たにま「あっ……」
隣を歩くグレイが唐突に上げた声に、アッシュは足を止めて振り返った。
薄暗い水族館の順路の途中、少し後ろで立ち止まっているグレイを見ると、何やら慌てた様子で身を縮こまらせている。右腕が、平均よりもサイズが大きい乳房を支えるようにしていて、左手はVネックのニットワンピースの胸元を掴んで中を覗き込むようにしていた。
「どうした」
眉を顰めて問いかけると、うぅ、と不明瞭な声が返ってきた。重ねて、なんだよ、と言うと、目元をじわりと赤く染めて、窺うように上目遣いをする。
「あの……」
「はっきり言え」
「……イヤリング、が……」
「あ?」
「…………イヤリングが、落ちちゃって…………」
ぼそぼそと言う声を拾って、珍しく編み込みでハーフアップにしているおかげで見えやすくなっている耳を見ると、右耳にあったはずの飾りがなくなっていた。以前、アッシュが贈ってやったイヤリングの片割れで、もう片方は左耳にきちんとついている。
2019