商店街からも大通りからも住宅街からもずれたビジネス街の一角。二階が住居、一階が店舗という古典的な喫茶店が渡された資料に書かれた本日の取材を申し込もうと思っていた店舗だった。
「いらっしゃーい。お好きな席にどうぞ」
オープンの札が下げられた茶色のドアを潜れば小さなベルが鳴る。
「ども……」
どうしてここに店を開こうと思ったのだろう。開いたドアの脇にはまめに手入れされているらしい観葉植物。どこかノスタルジックな模様のクッションフロアが店内に敷き詰められ、カウンター席とボックスのソファ席が幾つかのこぢんまりとしたそこは、文字通り過去の遺物のような店だ。
修兵が席を吟味していると、カウンターの奥側の二人がけの席には予約の札が置かれている事に気づいた。出入り口からは見づらい奥まったそこは人に聞かれたくない相談や商談をする為にあるような席。
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