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    きろう

    @k_kirou13

    ⑬きへ~二次創作
    だいたい暗い。たまに明るい。
    絵文字嬉しいです。ありがとうございます。
    まとめ倉庫 http://nanos.jp/kirou311/novel/23/

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    きろう

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    隆ツ。隆俊は出てきません。

    愛されていて、恋してる朝は眠い。
    僕は自他ともに認める夜型で、朝から気分良く起きる質じゃない。仕事だってフレックスタイムを有効活用して好きな時間から始めたいし、午前中なんてのはどこからともなくやる気が降って来るのを待ちながら情報収集の名目でインターネットを巡回するためにある。
    それでも最近はきちんと起きる方になって来たかもしれない。時計が10時を過ぎる前にとりあえず布団から出て、顔を洗ってコーヒーを淹れて朝食を齧る。そうした方が色々と都合がいいと知ったし、ちゃんと昼ごはんを昼ごはんとして食べないと僕の食生活を心配する人がいるからね。

    昼は仕方なく仕事をする。
    どうだろう、いま僕が関わっているプロジェクトはもしかしたら宇宙開発史に残る偉業なのかもしれないし、少なくともリリース時期には誰もが知っている会社の名前と共に大々的に発表されるだろうけれど、それだけだ。僕は単にここに仕事があったから来た。
    何を作ったって価値に違いは無い。僕の関わる部分は全体のほんの一部だし、要件を満たせば何だっていい。砂場で好きなものだけ作っていられた頃は楽しかったな。与えられた目的をいかにスマートに達成するかを競うのも楽しかった。だけど職業エンジニアにはそんなもの必要が無いから。大人の都合――コストや時間や仕様変更に柔軟に対応するというのが優秀さの基準だ。
    もしかしたら生まれる進歩も現実的な経済活動の前では儚い泡沫。馬鹿げている。
    それでもこのところはほんの少しだけ真面目に仕事をしている。規則に雁字搦めのくせに生真面目に仕事をする人を見て、どうしてそんなことをするのか、どうやったら出来るのか、何が楽しいのか知りたくなったから。
    さて、今日も業務終了。

    夜だ。
    夜は適当な暇潰しをする。気が向いたら仕事をしてやったりする。朝が遅い分、厄介なのがズレ込むことがある。たまにね。
    それで、だいたい21時頃になると隆俊のことを考える。どうしてるだろうと時計を見るとこの時間だから、僕にそういう体内時計があるらしい。空腹感みたいに隆俊のことが気になる、隆俊時計。
    共有スケジュールで彼の勤務予定を確認。今日は日勤だから数時間前に仕事を終えているはずだ。週に3日ほどと言っていたトレーニングに励んでいるかもしれない。
    予定が無いからと言っていつも会うわけじゃないし、毎日連絡しているわけでもない。付き合って最初の頃はそうだったけど、僕たちはかなりライフスタイルが違うから移動距離や翌日の予定とかを考慮しているうちに自然と落ち着いた。
    だけど感情は違う。四六時中一緒に居て、声を聞いて、詰まらないニュースに文句を言ったりしたい。
    デバイスを操作して隆俊との通信ログに目を通す。他愛のないチャットだ。
    隆俊から連絡してくることはあまり無い。用事がある時だけ。僕だってそうだ。用件の無い連絡をするなんて馬鹿げていると思っていた。今は、そうでもないけど。
    自分の感情や欲求には素直なつもりでいたのに、こんな時にどうすればいいか分からない。
    「会いたい」今からは現実的じゃない。「声を聞きたい」言えなくはないけど続きが思い浮かばないな。「夕飯何食べた?」本当はどうでもいい。「隆俊」呼んだだけだ。
    頭の中のシミュレートを全て打ち切る。顔を合わせていれば簡単なのに、きっかけがないまま連絡するのは難しい。
    それに、会えた時に話すことが減ってしまうとか考えなくもない。会えない時間が愛を育てるって言うだろう?

    結局、今日も連絡しなかった。

    隆俊と過ごした時間のことを考える。彼とした食事を思い出して食事する。身を清めて眠る。そうやって日々を過ごす。以前の僕には何の価値も無かった「生活」に彼の存在を見出す。
    ベッドに横たわり、布団の端を握る。彼の隣で眠ったことを、体温を、腕の重さを、霧散した残り香を反芻して溜息を吐く。寝返りを打って頬にかかった髪を自分の指で払うことにすら思い出す感触がある。
    不思議と寂しさを感じないどころか幸福感すら覚えるのは、きっと満たされているからだろう。
    眠ってから起きる、明日に漠然とした価値を見つける。
    この場に居なくても僕の日々に隆俊が居て、隆俊にもきっと僕が居るというような確信がある。
    もう一度ログを見直そうと通信画面を開いて、ぼんやりとした光を浴びて思いついた。
    そうだ、次はいつ会えるか聞けばいい。立派な用事、用件。今日はもう遅いから昼休みにでも連絡すればおかしなことなんてない。運が良ければその日のうちに会うことだって出来るかもしれない。
    僕の優秀な脳味噌はこの手のことに不慣れで仕方ないな。
    画面を閉じて宇宙の中の部屋の夜、漠然とした明日を確実にするために目を閉じた。


    2025.07.20
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