飛び出し注意。 黄色い看板に鹿のシルエットが描かれていた。鹿に注意ってことかなぁ、って呟いたら、ぴぃちゃんがそういう道路標識だと教えてくれる。それが一昨日の、仕事帰りの話。
で、今持っているのは魔法のブラシだ。事務所で暇を持て余している僕はそれをぼやっと見つめる。ブラシには黄色のペンキがべったりとついているけれど、ぽたぽたと垂れる気配はない。
このブラシは、曰く、何か一つの標識を描くことができるらしい。そして、その標識は不思議な力で描かれたことを強制的に実現させると、さっき道端で筆を押し付けてきた金色の髪をした少年が言っていた。
彼は「赤色だったら通行止めとか、強力なものが描けたんだけど……ごめんね」と言っていた。確かに赤色のペンキの方が使い勝手が良さそうだ。一人きりに、一人ぼっちになってしまいたい時、とか。
まぁ黄色いのはしょうがない。僕は思いついたことを描いた。
黄色い四角を描く。そこにしゅーくんとえーしんくんのシルエットを描いて、事務所の倉庫のドアに貼った。
「しゅーくんとえーしんくんの飛び出し注意。なんてね」
不思議なペンキが本物なら、ここから二人が飛び出してくる。不思議なペンキが偽物なら、事務所の扉に牙崎さん飛び出し注意のマークでも描いておけばよかったかな。そんなことを考えていたら、誰もいないはずの倉庫の扉が開いた。
「あれ? 俺トイレのドア開けたよな……?」
「百々人? 俺は確かポップコーンを取りに……」
不思議なペンキは本物だった。せっかくの休日を邪魔したことを謝ったら、二人はすぐに許してくれた。
「寂しいならすぐに呼んでくれればいいんですよ」
「寂しいってほどじゃなかったから……」
「暇でも、ですよ。無理な時は無理だけど、とりあえず声かけてください」
「……うん、次からそうするね」
二人に会えて嬉しい。素直にそう伝えたら、えーしんくんが頷いた。
「ああ、次からは俺にも声をかけてくれ」
「……ありがとう」
僕たちは並んで歩く。えーしんくんの家で再生されるのを待っている映画をみんなで観ようって話になったからだ。
「百々人は謝罪していたが、俺は三人で映画を観れて嬉しい」
「だから、そういう時は呼んでくださいってば」
しゅーくんが「先輩たちは……」と口を尖らせる。えーしんくんはわからないけど、きっとしゅーくんのところには不思議な少年はこない。そう思う。