Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

    ☆quiet follow Yell with Emoji ❤ 🌟 🎀 🍎
    POIPOI 434

    85_yako_p

    ☆quiet follow

    ホラー。漣が酷い目にあう。虫っぽいのが出る。(2019/07/01)

    ##牙崎漣

    鏡の向こう側にはね「今日もオレ様が一番乗りだなぁ!」
     ばん、と思い切り鳴った扉の音にかき消えることのなかった声は、漣という青年が発したものだった。続いて、呆れたように扉をくぐった青髪の持ち主はタケル、最後に扉を閉めた男性は道流という。
     漣は上機嫌だった。本人にそう言えばきっと否定しただろうが、タケルも道流もそれを知っていたから、いちいち確認するだなんてこと、しなかった。また、漣自身、自分自身が上機嫌であることは無自覚だったのかも知れない。
    「今回の振り付けは難しいから……集中しねえと」
    「はっ! ダセえの! オレ様にかかれば余裕だぜ!」
    「はは、漣は頼もしいな」
     今日は新曲の振り付けの初合わせだった。漣の上機嫌の理由は、きっとこれだ。新曲は、振り付けの難易度が高かった。彼はそれこそが、自分に相応しいと感じていた。
     各々が軽くストレッチを始める。全員で始めるウォームアップまでは少し時間がある。レッスンは三十分後だ。漣は高ぶりを発露するように大きく伸びをした。その瞬間、ふと声のようなものを聞いた。
    『…………せ……』
     聞こえた、と確信するには心もとないほどに僅かな音。普段なら気にもとめないような音。声、だろうか。聞いたことのあるような、ないような、あやふやな既視感。
     なぜだろう、その音に導かれるように、漣は自らを映し出す壁一面の鏡へと近寄った。音は、ここから聞こえたと思ったからだ。こういうとき、漣は考えるよりも体が動く。
     歩みの先。当然、鏡に映っているのは見慣れた顔だ。キョトンとした自分自身だ。ぺた、と手を当てると、ヒヤリとした鏡の感触が手のひらに伝わった。
    『……え……せ!』
     瞬間、ぐ、と手首を掴まれた。道理のない衝撃に、困惑する。掴まれた? 焦点のブレた目が、衝撃に従って手首を見た。
     鏡の中から、そこに映っていた自らの手が伸びている。
     その手はガッチリと、鏡の外にある手首を掴んでいる。見たままの光景。その事実が、認識の外にある。
    「……は?」
     戸惑った。反応が遅れた。ぐい、と、力のままに体を引かれた時に、踏みとどまれなかった。前のめりになった、鏡にぶつかるはずの体が投げ出された。無様に倒れこそしなかったが、膝をつきかけた。あるはずもない場所。そこは暗闇だった。
     反射的に後ろを向けば、そこは明るい。ぽっかり、四角く開いた窓のような枠に、レッスン室が、タケルが、道流が見える。そして、『ナニカ』が、そこにいた。
     恐怖も、戸惑いも超えて、ただ理解した。そこに、『ナニカ』がいる。なぜだか、強く思う。「許してはいけない」
     その感情は何に対してのものだっただろう。理解もしないまま明かりへと踏み込んだ。
     踏み込んだと同時に、ばん、としたたかに顔を打ち付けた。何に、と確かめるように手を伸ばせば、光と闇の境界線に、硬く透明な板のようなものがある。それが行く手を阻んでいる。ダン! 拳を叩きつけても、それは態度を変えることもなく、漣と光を分断していた。
    「なんだってんだ……おい! テメェ!」
     オマエはなんなんだ。『ナニカ』の背中に向かって吠える。すると『ナニカ』はこちらを見て──ニヤリと笑った。
     怒りと、得体の知れなさに背筋が跳ねた。『ナニカ』は何事もなかったかのように、タケルと道流のもとに近づいていく。
    「……っ! おい! 逃げろ!」
     アレは、ダメだ。
     直感に従って叫ぶ。焦燥に任せて、目に見えない壁を叩く。ダン! ダン!
    「おい! オマエラ! …………は?」
     ぴた、手が止まる。目の前の光景が受け入れられず、動きも思考も止まる。「何やってんだよ」呟きが溢れた。
     タケルが、道流が、『ナニカ』を受け入れている。タケルは表情を変えず、道流は笑顔で、まるで自分を受け入れるみたいに笑う。「今日は新曲の初あわせだからな。頑張ろう」と、道流が『ナニカ』に笑いかける。
    「おい! てめぇ! 何やってんだ!」
     思い出したように、境界を取り払うように拳を叩きつける。何一つ変わらない現状に声をあげる。
    「離れろよ! くっそ……オマエラ! なにわけわかんねぇやつの相手してんだ! 笑ってんじゃねぇよ!」
     光景は変わることがない。ビデオテープの映像のように、干渉することができない。タケルは呆れたような顔を『ナニカ』に向ける。道流はおおらかに『ナニカ』の肩を叩く。自分がいたはずの場所に、『ナニカ』がいる。
    「……オマエラがそういう態度取るのは……オレ様にだけだろうが……」
     うつむいた先。境界の下のほうがじわじわと黒に染まっていく。ぶぶ、と羽の擦れる音がする。虫が生ゴミにたかるように、光を埋めるように黒がうごめいて、広がっていく。
    「……ふざけんなよ! おい! なんなんだよ!」
     ダン! ダン!
     侵食する黒。拳の行き先も飲まれていく。構わずに拳を振り下ろせばそこには何もなく、上半身が思い切り傾いだ。何度手を伸ばしても、壁があったはずの場所にはなにもない。
    「…………どういうことだよ」
     答える声は、ない。

