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    85_yako_p

    カプ入り乱れの雑多です。
    昔の話は解釈違いも記念にあげてます。
    作品全部に捏造があると思ってください。

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    コインランドリーとタケ漣(2018/10/18)

    ##タケ漣

    コインランドリー汚したシーツを放り込もうと洗濯機の蓋を開けた俺の目に飛び込んできたのは、昨日同じ理由で汚したシーツが湿り気を帯びたままで布の塊になって鎮座している様だった。そういえば、昨日洗濯機をまわしてそれっきりだった。
    替えのシーツはこれしかない。さてどうしたものかと悩んでいると、狭い洗面所に風呂上がりのアイツが出てきた。バスタオルを渡してやるが、ろくに髪を拭かない。髪、乾かしておけよ。そう言って入れ違いに風呂に入った。アイツほどではないけど、俺だって汗まみれだったし汚れてもいた。

    風呂から上がっても、シーツは汚れたままだしアイツの髪は湿っていた。考えたくもないが、床には脱ぎ捨てた衣類も転がっている。
    丸裸のベッドを見て考える。シーツをかけないで寝るか、バスタオルでもしいて寝るか。深夜一時半を刻む秒針の音に思考を委ねていたらふと思いついたことがある。
    「おい、コインランドリー行かないか。シーツがない」
    「あ?シーツなんざいらねぇよ」
    「何勝手に決めてんだ。俺のベッドだ。シーツはいる」
    「じゃあオレ様は床で寝る。勝手に行けよ」
    取り付く島もないとはこのことか。別に一人で行ってもよかったが、なんとなくそれは癪だった。それは寂しさとも違った感情で、苛立ちにも似ていなかった。
    「……肉まん」
    ぴく、とアイツの肩が揺れる。
    「からあげくん」
    猫だったら、きっと耳もぴくりと動いているだろう。
    「そろそろおでんも始まってるな」
    散々動いたあとだ。腹が減ってる。俺も、アイツも。
    「チビのおごりな」
    「勝手に決めるな」
    シーツを適当なビニール袋に詰めて、乗り気になったアイツを連れて外に出た。秋の空は冬ほど澄み切ってはいないけれど、月が大きくてキレイだった。月明かりを反射するアイツの髪がじっとりと湿っている。それを見ながらコンビニまでの道をお互いに無言で歩く。

    深夜二時のコンビニには、まばらにしかホットスナックが用意されていなかった。そのすべてを買い込んで、やる気のないコンビニ店員の声に後押しされて店を出る。アイツは変装用のマスクをすぐに外して、肉まんにかじりついていた。そのまま家に帰ろうとするコイツを引っ張ってコインランドリーに向かう。これが意地なのか何なのか、わからない。世の中にはわからないことがたくさんあるけど、自分のことがわからない日がくるとは思わなかった。

    コインランドリーに人はいなかった。
    シーツを二枚、洗濯機に放り込んで100円玉を入れる。スイッチを押したらガゴンガゴンとシーツが回りだした。
    棚から古ぼけた漫画雑誌を何冊か手に戻ると、アイツは椅子というよりはベンチに近い板の上で器用に眠っていた。コインランドリーに向かう途中であらかた食べつくしたホットスナックは1つも残っておらず、袋を分けておけばよかったと内心溜息を吐く。
    眠るアイツの横に座り漫画雑誌を開く。とっくに連載が終わった漫画がまだ中盤だ。これは、いつの雑誌なんだろう。まぁ、面白ければいつのだっていい。
    しばらく、ぱらぱらと漫画を読んでいた。コインランドリーには相変わらず誰もいないし、音は洗濯機が回るガゴンガゴンという音だけ。横にいるコイツの寝息もかき消されてしまう。ガゴンガゴン。時折コイツの髪の毛に触れる。じっとりと湿っている。なんでコイツを連れ出したのか、答えとなる感情はわからないが、俺の横にコイツがいることに満足していた。

    洗濯が終わったら乾燥機にシーツをいれる。千円札を両替して、また百円玉を入れる。
    暖かい空気が流れてくる感覚がして、空気の匂いが生ぬるくなる。お日様の匂いとはまた違った、ふかふかした匂い。温度が少しだけ上がったような感覚。
    読み進めた漫画では、主人公の親友が死んだところだった。そういえば、コイツは死ぬっけ。ちかちかと切れそうな蛍光灯の下でぼんやりと思った。
    埃っぽい漫画雑誌の匂いと、横にいるアイツから漂うシャンプーの匂いと、乾燥機のふかふかした匂い。ちぐはぐな匂いが混ざって不思議な気分になる。時折思い出したようにこいつの髪に触れる。いまだにコイツの髪の毛は湿っていた。

    まだ乾燥は終わっていないのに、読んでいた漫画は決着がついてしまった。表示を見ると、あと12分とある。微妙な時間だ。
    やることもなくなったので手持ち無沙汰にアイツの髪を触って、蛍光灯のちかちかとした点滅を眺めていた。アイツの髪はやっぱりまだ湿っていて、乾かせと言ったのに、と自分勝手なことを思う。俺は、さらさらと乾いたコイツの髪に触るのが好きだった。それでも、この時間は悪くなかった。コイツを連れ出すときに感じていた寂しさとも苛立ちとも違う感情はきっと単純なもので、ただ当たり前にコイツが横にいることを望んでいるだけだったのかもしれない。
    蛍光灯を眺めていたはずだったのに、いつの間にか俺はコイツを見つめていた。見慣れた顔だ。髪が白くて、肌も俺より白くて、首筋に情事の痕が残っている。目と口を閉じていると、印象がガラリと変わる生き物。
    しばらく髪を撫でていたらコイツの目が開いた。目が合ったからキスをした。アイツはぼんやりとした目でそれを受け入れて、しばらく舌を絡めていた。
    さっきまでしてたみたいな、噛みつきあって食い合うみたいなキスじゃなくて、ただ、穏やかな口づけを長いことしていた。コインランドリーには他に誰もいなかったし、聞こえる音は乾燥機の回る音だけだった。
    早く、シーツが乾けばいい。ふかふかになったいい匂いのするシーツでベッドを覆って、ただコイツを抱きしめて、コイツに抱きしめられて眠りたい。
    時計の針は深夜二時半に届かないくらい。ぼやりと目をさましたコイツと一緒に、残り時間3分の表示をぼんやり眺めていた。
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