桜とコビメッポどっかの国に、「桜に攫われる」なんて言葉があるらしい。
「見てくださいヘルメッポさん!満開の桜!」
「そうだなァ」
にこにこしながら桜並木を散策するコビーに、コイツもまだガキらしいところがあるんだなと少し安心する。
コビーが言うように、辺りには桜が咲き誇っており、この一帯だけ別世界のようだ。
うっすらと広がるピンク色に、同じ色だな、と思う。そう、紛れてしまえば、分からなくなってしまいそうな…
そこまで考えた所で、先ほどの言葉が頭に浮かび、思わず前を歩いていたコビーに手を伸ばした。
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分岐I
「ヘルメッポさん?どうしたんですか?」
「………ア?」
きょとんとしたコビーの顔。どうしたと言われても何が…と視線を落とすと。
無意識だったのだろう。右手がしっかりとコビーの腕を掴んでいた。
「うおっ!?悪い!何でもねえ!!」
「何でもないって…ぼんやりしてるわりに思い切り掴んできたんですから何かあるでしょ」
さあさあ白状してください!と言わんばかりに詰め寄られ、うっと顔を顰める。
言えるか!!お前が桜に攫われそうだと思った、なんて!!!!よく考えてもみろ、コイツだぞ!?!!?
暖かな陽気と幻想的な景色に頭のネジが数本弛んでいたのかもしれない。絶対そうだ。
素直に理由を伝える気になんてもちろんならなかった俺は、適当な受け答えで何とかその場をやり過ごしたのだった。
(わちゃわちゃコビメッポend)
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分岐II
手を伸ばした、はずだった。
瞬間、掴もうと伸ばした己の手とコビーとの間に桜吹雪が舞い、コビーの姿が霞んだ。
何が、と思った瞬間、「ヘルメッポさん!!!」という鋭い声と共に腕が掴まれる。…コビーだ。
「………ア?」
ぱちりと一度瞬きをすると、先ほど人影が霞むほど吹雪いたのが嘘のような穏やかな景色が広がっていて。
ただ、コビーだけが、険しい顔で俺の腕を掴んでいた。
「コビー?何こわい顔してんだ、お前」
「………はぁ〜〜〜、何でもありません。それより、そろそろ帰りましょうか、ヘルメッポさん」
「は?さっきまで随分楽しんでただろ。もう良いのか?」
「良いんです!ここにいたら、攫われちゃいそうなので」
「いやお前は屈強過ぎて攫われるガラじゃないだろ」
「はいはいそうですね!!でも行きますよ!!!」
何なんだろうか急に。桜と戯れるコビー、なかなか似合ってて眼福だったのにと少し残念に思う。
…そういえば、どうして俺はコビーに手を伸ばそうとしたのだろうか?靄がかかったような記憶と、掴まれたままの手を不思議に思いながら、その場を後にしたのだった。
(桜なんかに渡してたまるかend)