なかなかおちない四季さんが卒業と同時に一人暮らしをするらしい。卒業ってのはいい区切りだと思う。なにかと、新しいことを始めるのに向いている。
でも俺は学校に行ってなかったから卒業とは無縁だった。成人式は今年だけれど、酒が飲めるのか、くらいにしか思わない。酒が飲めるのは嬉しいんだけど、本当にそれだけだ。
一足先に成人したくせに、何にも変わらないコイツを見てるからだろうか。俺が成人したって、きっと何も変わらないって思ってる。コイツは成人してもふらふらしてるし、俺の家にくるくせに居着いたりはしない。なんというか、決定打があれば、二人で住むのに不自由しない広さの家に引っ越したっていいんだけど。
きっかけって大切だ。シーツをゴミ箱に突っ込みながら思う。だらだらと、端が破れても使ってたシーツは今日ようやくゴミとして俺の手を離れる。どんなにどろどろに汚れても洗っては使ってたくせに、ルージュの色がひとつ付いただけで俺はこれを捨てる気になった。
ルージュをつけたのはアイツだ。撮影で、名前も知らない女の首筋を辿った唇の深い紅。べったりとした欲の色を落とさずにまっすぐ俺の家にきて眠りこけたアイツの唇は、俺のシーツを口紅で真っ赤に汚した。見も知らぬ女の首筋と同じように。
それが、どうにも嫌だった。それだけだ。アイツがまっすぐここにやってきた理由はわからないけれど、きっとよくある気まぐれだ。アイツはそういうわけのわかんないとこで、どんどんきっかけを作って俺の生活を変えていく。
いっそ、この部屋でも破壊してくれればいいのに。そうしたら俺はもう少し広い家に引っ越して、ダブルベッドを買ってアイツを待ってもいい。喧嘩したら離れて眠って、寂しいときはくっつけばいい。
そしたら、新しく買ったこのシーツも小さすぎて使えないのか。引っ越しと、このシーツが破けて使えなくなるの、どっちが早いんだろう。
新しいシーツはちょっといいものを買ったから、ずいぶんさらさらしていて気持ちがいい。早く、アイツがきたらいいのに。