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    妄言/さんば

    @imvhana_ku

    京浮垢

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    妄言/さんば

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    初恋泥棒きょ〜らく

    それでも泣いてはいけない 父母がどんな祈りをしたのか、何を贄にしたのか定かではない。朧な記憶は混濁していて、ただ苦しいのは嫌だ楽になりたいと思えど、叫ぶ気力も体力もなくて口から血泡を吹いているだけしかできなかった。
     瞼の裏に現れた単眼異形の神は、ただ笑って俺を見ている。
     生も死も、苦も楽もなにも解することなくただ嗤っている目が静かに静かに俺を見ていた。
     この世界の為に、いつかは身を捧げなければいけないのだと知れたのは、七つになるかならないかの頃で教えてくれたのは身の裡にいるそれだった。
     京楽家の次男坊と元字塾で引き合わされたその日の夜だった。
     これを人は運命というのだろう。
     瞼の裏にいる目は何も言わず静かに微笑っているのだ。
     影から長い右腕を伸ばし、頭を撫でてくれたようにも思える。長い右腕が喉を締め上げたようにも思える。分かるのは射干玉の眼が炯炯と照り――
     六根六塵三世に自分はいないのだと目はわらった。
     二人で一つの軀なのにお前は右腕しか見せてくれないのかと幼心に問うてもただ、目は何も言わなかった。
     何も言わぬ目が唯一謳った事に霊王とはなんと悲しいものなのだろうかと憐みさえした。
     喜怒哀楽の機微もなければ冷も熱も音も声もない、無の境地にただいる事を恐怖した。
     本当に恐ろしかったのは、無よりも有を知った事だった。
     火にかけられた鍋を触れば熱く、雪の降る庭に足を下ろせば冷たい。親に怒られれば悲しく、干菓子を貰えば甘さに笑い、病の発作に苦しむ。
     本を読み聞かせられ、字を覚え、互いに競う友が出来た。喧嘩をして仲直りをして。背丈は伸び声は変わり、愛を告げられ互いに側にいる時は心が安らいだ。
     目が笑うのだ、俺はいづれそれを喪うのだと。
     置いて逝かれるのではない、俺が置いて逝くのだと嗤った右腕が天上を奔る。

     恋など知らなければ良かったのに。
     愛など受け取らねば良かったのに。

     瞼の裏に潜む目が無にいる理由を知った。
     喜怒哀楽の機微もなければ冷も熱も音も声もない分からないままただ呼吸する生き物に成り果てていればこんなことに気づきもしないでいられたのに。
     喪失の恐ろしさを孕みながら刃筋を合わせる毎に胸が高揚した。
     交わした唇の柔らかさも、腕の中に抱かれる恍惚も、胎をあばかれ突き立てられる苦しみも、囁かれる甘い睦言もいづれは喪うのだ。
     相手が愛おしいほど、喪う事が恐ろしくなった。
     悲しみが果てて身の裡から溢れ、骨は変形し、皮膚を食い破って恐怖が暴れ出すのではないかと畏れ続けている。
     背丈は伸びきり、互いに役職を得て識ることは多くなった。彼はいづれこの身の末路を識るだろう。
     死にたくない。死にたくない。
     愛さなければよかった!
     目は応えず。
     ただ未だ果ては見えず。
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