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    hebiashixxx000

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    厨子に嫁ぐゆうじの話、冒頭
    宿虎だけど真人くんとケンジャクちゃんメイン

     一〇月三一日の正午過ぎ、快晴ではあるが風の冷たい日だった。
     稲刈りを終えて土が剥き出しになった田んぼを見下ろし、真人はずきずきと痛む頭を押さえ、盛大にため息をついて途方に暮れていた。
     本当なら今ごろ後輩の吉野を引き連れてデートをしているだろう与と三輪をからかいに行き、渋谷のハロウィンイベントで大騒ぎしていた筈だった。何が楽しくてこんなド田舎の真ん中でゲロ吐きながら踞ってるんだろう……と萎れる真人の心中に保護者でありゼミ教授の漏瑚が「調子に乗って飲みすぎたお前が悪い」と正論を言ってくるのでますます具合が悪くなった気がする。あまりに理不尽だがツッコミはいない。
     誰かに迎えに来てもらおうにもスマホは電池切れなのか真っ暗な画面のまま動かず、ならば駅かバス停を探して知ってる場所まで帰ろうにも、田んぼと古い家がまばらにしか見当たらず、だめ押しにどこかにカバンごと財布を落としたようで、現在の真人の装備は吐瀉物まみれのジャケットとTシャツ、ジーンズに動かないスマホという明らかに詰みの状態だ。
     再びため息を付いて畦に座り込んだ真人の後ろからギィィと金切り声を上げる軽トラックが近づいてきて止まる。振り返ると、軽トラックから黒い法衣にお高そうな袈裟を纏った黒い長髪の男が一人降りてきた。
    「この辺りじゃ見かけない顔だね? 観光客かい」
    「あー……昨日酔っぱらってここまで来ちゃってさ……」
    「おやおや、つまりは帰れなくなってたって事かな」
     にこにこ胡散臭い笑みを浮かべる男の額に走る痛々しい縫い傷を見ながら「まあ、そんなとこ」と返す。
    「たまたま会った縁だ、駅まで送っていこう」
    「マジ? 胡散臭いなんて思ってゴメン」
     地獄に仏。何とも有りがたいお言葉を頂き、思わず先程までの彼の印象を口にしてしまったが、彼は構わず「良く言われるよ」と笑っていた。
    「しかし、その服では駅で嫌な顔をされそうだね……先に家に寄って洗濯しようか」
    「……あー……ウン、お願いしゃす」
     男の目線の先には吐瀉物まみれの真人の服と真人自身。確かにこれは嫌がられる……それは別に良いが、吐瀉物まみれで自分が気持ち悪い。せっかくなので真人は甘えさせていただく事にした。
     
     男は夏油と名乗った。吐瀉物の臭いで酔いそうだったのでぐるぐる手動で窓を開けながら、この村の寺で僧侶をしていると簡単に言われて、真人も自分が大学生で昨日はめちゃくちゃ飲んで気づいたらここにいたと説明した。
    「若いね、良いなあこういうノリ」
    「そうでもないよ、もう懲りたし、俺はこれから一切酒は飲まない」
     関係の無い蛇足だが、この宣言は次の日には破られる。
     さて、ぎいぎいと悲鳴を上げる軽トラックは村の中心にある大きく古いが、良く手入れされた寺に入っていく。民俗学の教授である漏瑚が見たら喜びそうだなと思いながら夏油に「風呂と洗濯はこっちだよ」と案内され、軽トラックを降りた真人は古寺へと足を踏み入れた。
     
