とした厳かに佇む門。その先に神秘的で緊張感の漂った大殿がある。 

     僕は今日から玄真殿で見習いとして働くことになった中天庭の新米小神官、モブ男。幼いの頃から玄真将軍は僕のあこがれだった。うちは貧乏だったからおこづかいも少なくて、周りの友達とは馴染めず、距離があり、疎外感を感じることも多かった。でも、心を強く持つことができたのは同じ境遇でも強くたくましく逆境に立ち向かい天界の上位神官の座まで昇りつめたあのお方がいたからだ。

     父親は不慮の事故で亡くなり、女手一つで育ててくれた母親も父の事故死をきっかけに身体が弱くなってしまった。家には床にこもってる母とまだ小さい弟がいて、十五歳の僕がお金を稼がなければならなかった。生活が苦しく他の同い年の子達が楽しく学校に通う中、僕は働かなければならなかった。あの頃、僕が曲がらずに育ったのも、玄真将軍がいたからだ。小さい頃からずっと憧れだった玄真殿が今、目の前にある。

     彼に憧れる天界の子供達の夢は、なんといっても彼の下で働くことだろう。ちなみに給料も天界一だ。労働時間は記載されてなかったから不安はあるけれど、まあなんとかなるだろう。

     玄真将軍の元で修行をして強くなりたい。そう願ってる人はこの天界にも星の数ほどいる。しかし、玄真殿で小神官として働いてるという人の噂を聞いたことがない。その中で神は僕に手を差し伸べてくれたらしい、前代未聞の玄真将軍の小神官、面接採用試験がついこの前行われることを知って僕は真っ先に応募した。

     基本的に上天庭の神官は人間時代に親しくしていた従者を点将させて側につけることが多いが、それ以外にも中天庭から募集されて入ってきた同神官の方が実は多い。玄真将軍は点将させた神官の話は聞いたことがなく、噂では自分一人で仕事を回してるらしい。下世話な人間は周りに信頼できる人間がいないとか言う奴もいたが、僕は気にしなかった。

     試験は筆記、実技、集団討論。幾度もの試験に試されそれでも血を吐く思いで諦めなかった挑戦者だけが、玄真殿のこの門をくぐることを許されるのだ──そう、僕はその試験に幸運にも突破した。

     僕は一歩、また一歩と、地面を踏み締め、門をくぐった。


    ***


    「全然ダメだ!!!」

     先輩神官のヒステリックと言ってもいいだろう高らかな声が響いた。耳がキンとなって、でも耳を塞ぐなんて真似したら余計に怒らせることは分かってるので我慢する。

     あれから三ヶ月が経った。
     思ってた以上に僕は使えない人材らしく、採用されていた頃の浮き足だった気持ちは一ヶ月もしないうちに限界まで萎みしわしわになっていた。

    「す、すみません……」
    「おい、上司に謝る時はすみませんじゃないと何回言えば分かる。正しい言葉を使え。TPOだ、分かるか? それにお前、掃除は甘すぎる、ほら、淵の部分がまだ埃がのこってる。こういうのはテープとか棒を使ってやると──」

     ああ、また始まった。と無意識下にげんなりとしてしまい、そんな自分に嫌悪する。先輩は解説が始まると一時辰ほどしゃべる。もっと要点だけ喋ってくれよ、と考えるのは悪いことだろうか。

     玄真棒(溝を掃除したいときに使う玄真将軍の掃除用具)の作り方を熱心に説明する先輩。肌の色素は薄く、唇は薄桃色で、艶々している。男の僕ですら初めて見た時はドキドキしてしまった。こんな素敵な先輩に仕事を教えてもらってるのだから、頑張らなくては──。

     そう奮闘するも、なかなか僕の従者としての能力は向上しなかった。緊張してなのか、メモが悪いのか、もともと器用じゃないからだろうか。僕は先輩の五歳下の弟よりも飲み込みが遅いらしい(先輩がぼやいていた)。受かった時はあんなに浮かれていたけれど………そろそろ玄真将軍に呆れられて、解雇されるかもしれない。まあ僕如きでは面接の時以外一度も見たことはないが。

