【リョ三】花泥棒「なんか飲み物頼むか?」
「や、大丈夫」
同学年で話に花を咲かせてるなと思っていたら、いつの間にか桑田たち後輩のところで盛り上がってた人が、今度はオレの横へやって来て腰を下ろした。
大方のイメージ通り酒に強くなくて、酎ハイの一杯だけで上機嫌に笑っている。
結局、オレの帰国に合わせてセッティングしてもらったこの会がお開きになるまで隣にいたので、足取りのあやしい三井サンとふたり電車に乗った。
ロングシートの端、ドア側に座らせ自分も腰を下ろすと、途端に1ミリも身体に力が入ってないような勢いで寄りかかられる。
「ちょっと! ちゃんと座ってよ。コーキョーコーツーキカンだよ」
「人乗ってねーから、いいじゃん」
たしかに、この車両に乗っているのは、離れた場所にぱらぱらと数人だけだ。
「よくないって。俺が困っちゃうでしょ」
「はぁー? でもお前、こういうの好きだろー?」
無言で軽く睨んでやったら、途端に大人しく「困ってんならやめる」と、ごそごそ身体を起こす。またなにか見当違いなことを考えているらしい男の肩を軽く引き寄せて、もう一度こちらにもたれさせる。
「別にたいして重かないけどさ」
低身長のオレは、当たり負けしないよう鍛えてきたので、昔とは筋肉量が違う。相変わらず細身のこの人の、全体重がかかったところで、だ。
「心臓バクバクいってんの、聴こえたらダサいでしょ……好きなんで」
「ふはっ! お前、誰でもいいんかよ」
「誰でもよかないから」
あえて茶化したり、取りつくろったりせずに見つめると、なんだか難しい顔をして押し黙った後、その目と口を大きく開いた。声出してないのに、表情だけでこんなにうるせーのってスゲーな。
「ねー次、乗り換え」
ホームに降りた瞬間、人の通らない位置まで、ぐいぐい背中を押され運ばれる。
「……さっき」
「うん」
「好きって言った? オレのこと?」
「うん」
「先輩として、とか、元チームメイトとして、って意味か?」
「あーいうことさ、オレ以外には絶対やんないでね」
前髪から頬を、指の背でなぞる。赤く染まったそこは、ひどく熱かった。
「アンタ、あっちだよね。一人で帰れる? 送ろうか?」
「何もしない保証はできないけど」と付け加えると、またしても逡巡している様子が全て顔に出る。もし「大丈夫」って答えられても放っとけないでしょ。こんなの。
たっぷり間を置いて、いつもの元気はどうした? と言いたくなる小さな声で「送れ」と返ってきた。
「御意」