山田家の猫「ふむ、だいぶ良くなったようだな。もう起き出しても良いだろう」
それから山田殿は「今朝から一緒に食事を摂ろう」と続けた。今日までの食事は薄粥が主で、私が休んでいるこの室で摂っていた。
あの日から半月以上も経った朝のことだった。
あの日というのは、私が瀕死の重傷を負った日だ。
抜け忍となった私は、かつて仲間だった男に追われ、猛撃から逃れようと崖から足を滑らせた。そこへたまたま野遊山に来ていた一家に出くわしたのだ。彼らが同業であったのは、奇跡のようなめぐりあわせだったと言うほかないだろう。
山田殿と奥方は私の厳しい立場を一目で見抜き、追手を殺さず退けてくださっただけでなく、怪我の手当のために家に運び込んでくださった。
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