    ***

     果てのない道を歩いている。おそらく、比喩ではない。どこまで行っても、待っているのは暗闇だった。
     歩いているはずなのに、足元の感覚はあやふやで、自分の靴音すらしない。歩いているという証明が心もとない。確かに、歩いているはずなのに。
     音がしない空間に音が響く。どくどく、どくどく、という音。自分の血管を流れる血液の音。
     一定のリズムで急き立てるような音は消せない。生きていて、血液を循環させているのだから当然だ。かき消そうと大声を出しても血液の音は消えない。喉は確かに震えたはずなのに、自分の声は聞こえない。すべて暗闇に逃れて掻き消えていく。肉に覆われた血液の音だけが響く。
     気がついたらしゃがみこんでいた。自分の体すらここに無いような感覚。たまらずに腕に爪を立てた。痛みを感じることにこれほど安心するなんて。ぬる、という血の感触が鉄臭い匂いを連れてくる。今までこの空間には何も匂いがしなかったことに気がついた。
     もっと、もっと痛みがほしい。ここに存在している証明がほしい。爪を深々と突き立てた時、声が聞こえた。
     ぼそぼそ、ぼそぼそ、何かを喋っている。誰の声かもわからない声。それでも、それだけを頼りに歩き出そうとして気がつく。声は、自分の頭の中から聞こえる。
     幻聴、という言葉を漣は知らないが、頭の中から聞こえる声に自分が限界の一歩手前だと直感した。ぼそ、と。吐いたのは弱音か諦めか。音のない空間ではわからない。
     誰の声かもわからない、脳の内側から聞こえる声。その声に混濁していく意識を引き戻したのは、虫が這いずり回るような音だった。
     普段だったら聞こえないような小さな音。それすら、この暗闇にはよく響く。張り上げた声すら霧散するこの空間で、なぜこの音だけが聞こえるのだろう。
    「……意味わかんねぇ……」
     音のする方へ歩き出す。歩いているという感覚すら希薄な世界を歩く。 

