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    mougen_oc

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    mougen_oc

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    ようちゃんハピバ&メリクリ&あけおめ!!🎉🎄🎍すみません全部遅刻しました!!!!!!殺して!!!!
    大変長らくお待たせしました🚬くんと⚡の話です!雪の日の押し問答です!気付いたら🚬くん目線になってましたが解釈違いがあったらすみません。

    エゴイズムは美しく輝けるか? 儚いもの、と聞いて真っ先に思い付くものは何だろうか。すぐに消えてなくなるもの、形が崩れて地に還ってしまうもの、として認識しているものは一体、何なのだろうか。

    「雪の結晶だ」

     ある邪神はそう答えた。
     熱を持つ手で触れてしまえばたちまち溶けて消えてしまう、冷めた世界でしか形を保てないもの。生まれた瞬間から美しい姿のそれは、小さくて目を凝らしてもよく見えなくて、しかし迂闊に触れたが最後跡形もなく消えてしまう。
     かといって手を伸ばさないでいれば地に落ち水となって染み込んでいくか、積もった雪の中に隠れて二度と拝めなくなるかの二択しかない。

     散りゆく桜の花や、同じく温暖な世界で永く保たないとされる氷ですら触れることが出来たのに、雪の結晶にはそれすら許されない。生きるという熱を持つうちは、素肌にそれを感じることは叶わない。

     美しいと知っていながら手にした瞬間崩れゆく。呆気なく崩れていくと知りながら触れることを願わずにはいられない。
     それすら含めて雪の結晶は美しいのだと理解しているのだが、儚いからこそ愛おしさを覚え尊ぶのだと学んでいるのだが。

     ────邪神はそれを呑み込んだ上で、触れて愛したいと願ったのだ。

    ▽▲▽▲▽▲

     夜の帳が落ちた頃、ふとレンが窓の外に目をやると、チラチラと白い物体が舞い落ちているのが視界に入った。「お」と小さく声を上げて窓から外を覗き込むと空には厚く雲がかかっており、そこから無数の雪が降ってくる如何にも『冬』な光景を目撃し、思わず目を輝かせた。

     最近寒さが厳しくなってきたと思ったが、初雪となれば本格的に魔界にも冬が到来したと言えるだろう。
     下方向を見れば既に薄く雪が積もっていたことから、今より少し前から降っているらしい。このまま夜中降り続けていればもっと積もってくれるか、と幼気な少年のような期待をしながら舞う雪を窓越しに眺めていると、廊下を歩く足音が耳に入る。

    「おっ、レン! 窓から何見てんだ?」

     そう声を掛けながらやや駆け足でレンの元まで寄って来たのは、城の主人たるアカネだ。
     それに対しレンが「見ろよ見ろよ」と半歩横にずれて場所を譲ってやり、窓の外を指で示す。言われた通りに彼女が外を覗けば先程のレンと同様に、パッと目を輝かせた。

    「マジか、雪降ってる!」

    「だろ? もうすっかり冬になっちまったぜ」

     互い違いの紅と蒼の瞳を揺らしはしゃぐご主人様に思わず笑い混じりの溜め息が洩れるが、そもレンも初雪に年甲斐もなく浮かれたそちら側の悪魔である。幸いなこと、それを指摘する者はこの場に居なかったが。

     どちらかと言えば単純寄りな主従が揃ってわちゃわちゃ会話を続けている間にも、雪は緩やかに勢いを増してきているようだった。これはかなり積もるな、と予想が確信に変わったレンは、アカネとの会話を弾ませながら何気なく地を眺めて──ふと、気付いた。

    「──あ?」

     徐々に銀へと装いを変えていく世界の中、"ソレ"がレンの目に留まる。
     一見すればソレは黒一色の塊に、うっすら雪を被った見慣れないオブジェクトだった。不審感が拭えず注意深く地上のソレを観察して、次にソレが人の形をしていることに気付く。
     そして最後にソレの正体に考えが及んだ瞬間、レンは突発的に窓に手を掛けていた。

    「さっむ!? レン! 何で窓開け──!」

     レンの手により開け放たれた窓から容赦なく流れ込む冬の外気に襲われ、不意を突かれる形となったアカネは当然反射でブーイングを飛ばし──その最中で発言が止まる。
     中途半端に開かれた口をそのまま目を丸くした彼女の瞳に映るのは、窓枠に足を掛け既に頭を外に出しているレンの姿。

