アウトサイド天気の良い、冬にしては日差しの暖かい日だった。
小春日和というのはこのような日なのだろう。
ランチの時間は過ぎ、ティータイムにはまだ早い時間。
カフェのテラス席に鉄道同好会の面々は、春休みの遠征の打ち合わせのために集まっていた。
遠征の費用を節約するため、一番安いメニューのホットコーヒーを飲むメンバーの中、会長だけが少しだけ高いホット柚子ティーの入ったカップを両手で包むようにしてすすっていた。
小春日和とはいえ、風が入る通りに面したテラス席を選んだのは、人数の多い打ち合わせでもカフェ側に迷惑を掛けないだろうという算段だ。
通りを歩く女性達がチラチラと会長の方を見る不躾な視線を感じて、お下げの少女は会長を通りの視線から隠すように席を移動した。
会長は綺麗だ。
列車の中での奇行さえなかったら。
ぬけるような白い肌、長いまつ毛に縁取られた夢見がちのような大きな瞳、常に柔らかく微笑むような形良い唇。穏やかで、優しい所もある。
奇行さえなかったら。
春の撮影会で、鉄道列車と会長が一緒に入る写真が撮れたら、どれほどいいだろう。
春休みだし、桜も咲いているかもしれない。
とすると、桜が咲く撮影ポイントもいいかもしれない。桜と会長と列車、とても素敵だろう。
メンバーにもそれを提案してみる。
どうせなら、その地方のローカル線の撮影もしたいという案も出てくる。
会長はただにこにことメンバーを眺めて、頷いている。
『ふふふ…』
『楽しかったなぁ…』
過去形になっている所を見ると、会長はいつの間にか、またぼんやりと夢想の世界に旅立っていたようだ。
『いやだなぁ、会長。撮影会はこれからですよ』
短髪の青年の声に、会長は再び『ふふふ』と笑った。
そのとき、前髪の長い細面の青年がゲフゲフと咳き込みはじめた。
『大丈夫かい?少し冷えたのかもねぇ』
会長は彼の顔をニコニコと優しげに覗き込む。
『…すみません、少し喘息が出たようです。ここ数年は出てなかったのですが』
『うん、だいたい決まったね。まだ予定までは時間があるから、今日はこれくらいにしようか。少し風が出てきたようだし、今日はゆっくり休もうかぁ…』
息苦しそうな彼の顔を覗き込み、ニコニコと笑う会長の目が輝いているのは見なかったことにしようと思った……。