    ***

     時間の感覚が濁っている。歩いている、はずなのに。それすら確証がない。
     どれくらいの時間が経ったんだろう。悪い夢を見てるみたいだ。そう思って、こんなの夢なんじゃないか、って思う。こんなのは、現実じゃない。それなのに、いつまで経っても目覚めることができない。
     気まぐれに途絶える虫の音。無音を嗅ぎつけ、取り囲んでくる見知らぬ声。正気を失う前に、また虫の羽音が戻ってくる。それを頼りにまた歩き出す。歩いても歩いても疲れない。とっくに気がついていた事実の異様さは見ないふりをして、足を動かす。
     ふいに。
     ぼや、と。
     目の前の暗闇が、柔らかな橙に切り取られている。少し大きい姿見くらいの大きさ、その鏡面のような真四角の明かりが、分散することなく佇んでいる。
     近寄って、触れてみる。とろりと暖かな熱が手のひらに伝う。それに安堵する間もなく、オレンジの光が白みだす。
     弱くなる光。その中になにかが見える。それは見慣れたレッスン室だった。
    「……は?」
     談笑している、タケルと道流と『ナニカ』。見慣れた二人が見慣れた表情を浮かべている。それを、『ナニカ』相手に向けている。楽しそうな声が聞こえる。
     しばらく、映像が事実として認識できなかった。数秒か、数分か。ガチャリという扉が開く音で我に返る。トレーナーが二人と一つに、レッスンの開始を告げた。
    「……三十分しか経ってねーのか?」
     あくまで体感だが、もう数時間は歩いていたはずだ。だけど、自分がここに放り出されたときは、確かにレッスンの三十分前だった。だとしたら。
     タケルが、道流が、『ナニカ』が一列に並んでこちらを向いた。目はあわない。トレーナーの手拍子にあわせて彼らはステップを踏む。フォーメーションダンス、自分がいるべき場所に『ナニカ』がいる。
     もう、どんな声をあげたのかもわからなかった。だって、反応した人間はひとりもいなかったから。いつかの再演のように足元から暗闇が広がる。真っ黒な虫が光を覆い出す。だけど、何かが違う。
    「っ……!」
     光に触れた手。黒がそこまで伸びてきた。ぞわ、と背筋が凍る。じわじわと伸びてくる虫を振り落とそうと空いた手で腕を払うと、その手にまで虫がこびりつく。這いずるような感覚が腕を伝って、胴と首を辿っていく。服の下に入り込んだ悪意が皮膚を撫でていく。その感触に悲鳴が漏れた。
    「うっ……あ……」
     とっさに息を吸った口の中に、顔にまで侵食していた虫が入り込む。急いで口を塞ごうとするが、腕が重くて動かない。暗闇に磔にされたような感覚から逃れようと体を動かそうとするが、嫌悪がこびりついた場所はピクリとも動かない。そうこうしているうちに、鼻や耳にも不快感が流れ込んできた。
     無理やり入り込んでくる虫はどろ、とタールのように蕩けて胃へと落ちていく。闇をそのまま流し込まれるような感覚に意識が混濁していく。落ちていく意識を呼応するように、残っていた光も闇に飲まれていく。

     意識を引き戻したのは、暗闇だった。
    「……なんだってんだ……」
     呟いた言葉は自分自身の耳にすら届かなかった。また、あの静寂が戻ってきていた。

    ***

     歩いた。歩いていた。歩くことしかできなかった。歩みを止めることはできなかった。足を止めることを、本能的に恐れていた。
     あくまで体感だが、数時間ほど歩くと空間に光が浮かぶ。その光にはレッスン室が映っていて、少しずつ、少しずつ映る映像の、その時間は進んでいる。そうして、光が閉じる寸前に、その光を覆う黒がこちらへと伸びてきて全身を蹂躙していく。そのたびに摩耗していく心が折れる前に、何度も何度も歩き出した。
     一度、光から逃げ出したことがあった。だが、いくら反対方向に駆けても、振り向けばすぐ後ろに光が浮かんでいた。そうして、そこには楽しそうにレッスンをする二人と『ナニカ』が見える。そのあたたかな光からも、体を覆う害意からも逃げることはできなかった。
     異変は、三度目の侵略で訪れた。目覚めて、脳にこびりつく嫌悪感を振り払うように、今まで通りに肌に爪を立てた。ぬる、と血の熱に安堵した瞬間、それに気がついた。
     血の匂いがしない。
     血の匂いが感じられなくなっていた。べと、と血のついた指を鼻先にやっても匂いはしない。意図せず口元についた血が煩わしく、ぺろりと舐め取れば鉄の味がするはずだった。
     それなのに、なんの味もしなかった。匂いも、味も、何も感じることはなかった。
     無視することのできない異変に、顔をしかめたのがそのときだ。だが、異変はそれだけでは終わらず、感覚は徐々に奪われていく。
     何度めかわからない異変で、痛みを感じなくなった。幾度目かの昏睡から目が覚めて、意識と存在を確かめるように皮膚に爪を立てる。痛みが熱を持ち、意識に働きかける。
     だが、それは一瞬だった。ざわりと皮膚に何かがたかる感覚がしたと思ったら、傷が消えた。何度も爪を立てたけど、そのたびに皮膚に何かが這いずって傷をなかったことにする。
     だんだんと、何かが感覚を、痛みを奪っていく。
     次は聴覚を奪われた。聞こえるか聞こえないかの音量だった虫の羽音が、突然、光の向こうから聞こえるはずの声をかき消した。道流がタケルと『ナニカ』に声をかけている。動く口元にあわせて聞こえるのは虫の羽音だけだ。
     次は視覚を奪われるのだろうか。今、自分の目は見えているのだろうか。暗闇ではそれもわからない。
     光が見える。まだ目が見える。二人と一つがレッスン室から出ていって、部屋が暗くなる。それでも、暗闇に比べれば明るい暗がり。電気が落ちたのを合図に、それから光が見えることはなかった。

