【リョ三】雨上がり、輪(まわ)る、世界が笑う 時間を無駄にしてしまった。
いや、これまでの2年間の話ではない。それがあるからこそ、この先一秒たりとも無駄にはできないというのに……度重なる居眠りの罰として、教師に荷物運びを手伝わされていて、部活に出遅れたのだ。
「ハァ……今日ぐらいもっといいことあってもいいだろうよ」
「どういう意味スか?」
「おわっ」
自分よりも頭ひとつ分小さな男が近づいてきたことに、全く気づいていなかったので、アホみたいな声が出てしまった。
「ウルサ! そこまで驚かなくたっていいでしょ。ねぇ『今日ぐらい』ってなんなんすか」
「なんでもねー」
「隠されると余計気になるんだけど」
「別にそんな大したことじゃねぇって……誕生日なんだよ」
「へ? 三井サンの?」
宮城がぱちぱちと、まばたきをしながら聞き返す。
「そーだよ」
「そりゃオメデトウゴザイマス。あー、確かに。なんか5月っぽいよね。アンタ」
「意味わかんね。お前はいつなんだよ?」
「7月」
「あー……ちょっとわかったかも」
「オレ7月っぽいです?」
「なんとなく?」
冬じゃなくて夏って感じはする。あんまよく知らないけど。こいつのこと。
「なんも持ってないんすよね、今日」
「な? そういう感じになるだろ? だから言いたくなかったんだよ」
「ていうかよ……」と言いかけて、いや、引くかな? と思って口ごもる。
「ていうか、なんスか?」
いいか別に。引かれても。ちゃんと言っとかないと、気が済まないし。
「お前からはもう、充分もらってるから」
「は? なんもあげてないけど」
「3日前の試合、お前普通にパスくれただろ。俺に」
「いや、そりゃパスくらいするでしょ。同じチームなんだから、当たり前じゃん」
「当たり前ではねーだろ。あんなことして、まだ一週間ちょっとだぞ? だから、もう、それだけで充分……イッテ!」
バシッと背中を叩かれて顔を上げる。
「緒戦突破ぐらいで満足しないでよ。全国制覇が目標なんじゃないの?」
そう言った宮城は、眉根を寄せて口を引き結んだ、怒ってるんだかなんだかよくわからないヘンな表情をしていた。
「あんなさ……」
「あ?」
「ただボール持っただけであんな、嬉しそうな顔してる人のこと、無視できるわけないじゃん……」
「宮城……お前っていいヤツだな」
素直な感想を口にすれば「アンタ遊んでるヒマなんかねーだろ! さっさと練習しますよ!」と背中を向ける、その耳が赤い。きっと、見えないその頬も。なんだよ、ずいぶんカワイイ後輩じゃねぇか。なんだかんだで、今日は結構、いい日かもしれない。
次の日、部室のロッカーを開けたら荷物の上にバラバラと、カラフルな包み紙の、丸い棒付きキャンディが降り注いでいた。プリン、コーラ、ストロベリークリーム……また、ずいぶんと甘い……着替え終わったら、カワイイ後輩の誕生日が7月の何日なのか、聞いておかなくてはなるまい。