     チラリと先輩を盗み見る。今日だけでもこの人はかなり多くの範囲、掃除をこなしてるというのに衣類は何一つ汚れてない。先輩に少しでも落ち度があれば「先輩だって出来てないじゃないか」と小言の一つや二つは吐けるのに。顔も技術も一流。この人には欠点が見つからないことに尊敬と落胆と。
     出来損ないの僕は先輩が秀でれば秀でているほど、自分が情けなくなった。僕の表情が曇っていることに気づいたのだろうか、先輩は頭を横に傾けて、目を細める。まつ毛が長い。

    「………新米、不満か?」
    「……え? いえ、そんなわけじゃ……」
    「お前、何のためにここに来たんだ?」

     その言葉に、胸がズキンと痛んだ。
     咎められてるような気がした。「新米」と呼ばれるのもまだ認められてないからだ。先輩が僕の名前を呼ぶ日は来るのだろうか。そもそも覚えられてすらいないかも。
     考えれば考えるほど落ち込んで、ぎゅっ、と拳を握りしめた。何のために来たのかなんて、そんなの決まってる。

    「玄真将軍に……ずっと憧れていて……僕は、周りの子よりもいつも弱くて、負けてばっかりで……強くなりたくて、あの人みたいになりたくて……」

     最後の方の声が尻すぼみになる。つげはぎで弱々しく、声は震えた。今の僕を誰が玄真殿の従者だと思うだろう。あの人みたいになりたい、なんて。そんなこと言うのは百年どころか一万年早い。同神官の先輩に比べても月とスッポンどころではない埋められない差がある。そもそもなんで僕が試験に受かったのかすら分からなくなってきた。もっと適任の人がいたのではないか。

     あまりにも玄真殿の従者として、らしくない僕の態度にイラついたのか先輩が険しく眉を寄せた。

    「お前、神官になりたいのか?」
    「え?」

     急な質問に面食らう。僕は先輩の尋ねる意図を理解しようとする。
     ここにくる人、というか世間体の話で言うなら、上天庭の神官の下で働く中天庭の同神官は大体がいつかは飛昇して自分の殿を持ちたいと思っている。もちろんそれが出来るのは玄真殿の小神官になるよりも遥かに難しく、それこそ選ばれたもののみの話だけど。僕は分からなかった。ただ玄真将軍みたいに強くなりたかっただけだから。

    「……分かりません」

     先輩はどっちつかずな僕に冷ややかな視線を送った。

    「分からなくてここに来たのか」
    「…………そう、です。ここに来たら何か変われると思いました」
    「ふん、ざっくりしてるな。浅はかなやつだ」

     浅はか、という言葉が僕の心を抉った。確かにそうかもしれない。もう辞めてしまおうか、頭にそんな考えが遮った。

    「僕は、」と弱々しく漏らす。

    「……神官になるどころか、玄真将軍の下で働くことすら……資格がない、のかもしれません。記憶力も良くないし、掃除も完璧にできないし。………才能がないんです」

    「……」

     才能がない。
     この三ヶ月、幾度も思ったことだ。いや、もっと前かもしれない。むしろ、物心ついたときから感じていた。コンプレックスですらあったと思う。──なのに、僕はここまで来てしまった。いや、コンプレックスだったから変わりたくてここに来たのだ。だけど……。

