馬鹿にして笑えよ僕は教令院に通う男子学生のモブ太郎。顔と身長は中の上、成績は中の中、家柄は由緒正しき学術家庭だ。普通と思ったか?天才の集う教令院で成績の中間を収めることは、それだけで非常に大変なことなんだぞ!
そんなことよりも大変なことが起こった。
僕と同じクラスにいる学年のマドンナ的存在のモブ美に、最近お気に入りの男が出来たんだ。
そいつの名前はアルハイゼン。僕と比べて、少し身長が高く、少し成績がよく、顔は……まぁ人それぞれ好みがあるだろう。しかし性格は僕の何倍も悪いやつだから、総合的には僕の方が優れている。
アルハイゼンは基本的に昼休憩になると、ふらっと姿をくらませる奴なのだが、最近は何故か休憩時間になってもどこにも行かずに、ただ黙々と本を読んでいるんだ。そしてそんなアルハイゼンに優しく慈愛の心で声をかけたのがマドンナのモブ美だ。
きっとモブ美に声をかけられたことに味をしめたのだろう。あの日から毎日昼休憩の時間にも自分の席にいるのはモブ美からの声のかけられ待ちなんだ。くっそー!アルハイゼンめ!お前は性格が悪いんだからモブ美とは不釣り合いなのに!どうしてそう声をかけられて当たり前だという不遜な態度をとるんだ!!
僕の方が!僕の方がモブ美に相応しい男なのに!
そうだ、僕もモブ美に近づいてアルハイゼンからモブ美を奪ってやろう!きっとあの無表情なアルハイゼンのやつも、モブ美を奪われたショックで絶望して、勉強もろくに手がつかず、成績上位から転落するはずだ!ふはははは!
僕の計画は完璧だった。さすが僕。
アルハイゼンからモブ美を奪うことに成功した。
これで昼休憩にモブ美がお前に話しかけることはなく、1人寂しく本を読みながら休憩時間を過ごすことになるだろう。そもそも本なんてアーカーシャがあるのだから不要な物なのだ。
どれどれ、アルハイゼンの絶望する顔でも拝むとする……か……。
あ、あれ…?アルハイゼンがいない??
どうしてだ??いつもなら自分の席に座ったままなのに??どこに行ったんだ??
慌ててアルハイゼンを探すために、僕は昼休憩に教令院中を走り回ることになった。
そしてアルハイゼンを見つけた先はラザンガーデンの奥まった、人気が少なく日当たりの良い場所。
そこにはアルハイゼンと、金髪の……あれは、妙論派の有名な先輩ではないか…?
「アルハイゼン、本ばかり読んでないできちんと食事をしろ。まさか僕がいない間、昼食をとらなかったとかは無いよな?」
「君がいるいないに関わらず、腹が空いたら食事をする。生き物は全てそういうふうに出来ている」
「だから君も生き物だったら食事を取れと言っているんだ。機械にでもなるつもりか?ほら、口をあけて、あーん」
?????、??、、???
ぼ、僕は何を見せられているんだ??
金髪の先輩がアルハイゼンに、食べやすそうなピタをあーんしてあげている姿か??
アルハイゼンも特に抵抗せず口をあげてもぐもぐと食べている姿か??
「それでカーヴェ、君の調査の方はどうだったんだ?まさか俺との研究を放置した上、1ヶ月も不在にしておいて成果が得られなかったなどと言うわけじゃないだろうな」
「僕だって1ヶ月遊んでいたわけじゃない。あちこち調べて回ったさ。ただ調べ終わる前にあっという間に1ヶ月が経っていた、本当に早かったよ時間が過ぎるのは」
「………」
「そう怒るなよ、アルハイゼン。君だって僕がいない1ヶ月は静かに過ごせたんだろ?良かったじゃないか」
「……そうでもない。うるさい君がいなければ、別のうるさい奴が増えるだけだ」
「だからそいつから逃げるためにここに来たら、うるさい僕に捕まったってわけだ。残念だったな、かわいそうに」
そう言って金髪の先輩が再度アルハイゼンの口にピタを近づけ、アルハイゼンも何事も無いように読書をしながら差し出されたピタをまた一口かじる。
ま、まさか最近アルハイゼンが教室にいたのは……。もしかして、アルハイゼンのやつは最初からモブ美なんかに興味は無かったのでは……?
僕の完璧な計画は一体何のためだったんだ……?
ここ1ヶ月の努力が全て水の泡になったように感じ、さあっと顔から血の気が引く感じがした。
その瞬間、ばちりと本から顔を上げたアルハイゼンと目があった。背中にぞくりと冷や汗が流れる。あいつはさぞかし勝手に勘違いをして勝利を確証していた僕のことが愉快なのだろう。
ギュッと握りしめた拳に力が入る。
そしてアルハイゼンは、そっと僕から目を逸らした。
表情を変えずに、まるで何も無かったかのように。許しとか気にしていないとか、そう言うのではない。
その表情と瞳がハッキリと物語っていた。
目の前で勝手に絶望している僕に、一切興味がないのだと。
せめて勝ち誇ったかのように、笑えよ。
このクソアルハイゼン。