胸元を探る気配に目を覚ますと半裸の隆俊が僕のシャツを脱がそうとしていた。
「朝から元気だね……いいよ?」
まだ眠いけど。夢見心地で笑うと慌てて前が閉じられる。
「ち、違う! お前が俺の服を……」
「ん……?」
恋人のおかしな様子に、眠りの中で仕舞い込まれてしまった昨日の記憶をどうにか手繰り寄せる。
たしか夜中に目が覚めて、水が飲みたくて、あとチェックしておきたいメールがあったこととかを思い出して……そうだ、床からシャツを拾って着たら隆俊のだった。まぁいいよね、着たものを脱ぐのも面倒だし、隆俊のだし。
そして袖を余らせながら用事を済ませて隆俊のいる寝床に戻った。
「なるほどそれでムラムラしたんだ?」
僕は隆俊ならいつでもオーケー。もう少し寝ててもよかったくらいかな。
上掛けを蹴って下着だけの下半身も見せてあげる。
「無実だ!」
せっかくサービスしたのに一瞬で毛布の中に仕舞われた。
「じゃあなんで脱いでるの」
夢を見せてくれないから僕の頭も少し醒めてきた。
晒された胸板を寝転んだままじっと睨む。いい身体の無駄遣いじゃないか。
隆俊はわがままを言って困らせた時と同じ顔で僕の襟を軽く引っ張った。
「脱いだんじゃなく着てないんだ」
「……? あぁ、なるほど?」
弁解しよう。僕も人間なので起きた直後の頭の回転は鈍い。
そして隆俊の着替えは僕の部屋にあったりなかったりする。昨日は無かった。仕事帰りに寝巻きも持たずに僕に会いに来た彼は、それに気づいて取りに戻らなければならなかったところ、そのまま朝を迎えた。彼の唯一の服はいま僕が着ている。
「なるほどね」
気づいてみれば簡単で、とても愉快だ。僕は何度か頷いてベッドを抜け出した。
「ツカサ!」
「いいだろ、減るものじゃないし。いつも君は空調が暑いって言うし、それでちょうどいいんじゃないか?」
半端に外されたボタンを上まで留めてしまって、足を通したボトムの中へ余りすぎてもたつく裾を押し込み、動きにくい袖を適当に巻き上げる。中身のサイズが合っていないからか、それとも乱雑に床に落とした挙句に寝巻きにしたからか、一晩しか経ってないはずなのにシャツはくたびれてよれよれだ。だけどまだ隆俊の匂いがする。
「今日は僕が朝食を用意してあげよう」
朝からこんなに元気で機嫌が良い僕は珍しい。さて、彼が部屋に戻って着替えて出勤するまでどれくらいの時間があったか。ベッドに座ったまま追いかけてこない隆俊を残して、僕は何が入ってるか把握していない冷蔵庫を覗き込んだ。
2023.04.17