けろいどみるく 子供の頃腕に皮膚炎ができた。痒くてたまらないし、掻くと皮がむけて膿だかリンパ液だかが滲んだ。乾くとパリパリになってまた痒くて引っ掻いて、また体液でベタベタになった。大して効果のない軟膏を塗って、搔かないように包帯を巻いた。白い包帯にべっとり付いたリンパ液が黄色く固まって、独特の匂いがした。
体が成長するにつれて皮膚炎は自然と治っていった。痕も殆ど残っていないし、あの包帯の独特の匂いも記憶から消えていった。
荼毘との距離が妙に近付いた時、ふと懐かしさを覚えた。つぎはぎの境目に新しい血痕。ケロイドの肌。いつだってどこかしら傷だらけの体。記憶の奥底にしまってあった、匂いの記憶。
「……おい、やめろヘンタイ。嗅ぐな」
耳の3cm隣にある小さな口から不満げな声が漏れる。俺は今荼毘の首元に顔を埋めて鼻から深く息を吸っていた。
「いやあ、なんか落ち着くんだよね」
「意味わかんねえよ。人肉でバーベキューでもしたか」
軽口を叩いてくれることが嬉しい。それだけ気を許してくれているのだと思う。寧ろそうでなければ、ソファに座る荼毘の膝の上に座って首元の匂いを嗅ぐなんて所業は、間違いなく焼殺に値するだろう。
一回り近く歳下の青年に甘えるなんて紳士が廃れるが、ここ最近の唯一の癒しだった。
「で?やんねえなら俺は寝る」
「やる」
「んじゃさっさとしろ」
荼毘は俺を膝に座らせたまま体勢を崩してソファの肘掛けにもたれかかった。
俺の好きな荼毘の匂いがもっと濃くなる、この時間が好きだった。