     弱気な言葉にほとほと呆れたのだろう。先輩が笑う、あざ笑うような感じで。


    「才能?」
    「だってそうでしょう? 玄真将軍も、先輩も、才能がある。だから玄真将軍は沢山の道観をもっていて、こんなに立派な金殿があって──」

     天才に凡人の考えは理解できないだろう。だからわかって欲しくて一生懸命喋る。なのに、先輩の表情はどんどん曇っていく。今はもうほぼ睨んでる。

    「分かった」先輩が冷ややかに僕の言葉を遮った。

    「才能って言い訳して諦めて、おざなりな仕事しかしないんならお前はうちにはいらない。また代わりの人間を探すまでだ」

     意志のある、強くてはっきりした口調だった。ヒュッとうまく息を飲み込めなくて、苦しくなった。先輩が立ち上がる。踵を返した。

     行ってしまう。
     ああ、もうダメだ。やっぱり僕は……。

    「お前が」

     先輩がこちらを見ないまま、独り言のように、漏らした。語尾からどことなくさみしそうな、そんな空気がある。

    「お前が玄真殿 うちの試験で合格してここに来たのは、才能なのか?」

    「え」素っ頓狂な声が出た。何を言ってるのか分からなくてポカンとした。考えているうちにあの頃の自分を思い出して顔が熱くなる。

    「違います」

     すぐに答えられた。違う、才能じゃない。そんなもの僕にはないから、だから、必死に努力した。

     玄真将軍に会いたかった。弱い自分と決別したかった。
     先輩はしばらく黙ったあと、顔だけこちらを向いた。視線があった。その目元はさっきと変わらず冷たく何を考えているのか分からない。

    「そう」

     大して興味がなさそうに言う。そして……。

    「うちは出来る奴しか雇わないから」

    
 どくん、と心臓が大きく鳴った。息が止まった。元から赤かった顔が更に濃くなってやかんから湯気が出るみたいに、頭がぼふんと音を立てた。先輩の言う『出来る奴』は決して『才能がある奴』ではないと、そう言われているように思えてならなかった。先輩は僕を出来る奴だと認めていると錯覚しそうにさえなる。
     先程まで視線を彷徨わせていた僕は先輩をじっと見つめた。めんどくさそうに口をへの字に曲げているが、さっきより幾分恐くない。

    「次、弱音吐いたら道徳経百回清書の罰だからな」



    「せ、先ぱ……」


 

     呼びかけようとした時。

    「才能なんて言う前に、もっと出来ることあるだろう、(───)」







    「…!!」

     最後の言葉に驚く。こんなの余りにも不意打ちだ。

    「名前……覚えててくれたんですか?」





     凛々しい眉がひそめまれた。くだらない質問、というみたいな表情で。



 

    「当たり前だろう。お前は私の名前を知らないのか? 同じことだ。それより新米、明日までに私が言ったところ、きちんと掃除しておくこと、朝にチェックするからな」






     ビシリ、と指を突き刺される。親に昔、人を指で刺してはいけない失礼だから。と言われたけど今は全然嫌じゃなかった。ぱぁぁ、と僕の萎んでいた心の花が咲き、グンと背を伸ばす。





    「はい!!!」





     先輩が軽く頷き、今度は本当に去っていく。足取りは軽くて、品があって、背筋はまっすぐ伸びて胸を張っている。ゆらゆらとポニーテルの髪が揺れていて、勇ましい馬のしっぽみたいだ。先輩の勇ましい背中を小さくなるまで、ずっと見つめていた。


     先輩は、年は僕と同じくらいに見えるけど、その風貌はあの玄真将軍みたいだった。




     ああ、やっぱり、僕は──。







    ***



 


     **年後の玄真殿。



     真っ赤に染まる葉が見頃を迎えて、風が吹くとひらひらと葉が落ちる。
 
     僕はあれから先輩の血に汗滲む特訓と自己練習のおかげでめきめきと力を身につけて、今は玄真将軍の小神官達を収めるちょっとした役割を与えられている。


     大きな木の下で僕はチェックリストにひとつひとつチェックをいれる。この前から玄真殿 うちにきた新米くんにふった箇所を目指す。すぐに見つけた。

    