    「野暮用が出来た、行ってくる!」

     目的も場所も一切告げず、ほんの最低限の理由だけを残し、問答の時間も惜しいとばかりにレンは窓から飛び降り、落ちてゆく。頭上から呆れたように慌てたように叫ぶ声に多少の罪悪感を覚えるが、それ以上に驚愕と言い知れぬ焦燥がレンを駆り立てていた。

     下半身を中心に身体強化の魔法を掛けることで、五階からの跳躍の後に襲いかかる落下衝撃を見事に軽減。数字にして十五メートルの高所をものともせず、レンは風の如く走り出す。

    (あンの、野郎……)

     吐息が白く染まる寒空の最中、瞼の裏に貼り付いたあの男の姿が瞬く度に見えてしまうことに苛ついた。

     レンがあの男に向ける感情に、所謂友情や親愛と呼ばれる好感は一切ない。行動が、手段が、思考回路が、そもそも存在自体が『邪』と呼ばれるに相応しい神であることは身を持って知っている。

     最悪をそのまま生物の貌に押し込んだような、非道と嘲笑がこれでもかと似合うクソ野郎なんてレンは二人しか知らない。
     その内の一人である黒を纏ったあの男に好感情はないと、レンは頭の中で再三繰り返す。それでいて尚、先程見た彼の後ろ姿に案ずる何かをレンは拾ってしまったから、焦れる自分に心底呆れつつ己が感性のまま突き進んでいく。

     レンの脚力をフル稼動すればそう時間も掛からずその背中が見えてくる。黒の帽子と外套の肩口を白く染めた状態で、最初に目撃した場所から一歩たりとも動かずに佇んでいたソレは。

    「バチバチ男!」

     大声でそう呼べば初めて彼は緩慢な動きでこちらに振り返る。灰の髪を北風で揺らしながらレンの姿を確認した後、一拍置いて彼は蜂蜜のような色の瞳を細めて、笑ったのだった。

    「それなりの付き合いになるはずだが……まだ名前一つ覚えも出来ないのか、レン・クロス」

    「うるせえ、何でも良いだろ」

     ほぼほぼ恒常と化した短いやり取り。今回違う点を挙げるとするならば、その会話が城内ではなく外で行われていることだろう。
     ──その一点が、レンに微妙な違和感を植え付け、焦燥感へと拡張させていた。

    「何こんなクソ寒い中ボケッとしてんだよ。そんな雪でお洒落して」

     一言後ろに付け足された文句に気分を害するでもなく笑った『バチバチ男』──本人の名乗るところではナルカミ、と呼ぶらしいそれ。
     ナルカミの身に薄らと被った白の正体は雪だ。その事実は、彼がそれなりの時間を外で過ごしていた不可解を裏付ける。今までレンを訪れる際は躊躇なく魔界の王が暮らす城に無断で、ぬるりといつの間にか侵入して来ていた邪神が、今回は外で突っ立っている。

    「それは心配か?」

     可笑しなものでも見たかのように、ナルカミは冗談を言うような声色でレンへ問い返す。それに対して苦虫を潰したような表情を見せたレンだが、ハッキリ否とは答えなかった。
     ──それは即ち、多少なりともレンがナルカミを気にしていることを示すのだが。気付いたかそうでないか、或いは敢えて気付かない振りで済ませてやったのか、ナルカミは「はは」と白い息を吐き出すだけに留める。
     そして、静かに答えを語ったのだ。

    「雪──雪の結晶を、見ていた」

    「雪ぃ?」

    「思いの外時間潰していたか。……まあ、それだけの話だよ」

     何てこともないことを証明するかのように、ナルカミの態度は平時と大差ない。ただ時間を忘れていた、と抜かす彼はレンがすっかり見慣れた涼しい表情のまま。本当にただ"気紛れを起こしただけの神"のように見えた。

    「────なんか、思い入れでもあったのか」

     故に、自然と洩れ出たその言葉には根拠も、理屈も理論もない。天啓のようにふと脳内に湧いたその考えを舌でなぞっただけ。

    「──」

     沈黙が場を支配する。どちらかと言えば饒舌な方のナルカミが珍しく黙って、弧を描いた口をそのままに、細めていた目を元の大きさに戻してレンを見つめ返している。

    「あーえー、その」

     明らかに何か変化を起こしたであろう己の発言に遅ばせながら不安を覚え始めたレンが、咄嗟に言い訳を探そうと口を開いた時だった。

    「つくづくお前は馬鹿だが直感に優れているな」

     ナルカミから率直な悪口と称賛を受け取り、感情の方向性の狂ったレンは「お、おう」と微妙な返事をすることしか出来なかった。
     そんなレンを見てナルカミはまた一つ笑って息を吐いた。白がゆらゆら揺れて、緩やかに風に流されていく。

