魘夢さんから結核さんへあぁ、君は光る小人の手を取って行ってしまうんだね。あんなにも俺の見せてあげてた夢に溺れてたくせに。
ふふ、1度も振り返ることなんかなく、小人の手を取って明るい方へ。
行くといいよ、俺はただ、今後の君の不幸を願うだけだよ。
俺の居ない君の人生がただ不幸であるように。
こんなことなら、出会ったときに喰ってしまっておけば良かった。
ふふふ、と魘夢は1人笑う。
死に近い病気をかかえ、死を見つめていた彼の頼りなげな絶望の表情は魘夢にとって、好物であった。死の影に怯える彼の顔を眺めるのが楽しくて、ずるずると喰わずに手駒として使っていたのだ。
報酬としてのいい夢を見せてやっているうちに、彼の表情に魘夢への思慕が見えていたのも魘夢は知ってる。知っていた上で唇くらいなら、時々、許していた。
それ以上も彼が望むなら。
それをあんなに簡単に光る小人の手を取って行ってしまうなんて。
ふふ、愚かだなぁ……。
彼は片手で光る小人の手を取り、愚かにも反対側の手で魘夢の手を取ろうとしていたのだ。
一緒に行きましょう……と。
魘夢は愕然とする。
ここまで、俺の事を理解していなかったのか……と。
行けるわけがない。自分は地獄に行くのだ。
自分も呵責され、呵責される他の亡者たちを眺めるのだ。
そこはきっと自分の行くべき場所だという確信がある。
あぁ、愚かだなぁ……。
嗤って彼の手を振り払ったのに、心がちくちくとするのは何故だろう。
負けてなかったら、彼を喰ってしまっただろうな……と魘夢は思う。
光に向かう彼の魂を手放してしまったとしても、せめて身体くらいは余さず取り込んで、全て自分のものにしたかった。
それもできなかった。なんという悪夢なのだろう。
魘夢は暗い中を堕ちていく、一人で。
とうの昔に、覚悟は決めていたはずだった。
その結果がどう返ってこようと、ただ己の心のままに生きると。
悪夢だなぁ……。
魘夢が暗闇の中、伸ばした手はただ空を掻いた。