雪葬「僕は雪の日に死にたい」
長いキスが終わり、そのままジュンっちと抱き合ったオレの耳に聞こえてきた呟き。それをオレは平然と受け入れたし、その雪の日に彼の横にいるのは自分だと信じて疑わなかった。ぼんやりと、自分もその日に命を終えるのだと確信していた。
雪の日。ばあちゃんちがある青森じゃあ、雪なんて珍しくない。何でもない日に死にたいのだろうか。それとも、都会に雪が積もるような特別な日に死にたいのだろうか。オレにはよくわからない。そもそも、死にたいって感覚がオレにはあやふや。
「ジュンっちは死にたいんすか?」
ともすれば不躾な質問だろう。そんなオレの品の悪さも、ジュンっちは優雅な笑顔で受け入れてくれた。
「まさか」
君がいるのに。そう言ってオレの耳に触れる。オレはこの合図が一等好きだ。背の丈が足りない彼からの指示。下を向いてキスを降らすと目を細めて受け入れる、ネコっちみたいなジュンっちが好きだ。躾の行き届いた犬みたいなオレ自身も嫌いじゃない。
オレはきっとジュンっちが死ぬって言ったら一緒に死ぬんだろう。説得もするし一発くらいはぶん殴るかもしれないけど、きっとジュンっちが抱えているものの大きさの半分も理解出来ないままに、それを償うようにしてついていく。
どうしても死にたくなったら言ってね。青森に連れてくよ。何もかも覆い隠す白銀の世界を見せてあげる。
ばあちゃんちにも寄ってほしいな。様子が目に浮かんで愉快になる。きっと礼儀正しいジュンっちをばあちゃんは気に入って、よく来てくれたね、四季と仲良くしてくれてるんだね、ありがとうね、って笑う。
ジュンっちも笑顔だ。でも、目の奥はきっと、雪のように冷たい。ジュンっちは何もかもを隠して微笑みながら、言う。日も沈んだ午後5時。死にに行くまであとすこし。玄関先での会話。どこまでもついていくと決めたジュンっちの、柔らかな声。
「ええ、僕達は仲良しなんです」