「あ、先輩」

    「やあ、調子どう?」

     あ、というよりは、げ、という顔をした新米くんは頼んでおいた庭の掃除がまだ全然終わってないようで曖昧に笑う。


    「大丈夫?」
    「全然大丈夫じゃないです、キツすぎます。玄真殿激務すぎません? もう俺帰りたいです」

     ハァ〜とほうきの柄の先に両手を重ね、額を置いた新米くんはわざとらしくため息をついた。自分もこのくらいふてぶてしければ見習い時代も幾分楽だったろうと、いっそのこと憧れてしまう。そして新米くんはこう切り出した。

    「先輩の頃って、まだ玄真殿の採用枠がほんの少数だったって本当ですか?」
    「……誰から聞いたの?」
    「扶揺先輩から」

     けろりとした新米くん。先輩にもうあったのか、と僕は息を呑む。

    「まあ、そうだね。……それより彼、どうだった?」
    「扶揺先輩ですか? そりゃーもうキッツイですよ。指示がもうエグすぎますって」
    「ふふ、まあ、そうかもね」

     新米くんは「あーああ」と両手を空の方に伸ばした。

    「先輩が入った頃って俺たちみたいな小神官、何人いたんですか?」
    「え?」
    「だって少数精鋭だったんでしょ? 今でもこーーーんなにやること沢山あるのに、当時はもっと少ないなんて超仕事出来ないと無理じゃないですか」
     
     よく知ってるなと感心しながら、新米くんの言葉にあたたかな感情が流れ込む。昔の自分を褒められたような気がした。いや多分褒められてる。

    「うーん、まあ当時は金殿ももう少し小さかったし、その分仕事も今ほどではないから意外と変わんないんだよ。まあでもあの時は……」

     玄真殿の使用人が当時何人だったのか、という問いに、一本指と二本指を躊躇いながら交互に出す。うーん、あの人をカウントして良いのだろうか……。悩みながら最終的に二本指を突き出した。新米くんが面食らった顔で瞳を大きく瞬かす。

    「ふたり?! ふたりで将軍を補佐業務をこなしてたってことですか?! それってまさか先輩とあの──」

     熱烈な新米くんの視線を全面に受けながら、こくりと頷く。

    「そう、扶揺先輩」
    「やっぱり!」
    「それって何人が採用試験に挑んでの合格した内の二人なんですか?」

     僕は乾いた声で笑う。そう、当時試験に合格したのは、現在も玄真殿のリーダーを努める扶揺先輩と、当時の僕。それ以外誰も合格しなかったのもあり暫定副リーダー(仮)となっていた。

    「そんなの数えたりしないよ」

     ……まあ、そうですよね。としぶしぶの返事が返ってきた。きっと沢山いたんだろうな、と彼がつぶやく。

     自慢しているようで嫌なので正確な数字は言わないが、覚えてるところで一万人はくだらないだろう。当時、正直に言えば選ばれた優越感でいっぱいだった。だからこそ、玄真殿に入ってばかりのあの時は自分は何でもできると思っていたし、天狗になっていたのかもしれない。

    「将軍に選ばれしふたり……」

     新米くんが十本の指をぎゅっと握り、何度も頷きながら輝かしいものを見る眼差しでこちらを見てくる。なんだかむず痒いしそんな目で見られても困る。

    「そんなんじゃないって」

     扶揺先輩は玄真将軍の分身だ。いつもは仮の姿になって、小神官たちの様子を見たり、自分も将軍の仕事の合間に僕らの様子を見て回ったりしている。将軍が自ら掃除をして回ってるのだから、こんなの前代未聞だろう。口は厳しいし情け容赦はないが、下の人間のこともしっかりみている。やっぱり慕っている人に見られているのは嬉しい。うちの人間はそういうところも含めて彼を慕っている。