     古寺の見た目に反して以外にも現代的な風呂場と洗濯乾燥機を借りた真人は、服の乾燥が終わるまで夏油から法衣を借りて夏油の後を追いながら寺の中を散策していた。
     中はやはり古い造りで、ちらと見た部屋には色々な物や古文書らしきものが丁寧に棚に並べてあり、「今度うちのゼミの教授連れてきて良い?」と思わず夏油の後ろ姿に問う。夏油は「良いとも。気に入る物があると良いのだけれども」と答えた。
     それらを眺めている真人の目にふと一つの写真立てが留まり、思わず手に取った。
     何てこと無いただの写真立てだが、中の写真は少し奇妙だった。色褪せた古いセピアの写真で、写っているのは、白いベールのようなものを頭から被った青年。黒ではない短い髪に大きな目、その下にはもう一対目があるかのような傷と、右の額から眉にかけてと左の口の端に大きな傷があり、黒い花の髪飾りを付けて上下共に同じような白い服を着ている。まるで花嫁衣装にも似たその服装だけでも何となく異様だったが、彼が抱えている物もまた気になる物だった。仏像や仏具を収納する厨子……とでも言うのだろうか、仏堂のような形をしていてあまり鮮明ではない写真でも分かるくらい古そうなそれを、彼は大事そうに抱えている。こちらを向く両開きの戸が少し開いていて、暗い暗いそこから誰かが見ているような気がした。
     暫くその写真を見ていると「どうしたんだい」と、いつの間にか夏油が後ろに立っていた。
    「誰? これ」
    「私の末の息子さ。コレに嫁いだんだ」
    「はあ……」
     真人が「何言ってんだコイツ」と言いたげな表情を浮かべる。夏油の見た目は二〇代後半か三〇代辺りで写真の青年はどう見ても自分と同い年……あるいは自分より少し年下の高校生ぐらいで夏油と親子関係にあっても年齢が合わない。それに写真の劣化具合から夏油が生まれる前……五、六〇年前、あるいはもっと前のものに見える。真人の疑問の眼差しを受けながらも夏油は気にした様子は見せずに笑う。
    「信じていない様子だね」
    「まあね。だってこの写真めちゃくちゃ古いじゃん」
    「私はこれでも長生きなんだ。息子は……確か……一〇人ぐらいいる筈だ」
    「ふーん……」
     その話は別に興味ないから良いかなと言わんばかりに真人はまた写真を見返して違和感を覚えた。何が違うのかとジッと写真を見ていると、夏油が「君、見える人かな」と言う。
    「たまに写真の厨子の戸が開くんだ。宿儺がこれを通して様子を見てるんだろう」
    「は?」
     夏油の言葉に再び写真を見ると、違和感の正体が分かった。先程まで少ししか開いていなかった厨子の戸が全開になっていた。青年は当たり前だが変わらず厨子を持ってそこに佇んでいるのに。
    「宿儺って?」
    「息子が嫁いだこの厨子の中身だよ。両面宿儺、四つの腕と二つの顔を持つ主に日本書紀の時代に飛騨の英雄とも豪族とも鬼神とも伝わる……聞いたことない?」
    「漏瑚……教授の研究室で資料は読んだことはあるよ」
    「ウチの昔話では四つの腕と四つの目を持つ宿儺と呼ばれていた人間がいて、それを厨子に封じている……と伝わっているんだ」
     思いがけず自身の研究分野であり、漏瑚が好きそうな話が聞けそうで前のめりになって聞いてしまう。その様子に夏油はくつくつ笑いながら額の縫い目を撫でる。
    「良いよ。君達の話をするのもたまには悪くないだろう? 宿儺」
     真人の持つ写真に向かって話し掛けた夏油に、真人は不思議そうな顔をしながらまた写真を見る。開ききった戸の奥、真っ暗な場所からはなぜか鋭い視線を感じる。こちらを見ているのは青年の無機質な目だけなのに。
     
     夏油に促されて近くの部屋に入る。広い部屋の奥に古い仏像がいくつか並び、濃い線香の匂いが充満する……どうやら本堂のようだ。
     仏像を正面にして座るように言われて用意された座布団に座る。夏油は真人の前に、仏像を背にするように座る。そして写真立てをまるで三人目がいるかのように二人の間に置いた。
    「では、私の村に伝わり今もなお生き続ける呪いの王の話をするとしよう」
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