ルフィさんは、
ルフィさんが、
ルフィさんと、
ルフィ、ルフィ、ルフィ、
嗚呼、アイツ本当に頭がおかしいなと思う。
朝から晩まで365日、男を、よりにもよって海賊を追いかけて何が楽しいのか。
「まぁた"ルフィさん"の話かよ、コビー」
「!聞いてくれますかヘルメッポさん!!」
「聞かねぇよ!!!だいたいお前、いつも聞かねぇって言ってんのに勝手にベラベラ喋り続けてるだろうが!!!!」
「だってヘルメッポさんにしか話せないから…」
「そりゃそうだ…」
海軍が嬉々として海賊の話を言いふらしてたら流石に止めてる。全く、敵対勢力に属しているにも関わらず、一体その熱量はどこからやってくるのか。
普段は人当たりがよくて真面目ちゃんな好青年のくせに、ひとたび"ルフィさん"がからむと、あっという間に狂人の出来上がりだ。
「僕狂人じゃないですヘルメッポさん!」
「うっせぇ心を読むな!!!ハタから見たら狂ってんだよ、何なんだその信仰心はよぉ!!」
「信仰…!確かにルフィさんは神と言っても過言じゃ…!!」
「過言に決まってんだろこの狂信者!!!」
これだけやられりゃ、相手も迷惑するかと思いきや、向こうもケロリとした様子で容認しているのだからたまったものではない。
せめて手綱を握ってて欲しい。
俺が大変だから。
「僕、ルフィさんに負けないように、今日も頑張ります!」
「へーへー」
仕方がないので俺はこの上司であり友である狂人のストッパーを今日も頑張ろうと思う。
あーあ、いつか俺の努力が報われますように。
ルフィさんは、
ルフィさんが、
ルフィさんと、
ルフィ、ルフィ、ルフィ、
嗚呼、しんどいな、と思う。
いっそ俺も好ましいと思うことができれば、こんなに苦しい思いをすることも無かっただろうに…思わず漏れ出る溜息にも、もう慣れてしまった。
アイツの視線の先にいるのはいつもその名前だ。原動力となっているのも。泣く程の喜びを与えるのも。全部全部そうで、どうしようもなくアイツを形作る根幹にその名前はいる。
なんでそんなにも1人の人間に固執するのだと笑ってしまえれば良かったのだろうが、その気持ちが分かってしまうからこそこうなっているわけで。
アイツが海軍(ここ)にいる根っこがあの海賊であるように、俺が海軍にいる根っこがアイツなのだから、笑ってやろうにも笑えないのだ。
他の男を見てやがるくせに、俺を隣に留め続けるアイツを、いっそ憎むことができれば楽だったのかもしれない。
いや、それでも。
「ヘルメッポさん」
そうやって、俺に向かって笑いかけて、俺に向かって手を伸ばして、俺に向かって諦めるなと訴え続けてくるあの瞳を、どうやって嫌いになれようか。
アイツがいなくなったら、そうやって俺が在ることを認めてくれる人間なんて、きっともう誰もいなくなるのに。
「……クソが」
アイツを惹きつけてやまない海賊も。
海賊を見つめ続けるアイツも。
そんなアイツに縛られてどうしようもない己も。
全部全部、きらいだ。