首飾りネタニヤついた同期の褐色の手が、ハンカチ越しに首飾りをつまみ上げていた。明らかに良からぬことを考えていると分かるその顔に、イリヤは呆れてため息を吐く。
イリヤは商家の息子だった。
その商家は、歯ブラシや食器といった日用品類から、シャツや下着、アクセサリーにぬいぐるみ、それから刃物まで取り扱う。
刃物を新調したいから、買物の案内をして欲しい。そういう名目だったのに、主たる目的は別にあったようだ。
刃物の新調は早々に済み、何故か百貨店に来ている。
「それ、常日頃からつけさせるつもり?」
黙ったまま笑う同期ルーシアスは、そうするつもりなのだと悟る。
一粒ダイヤの首飾りは、ごくごくシンプルで、服の下につけていてもほとんど目立たない。
問題は、首飾りは鎖ではなく、細長い金属の板を加工して留め具をつけたものだと言うことだ。
「相手の好みならいいと思うけど……」
細くて高級感がある、24金の首輪。恐らくはチョーカーに類するデザインなのだろう。
マヌカンは「作りがシンプルなので、軽くてつけやすいですよ」と勧めるが、どう見てもおしゃれな首輪である。アクセサリーをデザインした奴は変態だと、イリヤは思う。
それを、「あの子」につけさせようとするルーシアスも、なかなかの趣味だった。絹糸色の短い髪に、すらりとした中性的な容姿、涼しい顔、そして男の装いをした少女。普段は素っ気なくしている二人だが、肉体的にも深く繋がりを持っていることにイリヤは気づいていた。
プレゼントしたところで、そもそもつけてくれるんだろうか、とイリヤは思う。「アクセサリー貰っても、好みじゃないと困るんだよねえ」とのたまう妹が頭に浮かぶ。
そこまで考え、いや、とイリヤは考え直した。
倒錯的な趣味の同期と付き合っているなら、あるいは「あの子」もそれに噛み合う趣味なのかもしれない。
だとしたら、絶対、ヤッてるときにも着けさせるやつだろ。
当の本人にも「何かいやらしくない……?」と言われるに違いない。その後の展開は推して知るべしだ。
エロくてデカい留学生と評されるルーシアスが、首飾りを包んでもらうのを見て、イリヤはそっとため息を付いた。