     光が見えなくなって、時間の感覚を得るのは虫にたかられた時くらいだ。
     全身を嬲り、何度も胃に流し込まれる不快感だけが、存在している実感になる。

     何度目だろう。とうに抵抗はやめている。胃だけではなく肺にまで侵食している悪意は、血液に染み出して全身に回るような倦怠感になる。いつしか、歩き出すこともやめていた。

     そうして、どれくらいの時間が経ったんだろう。幾度目か蹂躙で、変化が訪れた。
     どくん、と。
     感じたのは苦味だった。虫を噛み潰したのだろうか、口の中が苦くて仕方がない。潰れた虫はそのまま液体になって胃に潜り込む。そうして流し込まれた泥が消えていく、いや、溶け込んでいく感覚。
     気絶する前に虫が引いていった。腕に爪を立てる。肉に食い込んだ爪に血が伝う感覚がある。
    「……痛ぇ……!」
     痛みもある。そして、ずっと聞こえなかった自分の声が聞こえた。感覚が戻ってきている。鼻腔を鉄の匂いが過ぎていった。
     立ち上がる。歩き出す。気力が蘇ってきていた。まるで、あの胃を侵した得体の知れないものが、よいものだったかのような。
     ──最後まで、気がつくことはなかった。ただ、それが『馴染んだだけ』だと言うことに。
     光が見える。歩き出す。オレンジの鏡面に映ったのは、大きく伸びをする『ナニカ』だった。
     奪われた場所、奪われた視線、奪われた笑み。
    「……返せよ」
     『ナニカ』がこちらにやってくる。不思議そうにこちらを見ている。『ナニカ』の手が、境界に触れる。
    「……返せよ……っ!」
     伸ばした手は、何にも阻まれることはなかった。そのまま『ナニカ』の腕を思い切り掴んだ。
    「……は?」
     『ナニカ』の呆けた声。思い切り、それを引っ張る。そして勢いそのままに、まっすぐに光の中に踏み出した。
     すと、と。踏み込んだそこはレッスン室だった。見慣れた蛍光灯の明かり。ストレッチを始めている、見慣れた二人。
     出られたんだ! あの暗闇から!
     ざまあみろ、と後ろを一瞥する。暗闇に投げ出された『ナニカ』が見える。自然と笑みが溢れた。前を向けばチビと、らーめん屋がいる。ようやく、戻ってこれたんだ。
     叫び声が聞こえる鏡から離れ、二人に話しかける。道流が笑顔を浮かべて言った。
    「今日は新曲の初合わせだからな。頑張ろう」
     そうだ、この笑顔も、声も、自分に向けられるべきものだ。一瞬、違和感のようなものを感じたが、正体は掴めなかった。そんなことよりも、今はレッスンだ。今日はレッスン初日だ。頑張らなくてもヨユーだが、少しは本気を出してやってもいい。
     二人のもとに戻り、談笑を楽しむ。しばらくして、トレーナーがやってきてレッスンの開始を告げた。
     
    ***

     暗闇に光が浮かんでいる。じわじわと、その光は闇に侵略されている。ぶぶ、と羽の擦れる音がする。虫が生ゴミにたかるように、光を埋めるように黒がうごめいて、広がっていく。
     消えていく光に向かって、叫ぶ声が闇に溶ける。
    「……ふざけんなよ! おい! なんなんだよ!」
     先程まで牙崎漣だった、『ナニカ』が叫ぶ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏❤👏👏👏👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    85_yako_p

    DONEかなり捏造多めなタケ漣です。自分の知らない一面をなかなか信じたくないタケルの話。猫が死んでます。タケ漣とするか迷いましたが、タケ漣でしょう。(2024/10/12)
    野良猫の憂鬱 予感がした。それだけの単純であやふやな理由で俺はわざわざ上着を羽織って夜に踏み出した。目的地なんてあるはずもないのに、足は路地裏に向かっていた。
     歩けば歩くほど無意味に思える時間に「明日は朝から雨が降りそうだから、アイツを家に入れてやらないと」と理由をくっつければ、それはあっさりと馴染んでくれた。そうだ、俺はアイツを探しているんだ。訳のわからない予感なんかじゃなくて、でも愛とか同情でもなくて、この意味がわからない焦燥はアイツのためだ。
     明日が雨予報だってのは嘘じゃないけど、今夜は晴れていて月が綺麗だった。だからアイツがいたら一目でわかるはずだし、パッと探していなかったら今日は捕まらない。だから、と自分の中で線を引いてから路地裏を見ると、いつもチャンプが日向ぼっこをしているドラム缶の上にアイツがいた。片足をだらんと垂らして、片方の足はかかとをドラム缶のふちに乗せている。そうやって、何かを抱き抱えるように瞳を閉じている。
    4310