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    mougen_oc

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    mougen_oc

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    その蝶は未だ燃え尽きず『何故、我らが神を目の敵にする!?』
    『何故、神を尊ぶ我々を殲滅する!?』

    『――何故!何故!黒々しく渦巻くその憎悪を、徒に燃やし続ける必要がある!?』

     何時の日だったか。アルムの無慈悲で同胞を目の前で何十と失い、鮮血に散って逝った死体に自らの運命を重ね、恐怖に震えるしか術の無くなった教祖にそう叫び問われたことがあった。
     愚問だ。答える必要もない。そもそも、自分がさも完全なる被害者であると、正しいことを成していたと思い込んでいる口振りに虫酸が走る。神の為世界の為と嘯いて、たまたま通りすがっただけの人々を連れ去り、殺めて、捧げることを史上としていたまごうことなき狂人集団だというのに。

     ああ、それでも。時々こうやってフラッシュバックする程度にその妄言は脳に焼き付いている。その理由は、その問いへの答えは――――。

    「この痛々しい憎しみが、僕のだから」

     いつまでも、いつまでもいつまでもいつまでも心を蝕んで頭を侵して止まってくれない憎悪、憤怒、殺意の嵐。人をいくら助けても救っても生かしても拭えない、癒されない怨嗟の波に満たされて苛まれて、可笑しくなってしまいそうで。――それこそいつか、致命的に決定的に狂ってしまいそうで。
     この苦しくて報われない感情から逃れたいと何百回と思ったか。己に巣食う神々への毒々しい思いが消えた日を何千回と想像したか。重荷を降ろした我が身はきっと軽いだろう、幸せだろうと何度、何度……。

    「…………それでも、ね」

     ――――それでもこれは、永遠と燃え盛るこの激情は既に『アルム』という人間にとって欠かせない構成要素と化している。ジリジリと心身を焦がしていくこの憎しみこそが、今となっては自分にとっての人間としての一部分なのだ。
     例えそれが最初、他人によって意図的に植え付けられた思想であってたとしても。神々を呪い殺さんと幾重と絡み合ったこれは、他ならぬ自分が育て上げ昇華した感情なのだ。

     あの子達と出会って、知って、自ら宿した大事な大事なアルムの宝物。どれだけ心が磨耗しようとも、どれだけ体が損なわれようとも、結局これだけは命を懸けても絶対に手放せない。
     手放して、なるものか。

    「これだけ、は――」

    「ねえ、アルム!」

     耳に飛び込んでくる朗々としたその声は聞き覚えのあるもので、深く沈み込んでいた意識を浮上させるには十分だった。慌てて顔を上げればそこには、不満そうに形の良い眉をひそめ、じーっと珊瑚色の眼差しを向ける少女と視線がかち合う。

    「ルーリィ」

    「やっとこっち向いた!もう、そんなに怖い顔して何考えてたの?」

     散々待たされたらしい様子のルーリィから告げられた言葉から、自分がどれだけ酷い表情をして思考に耽っていたのか想像出来る。気心知れた幼馴染み同士だったから良かったものの、折角良くしてもらっているこの村の住民に『怖い顔』とやらを見られていたら、余計な心配をさせてしまっていたかもしれない。

    「ごめんね、ちょっと色々。何かあったの?」

    「あ、そうだった!昨日助けたおじいちゃんの怪我を診てほしいらしくて……」

    「うん、分かった」

     医者としての仕事をこなすため、内に燻る憎悪から一時の間目を逸らす。怪我人に怖がられてしまっては診察も治療も儘ならない。
     『人助け』と称賛されるだろうこの行為は、二人の旅の目的ともアルムの憎悪とも無関係で、ハッキリ言ってしまえば意味は無いに等しい。それでも思わず二人が誰かに手を差しのべるのは、きっと――――。

    「よし、行こうか」

    「うん!」

     半年前、一人忽然と消えてしまったあの子に。アルムとルーリィの旅の目的である、大事なもう一人の幼馴染みに。――アルムに燃える憎悪を植え付けた、アルムが殺さなくてはならないあの少女に、少し似てしまったからなのだろう。
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