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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    85_yako_p

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    ミハイルとテキーラ。Dos設定前に書いたので矛盾してます。ミハイルとダニーが後輩です。(2020/06/28)

    ##ミハイル
    ##レナート
    ##カプなし

    ミハイルとテキーラと長い夜 柔らかく、それでいて横暴なノックの音。主がわかるほど、おれはイグニスのメンバーには詳しくない。
     寝るにも、何かをするにも中途半端な時間だった。寝たふりを決め込んでもよかったが、扉を開けたのは気まぐれだ。どうしたって警戒心が滲む程度に覗いた隙間から、美しい銀の髪が見える。
    「……レナートか」
    「ああ、今は暇か?」
     レナートが部屋を訪ねてくることに不思議はない。おれはそれなりの信頼を勝ち取っているから、仕事の相談をされることだってあるのだ。ただ、それにしてはレナートの持ち物がおかしい。レナートが持っていたのは氷をたっぷり湛えたアイスペールとライムを塩。そしてショットグラスがふたつ、テキーラの瓶が二本。
    「暇なら飲まないか? 僕と少しゲームをしよう」
     御免だ。おれは語彙からありったけのオブラートを探していたが、こいつの二の句に薄いオブラートはびりびりと破けてしまう。
    「まぁ……負けるのが怖いのなら、断ってくれて構わない」
    「あ?」
     思わず、スラム街で相手を牽制するときのような声が出た。先程まで一人だったもんだから、気が抜けているのかもしれない。レナートは見慣れた──あまり身内に向けることはない──挑発的な笑みを浮かべていた。なんというか、普通に腹が立つ。
    「……まあ、入れよ。テキーラは手土産か?」
     温室育ちのへなちょこエリートがテキーラ。おれにあわせたのかもしれないが、笑いを堪えるのが精一杯だった。こいつにはキティがせいぜいといったところだろうに。
    「これはゲームの小道具だ。ミハイル、おまえは飲めるほうだろう?」
    「交渉人様の前で飲んだことがあるっけな?」
    「これは僕の勝手なイメージだ。酒が飲めないならゲームはできない。断ってくれ」
    「まさか。あってるよ。テキーラは好きだ。ライムがあるならなおさらだ」
     おれは憎たらしい猫を招き入れる。アイスペールの氷が益体もない時間をからころと笑っている。



     ゲームのルールは簡単だった。まずはテキーラを飲んだ。脳みそに適度と酒がまわったあたりでレナートは口にする。
    「単純なルールだ。ショットグラスでテキーラを煽る。飲み干した人間は相手にひとつ質問ができる」
    「……質問?」
     問いかける息がアルコールで燃えている。
    「そうだ。相手は正直に答える。……それだけだ。簡単だろう?」
     やってみたほうが早い。そう言ってレナートはテキーラを飲み干して口を開く。
    「……好きな食べ物は?」
    「そんな質問でいいのか?」
    「最初だからな。それに、これはおまえと親交を深めるためのゲームなんだ。酷い質問はしないさ」
     はちみつ色の瞳に答えるように、好きな食べ物を口にしようとして気がつく。おれには好きな食べ物なんてない。あのスラムで食えるもんはなんだってごちそうだった。強いて言えば酒は嫌いじゃないが、食べ物となると浮かばない。
    「……唐揚げ」
     嘘ではない。唐揚げは好きだ。ただ、真実かと言われると答えはノーだった。
    「そうか。これでおしまい。聞きたいことがあったらテキーラを。おまえが飲まないなら僕がまた飲もう」
    「待ってくれ。一方的なやりとりは好きじゃない。話の主導権を握りたがるのは悪い癖だぞ」
     おれはテキーラを喉に流し込む。これはチャンスだった。怪しまれない程度にコイツの弱みを握ってやろう。このときのおれはそんな呑気で打算的なことを考えていた。
    「じゃあ……そうだな、まずは好きな食べ物を教えてくれよ」
     後悔させてやる。ライムを齧りながら、レナートが笑った。



