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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    たばこと薫輝(2019/01あたり……?)

    ##薫輝

    ちょっとそこまで 三月の、寒い夜だった。
     空気も、風も、星も、冷たく瞬いていた。星を眺める間もなく踏み入れた通りは街灯がいくつも光っていて、その人工的な明かりの下をお互いに言葉もなく歩いていた。
     こういうとき、僕が何も言わないのはいつものことだ。だけど、天道が黙っているのは珍しかった。
     こちらを振り向かないのも、珍しかった。ただ、数歩先を無言で歩く背中についていった。
     柏木は、いなかった。こういう日が少し増えたように思う。
     車も、人も、猫も通らない道路の端の方、天道がくるりとこちらに振り向いた。街灯に照らされた鼻の頭が、寒さで真っ赤になっている。
     頬の色を変えず、天道は言った。
    「なぁ、俺が桜庭のこと、好きだって言ったらどうする?」
     驚きはなかった。そうだと思っていたわけではないが、そうだとしてもおかしくないと思っていた。
    「……嫌ではない、と言ったらどうする?」
     僕はきっと、顔色を変えずにそう言った。天道は僕の言葉を聞いて、くしゃりと笑った。
    「質問に質問で返すなよ」
     そういって、手を差し伸べてきた。僕はその手を取って、天道の家までのわずかな道のりを歩いた。
    「……で、どうするんだ?」
    「……どうしような」
     天道は曖昧に笑う。
     三月の、寒い夜だった。世界中、僕らのことなんて気にしていなかった。


     数週間で僕と天道の距離は少しだけ、だけど確実に変化した。
     その中で、何を報告すればいいのかはわからなかったが、何かを柏木には伝えなければいけないと思った。
     天道は自分が僕のことを好きだということを柏木に伝え、それを聞いてこちらを見てきた柏木に、僕はそれが嫌ではないことを告げた。ただそれだけのことで、柏木は嬉しそうに笑ってみせた。
     柏木は『好き』という言葉が持つ意味の違いがわからない男ではない。それでも、柏木は笑った。
     プロデューサーにも同じことを伝えた。プロデューサーは少し困ったように何点か注意事項をあげたあと、面白そうに口にした。
    「不仲営業、続けますか?」
     営業じゃない。僕と天道の声がぴたりとそろった。


     世間体がある。僕の性格もある。関係が変わっても、僕と天道は二人で出かけることがあまりなかった。
     天道の家で、穏やかに過ごす時間が増えた。柏木がいて、三人で食事をして、のんびりテレビを見て、夜になっても僕だけが帰らない。少し変化した日常は、悪くなかった。天道が用意した僕のパジャマは、生地も趣味もよかったから気に入ったが、口には出さなかった。
     星のきれいな夜だった。少し、夜更かしをしていた。明日の予定を脳内で反芻していたときに、天道の声が聞こえた。
    「なぁ、煙草が切れたから買いに行かないか?」
     煙草を吸うのか。初めて知った。隠し事ではなかったのだろうが、少しだけ心が揺れた。近い感情は、きっと怒りだろう。
    「……吸うのか?」
     それでも、僕の声はいつもと変わることはなかった。
    「意外か?」
     今から思えば、天道は『意外か?』と、それだけを言った。
    「……ほどほどにな。健康を害するし、アイドルとしてのイメージもある」
    「そうか? 大人の魅力って感じで、悪くねぇんじゃねぇの?」
     お前といるときには吸わないよ。そう言って天道はパジャマの上からダウンを羽織る。
    「着替えないのか」
    「ちょっとそこのコンビニまでなんだから、いいだろ」
     天道に習って、僕も上着を羽織る。本当は着替えたかったけれど、とっとと玄関に向かった天道を追うためには、上着を羽織る程度の時間しかなかった。


     まだまだ寒い夜だった。いつかのように、星よりも街灯がうるさい道を歩く。
     コンビニまで、おおよそ五分ほど。いつかのように天道の背を追うことはなく、ただ、影を伸ばしながら並んで歩いた。
     手が触れることはない。それが残念だとは思わない。僕の性格は、つくづく『こういうこと』に不向きなようだ。
    「なぁ、アイスとプリン、どっちがいい?」
     こちらを見て、冷えた空気を震わせて天道が問うてくる。
    「……は?」
    「夜食だよ、夜食」
    「……アイドルということを抜きにしても、この時間に甘いものか」
    「いいじゃねーか、たまには」
     コンビニは近い。くだらない話は収束することなく、入店音で途切れる。
     天道は煙草と、二つのプリンを買った。僕はただ、それをぼんやりを見ていた。


     季節が移り変わって、緑の匂いが濃くなった。あれから天道は何度か煙草を切らして、そのたびに僕らは深夜のコンビニへとでかけた。問答のような問いかけをした三月の夜とは違い、やはりお互いの手が触れることはなかった。
     煙草を買い置きしておけとは言わなかった。僕らしくなかった。まるで、あのやりとりと深夜に歩くあの道を、楽しんでいるようだと思った。自分の感情もわからないまま、そうしていくつかの夜を歩いた。
     その日は、昼間と比べると寒い夜だった。天道は風呂に入っていて、僕は寝支度を整えていた。
     寝る前の習慣だ、台本を見返す。ふ、と目にとまるところがある。ペンを探す。天道のデスクにあるだろう。
     デスクに近づくと、引き出しが開けっ放しになっていることに気がついた。天道らしいようで、らしくないようにも思う。閉めようと近づくと、引き出しの中が見える。
    「……そういうことか」
     呆れた。あの男は単純ではあるが、素直ではないようだ。

     引き出しには、天道が買っていた煙草が封も開けられずに投げ込まれていた。

    「どうした? 桜庭」
     風呂からあがった天道の声が後ろから聞こえる。振り向いて、こう告げる。
    「……煙草が切れた。買いに行くぞ、天道」
     笑ったつもりはないが、きっと僕の唇は弧を描いていた。
    「……吸うのか?」
     愉快そうに、天道が口にする。あの日の僕と同じ言葉を口にする。
    「吸うわけがないだろう」
     そう言った瞬間、お互いに耐えきれなくなった。いい年をした大人が、親から隠れた子供のようにひそひそと笑う。
    「……なぁ、デートしようぜ、桜庭。コンビニまでさ」
    「いいだろう……もう、煙草は買わないな?」
    「バレちまったからな」
     目的のないデートをしよう。そう言って天道はパジャマに上着を羽織る。僕もそれに倣って、二人で玄関をくぐる。
     外の空気はすこし冷たい。でも、これから上着のいらない季節になる。僕たちはパジャマで出かけるのだろうか。わざわざ着替えてこの道を歩くのだろうか。
    「ずっと、お前とこうしたかったよ」
     そう言って、天道の手が僕の手に触れた。あの日と同じだ。世界中、僕らのことなんて気にしていなかった。
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