キミを看取るカメラ「マユミくん」
視線をあげれば、ぱしゃり、とシャッターが切られる音がした。レンズの向こう、百々人が俺を撮っている。昔に流行った機械だ。そのまま百々人の手の中に、映し出された俺の写真が収まった。
「なんだ。俺を撮っているのか?」
百々人は紙を振っている。なぜ、だろう。きっとなにか理由があるはずだが、それを取り立てて聞く気にはならなかった。
「うん。……遺影、撮ってる」
物騒なことを言う。だが、なぜか否定する気にはならなかった。それはきっと、百々人にとって必要なことなのだろう。ただ、はいそうですかと言うわけにもいかない。
「……死ぬ予定はない」
百々人は特に驚きもせずに言った。白状した、と言えるだろう。
「僕が殺すの。……いまのマユミくんは死んじゃうから、記念」
物騒なことを言う。だが、なぜか止める気にはならなかった。死にたいと思ったことは一度もないのに、百々人がそうしたいなら、そういうものなのかと思う。
「……どう、殺す?」
なぜ、殺す? とは問わなかった。
百々人は俺に触れることもなく、笑う。人差し指を唇に当てて、俺の声を封じて、聞いててね、と呟いて、大きく息を吸った。
「……僕ね、マユミくんが好き」
「…………え?」
「ほら、死んじゃった」
ぱしゃり、とシャッターが切られた。それを見て百々人は「ね?」と微笑んだ。
「死んじゃった。もうさっきまでのマユミくんは戻ってこない」
新しく出力された写真は百々人の手に収まることなく、床に落ちる。百々人は手に持った『遺影』を見ながら、うっそりと呟いた。
「……もう、こんな目で見てくれないね」
なるほど、確かにそれは遺影なのだろう。でも、俺はどんな目をして百々人を見ていたのかなんてわからない。ふ、と立ち上がって百々人の手にしている写真を手に取ろうとしたが、百々人はふい、と身をかわしてしまう。
「……俺を殺してみたかったのか?」
それなら、なぜ床に落ちた写真を拾わない。
「まさか。大好きな人だよ? そのままでいてほしいに決まってるじゃない」
でも好きだから、ダメだった。
悲しみなど欠片も見せないで、笑顔を貼り付けたまま百々人は嘆いてみせた。