     扶揺先輩の本当の姿は秘密、と言うことで通っている。玄真将軍は自分の素性がバレるとお互いにやりづらいから隠してるのだろう。

     まあでも、あの人は嘘が上手じゃないから、新米以外にはバレているんだけど……それを言わないのは玄真殿の暗黙の了解だ。………この子も遅かれ早かれその事実を知ることになるだろう。ポロッといってしまいそうな口の軽さがあるので、この子には決して将軍にバレてはいけないと口酸っぱく言わなくてはいけない。

    「でも、あの人、」
    「ん?」
    「扶揺先輩です。あの人、一番キッツイですけど、なんかこう……一番ついていきたいというか、やさしいですよね」

     一瞬、僕の思考は停止した。新米くんの横顔は苦そうであり、どこか嬉しそうでもあった。
     何かあったのかな、目線を晴れやかな空に向け、記憶を思い出すように笑っている。やる気が無そうに見えて、やっぱりこの子も玄真殿に来ただけはある。

    「どうしたんですか? 狐につままれたみたいな顔して。俺変なこと言ってます? あ、もしかして先輩に他の先輩褒めるのって──」 
    「いや、そうじゃない。すごく理にかなってると思ったんだ」

     いたずらに後輩くんがよかったーと漏らした。………この子はいい性格をしてる。

    「でも、」と後輩くんは言う。
    「俺も先輩たちみたいな才能があったらな」

     ほうきの柄の先に顎を乗せた新米くんが遠くを見るように言葉を漏らした。その横顔は何かを諦めてるみたいであの頃の自分がちらつく。

    「うちは今も昔も変わらず、採用試験は厳しいし水準を下げたわけじゃないんだよ」

     そうなんですか? と新米くんが目を光らせて僕を見た。一気に表情が明るくなる。久々に入ってきた新人くんは百面相で面白い。僕は口に手を当て、笑いを堪える。

    「これは受け売りだけど」
    「はい?」
    「君は誰もが入れるわけじゃない、あの玄真殿の採用試験に受かって今、ここにいるだろ。ここに来るために何も努力しなかった? 君が合格したのは才能?」

     ぽかん、とした新米くん。
     しばらくの沈黙があった。みるみる頬に彼の頬に赤が差す。

    「違います」

     断固とした声と、表情。ああ、僕もあの頃、こんな顔をしていたんだろうか。
     秋風がびゅう、と吹いた。新米くんがせっかく掃いた木葉の山が風に吹かれて僕らの周りを舞う。ああー! と阿保みたいに叫ぶ新米くんの声が響いた。

    「………明日までに僕が言ったところ、きちんと掃除しておくこと、朝にチェックするからね」

    おわり
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    玄真将軍みたいなかっこいい人になりたいと子供の頃から慕情を憧れたモブ男。そんな時に玄真殿の採用枠募集がありあわてて応募しなんと採用される。しかし思っていた以上にモブ男はうまく仕事をこなせなくて──。
    玄真殿に入った新米モブ小神官君の話 じゃり、と地面にある小石が音を立てた。黒を基調とした厳かに佇む門。その先に神秘的で緊張感の漂った大殿がある。 

     僕は今日から玄真殿で見習いとして働くことになった中天庭の新米小神官、モブ男。幼いの頃から玄真将軍は僕のあこがれだった。うちは貧乏だったからおこづかいも少なくて、周りの友達とは馴染めず、距離があり、疎外感を感じることも多かった。でも、心を強く持つことができたのは同じ境遇でも強くたくましく逆境に立ち向かい天界の上位神官の座まで昇りつめたあのお方がいたからだ。

     父親は不慮の事故で亡くなり、女手一つで育ててくれた母親も父の事故死をきっかけに身体が弱くなってしまった。家には床にこもってる母とまだ小さい弟がいて、十五歳の僕がお金を稼がなければならなかった。生活が苦しく他の同い年の子達が楽しく学校に通う中、僕は働かなければならなかった。あの頃、僕が曲がらずに育ったのも、玄真将軍がいたからだ。小さい頃からずっと憧れだった玄真殿が今、目の前にある。
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