    「……眠るか?」
    「ねっ……くな……い……ひっく……」
    「そうか……飲めないようなら僕がまた飲もうか」
     細く長い指がショットグラスを傾ける。当たり前に上下する白い喉がぼやけて見える。
    「では……困ったな。そろそろ質問することがない」
     本当にコイツは困ったように笑う。おれはかなりの質問に答えている。「好きな食べ物」から始まり「好きな動物」「好きなタバコ」「好きな酒」「好みのタイプ」「いま欲しいもの」「初めてキスをしたシチュエーション」「僕に直してほしいところ」「好きな色」他にも、もう両の手では足りないくらいの質問に答えた。「好きなサンドイッチの具」あたりからの記憶が曖昧だ。
     これだけの質問をしてなお、レナートは顔色一つ変えなかった。やられた。コイツはザルを通り越してワクだ。いくら飲んでも、顔色一つ変えやしない。ハメられた。強いならそう言えと悪態をつけば聞かれていないと答えられた。
    「そうだな……そうだ。子供の頃の夢は?」
     瞬間、脳内に集まっていた血液がさあっ、と引いていった。アルコールで酩酊した理性が冷たい引き金を引こうとしている。殺意を押さえる理性がアルコールでぐずぐずになっていたが、からだを動かす力もまたアルコールに支配されていた。
     きっと、からださえ動いていたら、おれはコイツを殺していた。
    「……覚えて……ない……」
     初めて嘘を吐いた。それだけで、もう限界だった。おれはテーブルに倒れ込む。
    「……こおり」
    「ん?」
    「たべたい……」
    「ああ、わかる。喉が熱くなるんだよな」
     わかっているのか疑わしい。それほどケロッとした顔をした男が俺の口元に氷を運ぶ。そして、あろうことか手酌でテキーラを飲みだした。こいつはゲームの外でも酒を飲んでいる。バカなんじゃないか?
    「水も飲め」
    「……いまはのめない」
    「吐いてもいい。そのほうが楽になる」
     屈辱だ。考えうる限り、最悪の流れだった。何が悲しくてこんなやつに介抱されなければならないんだ。おまえもおまえだ。潰した相手を介護する気分はさぞかし最高だろう。そうだ、これを聞いてやろうか。「いま、たいそういい気分だろう」、と。
     おれは酩酊した意識の中でテキーラに手を伸ばす。もうテキーラは残り少ない。これだけ聞いたら眠ってしまおう。
     これくらいならラッパ飲みでいい。そう思い掴んだ瓶をレナートが奪っていった。
    「……最後の質問だ」
     アルコールを水のように飲み干して、憎たらしいエリートは口をひらいた。
    「イグニスは、好きか?」
     ああ、めんどくせえ。寝たふりでもしてやろうかと思った瞬間、意識が落ちた。



     目覚めたら気分は最悪だった。レナートがベッドサイドに腰掛けて、あろうことがウォッカを飲んでいる。こいつ、バケモノなんじゃないか? 水と酒を入れ替えるマジックの類と言われたほうが、まだ信憑性がある。
    「……目が覚めたか」
    「…………さめた」
     だからおまえは帰れ。口を開く前にレナートが微笑む。
    「だいぶ吐いたからな。寒くないか?」
     だいぶ吐いたからな? おれはどんな失態をしたんだろうか。精神的にも、肉体的にも震えが止まらなかった。寒くてたまらないが、言うつもりはない。
    「急性アルコール中毒だな。まぁ、水分を取って眠れば治る程度だろう。ほら、これを飲んで」
     帰る気はないらしい。そして、言う。
    「……おまえの気持ちが聞けて、よかった」
     おれは何を言ったんだ。最悪だ。こいつを殺しておれも死ぬ。いや、おれが死ぬ必要はないからこいつだけ殺す。
     殺意だけではからだは動かず、おれの意識はここで途絶えた。



     あの最悪のゲームから一週間ほどだろうか。おれはいつもどおりに大部屋の扉を開ける。
     その瞬間、パァン! という大きな音が聞こえた。反射的に銃を構えるがその手を押さえられる。敵は何人だ。テオは無事なのか。敵が来たのか本来の味方が来たのか。疑問が満ちた脳に声が聞こえた。
    「ダニー! ミハイル! おめでとう!」
     呑気で底抜けに明るい声だ。目の前にはおれの手を押さえたダニーがいる。やわらかく笑う表情は、最近見せるようになった顔だ。
    「……は?」
    「今日はダニーとミハイルがここに来てから一年の記念日だからね! ごちそうもプレゼントも用意したんだ!」
     キールが満面の笑みで告げる。部屋のど真ん中、一番でかいテーブルにはたくさんの食事が乗せられていて、レナートがプレゼントと思わしき箱をふたつ、持っていた。
    「……ミハイル、レナートに潰されただろ」
    「なっ、なんでそれを」
    「おれも潰された。好きな食べ物と、飲み物と……ほしいものを聞かれたんだ」
     そう言って笑う。テーブルを見れば、その一角には大皿にのった大量の唐揚げがあった。
    「ミハイル、なにが欲しいって言ったんだ?」
    「……時計」
     プレゼントの大きさもそれくらい。唐揚げの横にはダニーの大好きなハンバーグが山積みになっている。
    「おれは辞書。おおきさ、あれくらいだよな」
    「はは……外車とか言っておけばよかったな」
     レナートが笑っている。キールも、リーダーも笑っている。ダニーと一緒におれは部屋の中心へと歩き出す。

    『イグニスは、好きか?』

     あの夜、おれはなんて答えたんだろう。
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