    「雪には何かと縁がある。雪みたいなあいつと……シノリと出会った日も、雪が降っていた」

    「……!」

     シノリ。その名前はとある人間の少女のものだ。目の前の邪神が手に入れんと策を講じる恋の相手。記憶では挑発的に笑って、レンのことを『ヤニカスおにーさん』呼ばわりしてナルカミに連れ戻されていった、"雪の結晶"をモチーフにした形の髪飾りを着けていたあの少女。

     一定の納得が得られた一方、『雪みたい』と語るナルカミの意図は理解出来なかった。かの少女と雪の姿形を脳裏で交互に思い浮かべてみるものの、結び付くような共通項は見つからない。
     強いて挙げれば彼女の白い瞳に雪を連想出来なくもないが──逆に言えばそれだけだった。

    「そういえばお前、雪の結晶を近くでまじまじ眺めたことはあるか?」

    「はあ? いや、ねえけど……」

    「ほら、こっちに来て見ろ」

     呆気に取られるレンに構わずナルカミは自分の帽子の鍔を片手で摘まんで取ると、もう片方の手でこちらを手招いてくる。その言動が意味するところを理解出来ずに警戒心を抱くと「つれないな」と一言呟いて、向こうから歩み寄ってきた。サクともシャクともつかない音が僅かに耳に届く。
     『来るな』とも言えないこちらが黙ってそれを眺めている内、目の前まで端正な顔を近付けてきたナルカミがとんとん、と雪被りの黒帽子の一ヶ所を指で示してくる。

     自然と視線を向けた先にレンが見たのは、他より少し大きな氷晶だ。
     大きさにして精々六から七ミリ程度。その小ささ故に本来細部を見ることの叶わないそれだが、目と鼻の先で目視出来ていることに加えて、白透明色の映える黒地を背景としているのも相まって全体の造形を細やかに視認出来た。
     中心から伸びた六つの枝から更に細やかな枝が分かれ、更に更に細やかな枝が分かれることで形成されたそれは、見る者の心を動かすに足る魔性がある。権威のイメージを左右する王城の装飾を任される才覚を持つレンにも当然、その造形美を理解出来た。

     正しくそれは、天然自然が生み出す芸術の象徴であると。

    「すげえ良く見える、綺麗だ」

    「ああ。触れられないのが惜しい位にな」

    「そりゃ触ったら溶けちまうだろ、当たり前だ」

    「知ってる。酷い話だ」

     雪を払うことなく帽子を被り直しながらそう語ったナルカミの顔はどこか、物思わしげだ。思えばこれまで一度も彼をそれを振り落とす素振りもなく会話を続けていた。まだ不自然に残り、僅かに嵩を増しているその白さは明らかに故意のもので、それ程雪に対する思い入れが強いことが見て取れた。

    「そんなにシノリと雪って似てるのか?」

    「似てるさ。出会った頃から雪のようにずっと……儚い女のままだ」

     それに敢えて踏み込んだレンを迎える声が、存外にずしりと質量を感じる程重かったのだから。思わず面食らって、閉口するしかなかった。
     北風がレンの頬を刺す。風に乗せられてレンの鼻先に落ちてきた雪が肌に触れた瞬間、跡形もなく水に崩れた。

     ──そんな儚さが、呆気なさがシノリであるとナルカミは語る。その声がある種の神聖さを孕んでいるかの如く快いもので。醜悪と呼ぶにはあまりにも遥か遠すぎる眩むような慈愛に、意味も分からず胸が締め付けられそうになる。

    「なんで、そんなんで……」

     そんなものを胸に抱き込みながら非道を戸惑わないのは、邪神だからなのか。何より柔らかな気持ちを愛おしみながら、愛する者から家族も友人も引き剥がす手段を取ったことに後悔はないのか。
     そも、どうしてナルカミが、数ある手段の中からそんな手を選んだのだ。

     目の前で穏やかに想いを語る邪神を見て次々と込み上げたものは、しかし喉から吐き出すには足りなかった。寸前で引っ掛かって、言の葉を飲む。

    「……あれには家族はもういない。死んじまった。────もう、帰る場所なんてとっくに無いのさ」

     それ故レンの胸中を読んだかのように告げられた真実は、あまりにも凄惨過ぎるもので。

     生憎レンには幸福な家庭と呼ばれる概念に縁は無い。それでもきっと、シノリにとっては心の支えとなる場所であったことは想像に難くない。
     それが、あの少女には無いと言われた。それも元から無かったのではなく、失った──共に生きてきたはずの家族は死んだと言われた。

