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    kurusaki_t

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    kurusaki_t

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    風情韻事2開催おめでとうございます。

    一般参加ですが楽しませていただいております。
    南扶で风情のお出かけ話?です。

    一緒に 比較的大きめな国の大通りを扶揺は歩いていた。
     道の両端には露店が並んでいて、人も多かった。
     手にした紙片に時より視線を落としながら周りを見渡す。
     紙片に書かれている店に辿り着いたのは歩いて四半刻ほど経った頃だった。
     待ち合わせの店は新しくもなく古くもない、大きくも小さくもない、木造そのままで色も特についてない、なんというか特徴のない建物で、一階は食堂で二階は宿のようだった。
     どういう意図でこの店を選んだのだろう? と思わないでもないが、あいつのことだ、意味なんてないのだろうなとも思った。
     中に入ると奥の窓際に南風が頬杖をついて座っていた。
    「来たな」
    「将軍直々の伝言を無視できるわけないだろう」
     扶揺が持っているメモは南陽将軍から玄真将軍に渡された物だった。
     渋い顔をしながら扶揺は南風の向かいに座る。
    「私を呼び出すのに将軍を使うのはやめろ」
    「お前への連絡手段が他にないだろ」
    「だからって」
    「嫌なら通霊口令を教えろ」
    「嫌に決まってる」
    「何でだ」
    「前触れなく突然お前の声が頭に聞こえてくるなんてごめんだ」
     ひどく苦々しく言いうものだから、南風は顔を上げて腕を組んだ。
    「…………私たちは恋仲になったのではなかったか?」
     半目の南風の視線から目を外し、扶揺は僅かに頬を赤らめる。
     南風に告白されて、なんでこんなことになったんだと思いながらつい受け入れてしまい、先日めでたく二人は恋仲になった。
     めでたく? と心の中で自分にツッコミを入れるが、結局、どう言い訳しようが自分も好きなのだからしようが無い。
    「後は私が玄真殿でお前を捜し回ることになるが?」
    「……それもやめろ」
    「だったら大人しく通霊口令教えろ」
    「考えておく」
    「いや、ここはすぐ教える流れだろう!」
    「うるさい」
     顔を赤くしてそっぽを向く扶揺を可愛いな、なんて思いながら南風は薄く笑う。
    「何がおかしい」
    「いや、お前も食べるか? ここの団子と茶は旨い」
     怪訝顔の扶揺をあしらって、返事をきく前に注文する。
    「で、わざわざこんな所に呼び出して何の用だ」
     団子を食べ終えて茶を飲みながら扶揺が訊ねた。
     確かに団子も茶も旨かったので、扶揺も少し機嫌が治っている。
    「お前に見せたい物があって」
    「見せたい物?」
    「まぁ、何かは行ってからのお楽しみだ」
    「なんだそれは」
     眉間に皺を寄せた扶揺を連れて南風は店を出た。
     南風がいる店を探していたせいで気付いてなかったが、大勢の人間が街の中心を目指して歩いているようだった。
    「祭りか何かなのか?」
    「祭りではないな」
    「?」
    「そこそこ歩くから、露店を覗きながらいくか」
     南風の言葉にちらちらを大通りの両端にある露店に視線をやる。最初は歩きながらの流し見だったが、いつの間にか足を止めて並ぶ色々な品々を見た。
     ガラクタを見て太子殿下を思い出し二人で苦笑したり、安物の武器に眉を顰めてみたり、美味しそうに見えたからと買った果物は期待通り美味しかった。
    「扶揺」
     敷き布に並べられていた古ぼけた本を見ていたら、南風が背を軽くたたいた。
     顔を上げると、南風が少し離れた露店を見ている。
     誘われてその店まで歩いて行き覗いてみると、そこにはたくさんの装飾品が並べてあった。
    「欲しいものを選べ」
    「は?」
    「買ってやる」
     何を偉そうにと文句を言おうとしたが、南風の頬が僅かに朱を刷いていたのでやめた。
     髪飾り、手絡、櫛、耳飾り、首飾り、手鋜、指輪。
     露店の割には品揃えもよく、どれもそれとなく品がある。
    「どれでも良いし、いくつでもいい」
     南風の気前のよい言葉に扶揺が意地悪く笑う。それに気付いて南風は少し仰け反った。
    「私に贈るつもりなのなら、お前が選べ」
     腕を組んで面白そうにしているのを見ながら、それはそうかと、南風は並べられた装飾品に視線を落とした。
     唸りながら品を選んでいる南風の横顔を見る。それがあまりにも真剣で、自分の為にそんなに悩んでいるのかと思うと少し胸が弾んだ。
     随分時間をかけて、南風はどうにかこうにか候補を二つにまで絞った。
     別種の装飾品だから二つとも贈っても問題はないだろう。どちらも扶揺には似合うと思う。けれど、一つは自分たちにはまだ早い気がした。
     せっかく贈るのだから、扶揺を困らせたくはない。
    「これにする」
     ようやく踏ん切って南風が指さしたのは繊細な模様が彫り込まれている銀色の腕輪だった。
     店主に金を払うと、南風はそれを手に取ってそのまま扶揺の手首にはめる。
    「お前にしては上出来なんじゃないか」
     言葉はともかく、扶揺の声は嬉しそうだった。腕を上げてみたり、そっと撫でてみたりしている。
     その様子に南風の頬が緩む。
     選んだ甲斐がある。
     上機嫌な二人は取り留めない話をしながら街の中心へ向かった。
     一層人が増えたところで薄い赤色の花びらが風に乗って舞っている。それを横目で見送って、さらに進むとひときわ広い場所にでた。
     その広場をぐるりと囲むように満開の梅の木が植えられている。
     人々が思い思いに感嘆の声を上げているのをききながら扶揺はその場でくるりと回って、梅の花を一廻り眺めた。
    「綺麗だろう」
     同じように梅の花を見ているだろう南風の声に扶揺は無言で頷いた。
     どれぐらい見ていたのだろう、不意に南風の指先が扶揺の手に触れる。気付いた扶揺は手を引いた。
     不服そうな南風を睨み付けるともう一度手を取ろうとしたから、その手を軽くはたき落とした。
    「手ぐらいいいだろう」
    「こんな人の多いところでは嫌だ」
    「別に誰も気にしない」
    「誰が気にしようがしまいが、私が嫌なんだ」
     口を尖らせてながら残念そうな南風を放って置いて再び梅の花を見上げる。
     青い空と相まってひどく綺麗で自然と微笑んでしまう。
    「扶揺」
    「なんだ」
    「桜が綺麗な場所も知っているんだ」
    「それで?」
    「今度は桜を一緒に見よう」
    「……考えておいてやる」
     なんだそれはと扶揺に目を向けると素っ気ない声調子と言葉とは全く合わない、楽しそうで艶やかな笑顔をしてた。
     その顔を見られただけでもう良かった。
     きっと桜を一緒に見るのは少し先の事になる気がした。
     その時は今日渡したかったあれを贈れるといいなと今このときを噛みしめるように過ごした。
     ……いや、やっぱり手ぐらいは繋ぎたかったと南風は思わずにはいられなかった。



