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    mougen_oc

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    mougen_oc

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    ルーリィ幼少期の出会い話

     その子に出会ったのは、ルーリィにとって本当の本当に偶然のことだった。

     ルーリィはついさっき引っ越しをしてきたばっかり。本当は今日中に冷蔵庫とかテレビとか洋服とか、とにかくいっぱい物を運び込まなくてはいけなかった。
     そしてルーリィはたった6歳の子供ではあるが、大人を遥かに凌駕する力持ちである。自分が手伝うのは当たり前だろうと思って張り切っていたのだが、彼らはそういう訳でもなかった。
     『子供に危ない真似はさせられない』『すぐ近くに公園があるから、好きに遊んできても大丈夫』『危なくなったら、大声で叫んでね』と。

    「ボク、ドジじゃないもん」

     彼らなりの善意であることは承知したが、今日の世間は平日というやつで、公園なんかに行っても元気な遊び相手なんていないのだ。先程新しくここに来たばかりでお友達どころか、知り合いもいないのだから尚更。

     ーーーーそう思っていたのだが。

    「……すぅ……すぅ……」

     インクのように真っ黒な長い髪の女の子が、真昼間の公園のベンチの上で丸まっている様子を目撃して、ルーリィは一体何事かと慌てて駆け寄った。しかし顔も確認出来るくらい近寄ってみれば、ただ規則正しく寝息を立てているだけ。

    「えー……?」

     いや、『だけ』とするには可笑しな話だ。
     平日の真昼間の公園のベンチで自分とそう変わらないだろう子供が眠っているなんて、どう考えたって普通のことではない。せめて保護者となる人が近くにいるのならまた話は変わったのだが、辺りを見渡しても大人は一人もいなかった。

     世の中には危ない考え方をする人がいることをルーリィは知っている。ルーリィはこの女の子をこっそり拐って、なんてことはしないが、他の人はどうかは分からない。だというのにこの女の子はそんなことなど知らないという顔で、夢の中を呑気に冒険している。
     まるで猫のようだと思った。日の当たるベンチを身体いっぱい使って占領し、周囲に構わず欲求に抗わないその姿が、黒猫のように見えた。もしかしたら、人間の姿をしただけで中身は本当に猫なのかもしれない。

    「ねえ、ねえ」

     しかし中身が何者であれ流石に放っておけないと判断したルーリィは、女の子のほっぺたを人差し指でツンツンつついた。子供特有の滑らかでふにふにの肌触りと、日向ぼっこで高めのじんわりとした体温の感覚が指先に伝わる。

    「……ー……」

     昼寝の邪魔が入ってか、その子が鬱陶しげに身動ぐ。そのまま暫く動かなかったので二度寝してしまったのかと顔を覗き込んだ時、ゆっくりとその瞼が開かれ、とろんと寝惚けた眼と視線が交差した。

    「ーーあ」

     新品のキャンバスのような、真っ白な瞳だった。

     いや、ルーリィ自身の感受性の赴くまま表現をするならば、純白の瞳だった。澄みきった白。穢れ一つ混入していない、今まで見た中で一番に綺麗な白。
     生まれて初めて、綺麗なものを見て息を呑んだ。幼かったその時は、それが感動によるものだということは知る由もなかったけど。

     思わず漏れた声を最後にルーリィは衝撃でピタリと停止して、何も喋れなくなってしまった。一方黒猫少女も起きたばかりで脳の処理が始まっていないのか心ここに在らずといった様子で、同じように黙ってルーリィを見つめるだけ。

     ーー何か声をかけないと。声掛けの基本は挨拶、そしてお昼の挨拶はこんにちはだ。いや、起きたばっかりの彼女に対してはおはようから始めるのが適切だろう。違う、初めて会う人には初めましてを言わなくてはいけない。どの挨拶が一番この奇妙な邂逅に最適なのか分からない。いっそのこと一度に全部言った方が良いのだろうか。
     起こしたは良いものの起こした後のことは脳から落っことしてしまい、加えて純白に心を奪われてしまったルーリィの考えはいまいち纏まらず、そのまま硬直を延長。すっかり究極の三択とプラス一択に悩まされてしまう。

     その結果、無言の間を最初に打破したのはーー

    「ーーーー綺麗なピンク色!イチゴオレみたい!」

    先程まで夢現だった目を心なしかキラキラと輝かせて、そう自分の瞳を称賛する彼女の声だった。

    「いちご……おれ?」

    「あ!すごい、テレビの中の人みたいだね!すごい、すごい!ねっ、ねっ、お願い!」

     首を傾げて聞いたこともない単語を復唱する自分を他所に、まるで本物のキャンパスのように白瞳いっぱいにルーリィの顔を映す黒猫少女の興奮は凄まじいもので。あっという間に両手でルーリィの手を取ると、弾けんばかりの笑顔でこんなことを言ったのだ。

    「私の、お友達になってください!」

     まさか挨拶よりも先にお願いをされるとは思っていなくて、包まれた手とその子を交互に見て、それでも分からなくてずっと首を傾げるばかりだった。
     それでも、その子が楽しそうに、嬉しそうに自分の返事を待っている姿があまりに健気で無邪気で。何だか小さな黒猫に懐かれてしまった感覚がして、つい『嫌』とは言えなかったのだ。
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