     逃げたところで『帰る場所は無い』と、そう断言されてしまった。

    「それをあいつは知らないで……!」

    「知ってる。それが起きたのはシノリの目の前だったそうだ」

    「どうしてそんな事になったんだよ!」

    「俺に言わせれば誰のせいでもなかった」

    「テメエはそれを止めなかったのかよ!?テメエくらいならそんな不幸止めるくらいどうとでもねえだろうが!!」

    「事が起こったのは初めて出会った日……その少し前だった。全部終わった後に、シノリに会った」

     質問を重ねる毎に語気が強さを増していく。しかしより激しく、より深く嘆きながら暴くことによって浮き彫りになるのは"どうしようもなかった"としか言えない、一切の失敗も過失も介在しなかった悲劇でしかなくて。

     事件の詳細をレンは知らない。もしかすればそれは、ナルカミがほんの少し早くシノリに出会っていたならば回避し得た運命だったかもしれない。
     でもそれは決して、ナルカミの責ではない。『誰のせいでもなかった』ことでしかないそれに責任の所在など何処にもない。そもそも、事件に関われもしなかったレンでは口を挟む余地もない。

     どれだけここで言い合いを重ねたところで、彼女が失ったものは──。

    「────じゃあ、あいつは、シノリは」

     そこまで思考が追い付いたことで新たな疑問が急浮上する。今までレンは、シノリは帰るべき家があるからナルカミを拒んでいるのだと思っていた。しかし今までのやり取りが嘘でない限り、彼女は帰る家に居たはずの誰かが居ないことを知った上でナルカミから逃れようと足掻いている。
     それは、もしかして可笑しいことではないのか。

    「お前から逃げたらあいつは何処に行って、何するつもりなんだ?」

     ナルカミに致命的な問題があるから嫌われている、憎まれているのだろうか。──個人的な感覚ではあるが、違うと思う。どこがどう違うかをレンが完璧に言語化することは叶わないが強いて言えば、彼とサタンはまた別だから、と表すのが適切か。

     ならば、もしかすれば。焦点を向けるべきは恋をする側のナルカミではなく。

    「シノリの願いが死ぬことだって知ったら、お前はどう思う?──なあ、レン・クロス」

    「……………………は」

     ──その言葉の意味を、レンは上手く飲み込めなかった。

    「死ななければならない、それ以外には何も無い。俺の恋心なんてシカトだ、笑えるな」

    「は、いや、なんで」

    「あいつにとってはそうなのさ」

     まるで理解が及ばない。レンに言わせればそれは異常の一言だった。どう生きればそんな風に自身の生を扱ってしまうのか、何を背負えば死ぬことを自ら望んでしまえるのか。
     全く未知の領域。理解出来ない、したくない。だってそれはレンの人生と、価値観と真っ向から対立する相容れない願いだ。生を一番に願うという、レンの基盤と言うべきものと。

    「だが、それでも俺はシノリを生かし続けている。会った日からずっと苦痛を強い続けているんだ、レン」

     それは一瞬、正しいことのように思えた。何より美しい愛の形だと思った。少なくともあの二人の関係よりはずっと、ずっと健全で前向きなように思えて、その問題点が見えなかった。
     しかしナルカミはそれを『苦痛を強い続けている』と表した。遅れてそれは──彼女に生を願い続けることはレンにとって、死ぬことを強制されることに近いのだろうと朧気に気付いたのだ。

    「手放せば死ぬ、手元に置いても苦しめるばかり。どうしようもなく儚くて酷い話だよ」

    「…………辛く、ねえのかよ。ずっと真横でそれを見て、お前は」

     大切な者を苦しめさせたまま、その近くで生きる。痛いほど覚えのある感覚だ。決して黙っては見過ごせない、けれど自分に何ら手立てはなく、無力感に苛まれることしか叶わないあの感覚。
     ナルカミはほんの少しの間目を伏せて、「残酷な自覚はある」と答えながら顔を上げた。カチリとかち合った視線、レンの瞳に映ったのは、雪空に似合わぬふざけたくらい晴れやかな顔で。

    「それでも共に生きるさ。なァに、俺は神様だ。人間一人くらい、必ず生きた上で幸せにしてやる」

     愛した者が失ったものも、願ったものも全て知っていながら己がエゴを押し通すのだ、と声高らかに傲慢が宣言される。
     あまりにも邪神らしい身勝手で、それでもそれを『醜い』と思うにはあまりにも眩しすぎて。レンはただ、目を見開くしかなかったのだ。
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