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    冬の小話
    もうオレにはイチャイチャしか書けねぇ―――

    【赤三】サヨナラできない「肉まんとカレーまん、どっちにするかな……」
     真剣な表情でレジ横のガラスケースを見つめた末、三井がもの凄くどうでもいいことをつぶやいた。

     昇降口でばったり会って「なんか久々だな。せっかくだから寄り道して帰ろーぜ」などと誘ってきたのは、ただの気まぐれだろう。オレがそれに乗ったのもまた、ただの気まぐれである。
    「奢ってやろうか」
    「ハァ? お前が!? なんで」
    「決まったんだろう、推薦」
     ぱちりと瞬いた後「知ってたのかよ」と視線を外す。
    「あ、じゃあオレ肉まんにするからお前、カレーまんにしろよ」
    「アホか。そこまでしてやる義理はないわ」

     コンビニの外に出て、買ったばかりの紙包みを開けると、冷たい空気にふわりと湯気が立ち上った。
    「さすが、入口でたむろするのが様になっとるな」
    「は? スポーツマンらしいって評判だぜ? 最近のオレは」
     外壁にもたれた三井が、左膝を触っているのが気になる。
    「痛むのか、膝」
    「や、痛くはねぇけど……なんか寒いと痒くなんだよな。切ったとこ」
    「そういうもんか」
     下をむいた三井の耳は、道中北風に晒されたせいで、少しの間暖房の効いた店内にいてもなお赤かった。こんな風にまじまじとそれを見るのは、初めてだなと思い至る。去年の冬も、一昨年の冬も、伸びた髪に隠されているのを、遠巻きにちらりと見ただけだった。
     もし触れたら、やはり冷たいのだろうか? 無意識に手を伸ばしそうになって「なー、夏にアイス食ったの覚えてっか? お前らと」という、三井の声ではっと我に返る。何をしようとした? 今。
    「赤木……?」
    「覚えてる」
     誤魔化すように答えた声が妙に大きくなった。木暮と三人で今日のように、買い食いをした時のことを言っているのだろう。
    「なんか、セーシュンぽくてよかったんだよな」
     三井がまるで眩しいものを見ているように目を細める。この男は時々こんな風に高校生らしい振る舞いをする自分たちのことを、遠くから見ているようなところがあって、オレはその表情が好きではなかった。
    「あっ、オイ! 勝手にとるなよ!」
     隙を突いて、手の中の肉まんを半分ほどちぎり、自分が食べていたあんまんの残りを押し付ける。
    「青春がやりたいんじゃなかったのか?」
     不満そうな顔をしながらも、三井はそれを一口齧った。

    「甘ぇ……」
     吐き出された言葉と白い息は、すぐに冬の空気に溶けて、消えていった。
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