     縮地千里。
     風信に連れられて行き着いた場所は慕情のしらないどこかの山だった。
     一面が桜の花で覆われている。
     桜色が大きく広がり天を仰げば空も小さく切り取られている。
    「見事だな」
     肩と腹に回された風信の腕から抜け出して、慕情が珍しく素直に称賛する。
    「お前が桜を見に行こうと言い出したときは何のつもりかと思ったが」
    「ずっとお前に見せたかったんだ」
     すっかり遠い日のことになってしまった約束に風信は目を細めた。
     きっとお互いに思い出しているけれど、それは口にはしない。
     あれは風信と慕情ではない、別の恋人達の約束だ。
     それでも……。
     不意に強い風が足下を駆け抜けてから天へ向かって流れた。
     地に降りていた花びらが、慕情の長い髪と一緒に舞い上がる。
     絵のような美しい光景に風信は刹那見蕩れた。
    「ひどい風だ」
     髪を押さえながら慕情が笑う。
     無性に愛おしくなって、慕情を背後から抱きしめた。
    「おい」
    「誰も居ないからいいだろう」
     嫌がるそぶりを腕に力を入れて封じ込める。
     不服そうなため息をききながら、もう一度桜を見上げた。
    「慕情、お前へ贈りたい物があるんだ」
    「贈りたい物?」
     風信は慕情の左手を取り少しあげて、長い薬指に中指と親指を添えてから親指の腹で摩った。
    「指輪……なんだ」
     慕情が驚いて風信の腕から逃れて振り返ると、風信は小さな巾着袋を持っていた。それから指輪を取り出して慕情の手を掬い上げる。
    「嵌めてもいいか?」
    「今更確認するような仲でもないだろう?」
     いつの間に調べたのか、そっと嵌められた指輪は慕情の薬指にぴったりだった。
    「お前の指輪はないのか?」
     左手を開いて軽く手を上げて指輪を見ながら慕情が訊ねる。
    「私の分はないんだ」
    「馬鹿だなお前は」
     慕情が呆れながら笑うと風信は少し決まりが悪そうに頬を人差し指でかいた。
    「仕方ない、お前の分は私が用意してやる」
     風信の左手薬指に触れて慕情は楽しげに言うと、あからさまに風信の顔が明るくなった。
    「ただし、もう少し桜を見てからだ」
     振り返った慕情の背を風信はもう一度抱きしめた。
     腹の上で重なった風信の腕に手を置いて。
     満開の桜と思い出の梅が重なって。
     ああ、こうやってこれからも二人で穏やかに花を見る時間を重ねて行ければいいと二人して思っていた。
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