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    hamham895

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    hamham895

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    初めて文章を書いてみた時のやつです。途中ですが完成しますと胸を張って言えないほど見切り発車ですので、一旦記念としてうpします。「大体こんな雰囲気の作風」というサンプルのつもりで。

    くまみてえな。「消太、聞いて欲しいことがあるんだ。」
     そう切り出された瞬間から何の話かは察しがついた。いつかこの時が来ると思っていた。それは避けられないことだと覚悟していた。予想外だったのは彼の婚約者が女性だったということだ。ゲイだと言っていたのに。いや、決め付けてはいけない。たまたま今まで愛したのが男だったというだけだろう。ついに心から愛せる女性と巡り会えたのだ。俺は元恋人として、友人として、彼を祝福するべきであろう。俺は物分かりが良い方だと自負している。
     別れはとてもあっさりとしていた。同棲していたわけでも、私物を相手の家に置いていたわけでもない。ただ恋人という関係を解消しただけだ。それ以外は、何もかも今まで通りだった。ただでさえこちらはヒーローであり教職にまで就いてからというもの仕事でがんじがらめの毎日であった。あちらさんも有名企業の上役。背が高くて動物に例えるならクマである。それでいて清潔感があり、スーツの似合う好青年であった。こちらの方が髭も髪もボサボサと伸ばし放題でよほどむさ苦しい。女のつるつるとした滑肌が恋しくなったのかもしれない。君の髭がセクシーだと囁いていやがったくせに、随分といい加減な男だ。
     かくして解散となった帰り道、わざと泣いてみようと思った。恋人と別れたのだから、思いっきり悲しくなってみようと思った。しかしどういうわけか涙の一滴もでない。なんだか鳩尾のあたりがスースーと落ち着かないような気はするが、己の頑固なドライアイは少しも潤わぬままである。少しくらい濡れてくれた方がいいのに。何を強がっている、悲しめ、愛しい男を失ったのだから。いや、失恋の悲しみは後からやってくるのかもしれない。薄い紙を滑らせた指の傷のように、後からじくじくと痛み出すのかもしれない。どうか仕事中は勘弁してほしい。何せこちらは一週間に八日は働いているのである。


    *******


     クマみたいな男が好きだ。ヒグマのようにでかくて強い男。そういうといい奴がいるから紹介してやるといらぬ世話を焼かれることがあるが、大抵連れてこられるのはただでかくてむさ苦しく、腕っ節が自慢なだけの男だった。こういうのはもっともいけない。そんな男は仕事で何人もなぎ倒してきているのだ。俺の方が強い。
     高校の同級生にクマのような男がいた。背丈は俺とさほど変わらずほんの四、五センチ高いだけだし、ずんぐりむっくりとしていたわけではないのだが、目も口も声もでかくて、白い髪がふわふわと逆立っているのが彼を実際よりもでかく見せていたのだと思う。図体の割にまだ幼さの残る、存外に高い声で「ショータ」と呼ばれるのが好きだった。やたらに距離の近い男で、躊躇いなく目線を合わせてそのでかい目を細めてにかりと笑うたび俺の心臓に細い針が刺さる心地がした。彼が俺に笑いかけるたび針は増えていき、やがて俺の心臓は立派な針山となって血を流すようになった。でかくて明るくてひょうきんで、そんな奴だからクラスでは大抵三枚目だったが(同じく級友の山田とよく馬鹿なことをしていた)その裏で女子からの評判は良く、人目の付かぬ校舎裏に呼び出されているのを山田と二人こっそりと覗き見したこともある。その時心臓に刺さったのは細い針ではなく太い杭であった。いよいよ心臓から流れる血は止まらなくなり、その時の苦痛は今でも簡単に思い出せる。その杭の名は思春期、または初恋と言う。
    苦しさに悶え何度もこの心臓を取り出して見せてやろうと思った。気安く俺の肩を抱き笑いかける距離の近さ。ほんの数センチ俺が動けば食らえてしまうその無防備な唇。舌で触れたらどんなに甘いだろうか。未発達な俺の体より大きいその背中に抱き付いたらどんな顔をするだろうか。その厚い胸板に潜り込んでも、許してくれるだろうか。
    幸い生来の真面目さを以って俺の学業の成績は落ちることなく、夢を見失うこともなく高校生活を邁進した。卒業後は彼と、山田と、恐らくは共に歩んでいくのだろう。いつかこの心臓を見せる日が来るのだろうか。この針を、抜いてはもらえないだろうか。

    彼はもういない。綿菓子が雨に溶けるように、夢から醒めるように死んでしまった。

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    hamham895

    PAST初めて文章を書いてみた時のやつです。途中ですが完成しますと胸を張って言えないほど見切り発車ですので、一旦記念としてうpします。「大体こんな雰囲気の作風」というサンプルのつもりで。
    くまみてえな。「消太、聞いて欲しいことがあるんだ。」
     そう切り出された瞬間から何の話かは察しがついた。いつかこの時が来ると思っていた。それは避けられないことだと覚悟していた。予想外だったのは彼の婚約者が女性だったということだ。ゲイだと言っていたのに。いや、決め付けてはいけない。たまたま今まで愛したのが男だったというだけだろう。ついに心から愛せる女性と巡り会えたのだ。俺は元恋人として、友人として、彼を祝福するべきであろう。俺は物分かりが良い方だと自負している。
     別れはとてもあっさりとしていた。同棲していたわけでも、私物を相手の家に置いていたわけでもない。ただ恋人という関係を解消しただけだ。それ以外は、何もかも今まで通りだった。ただでさえこちらはヒーローであり教職にまで就いてからというもの仕事でがんじがらめの毎日であった。あちらさんも有名企業の上役。背が高くて動物に例えるならクマである。それでいて清潔感があり、スーツの似合う好青年であった。こちらの方が髭も髪もボサボサと伸ばし放題でよほどむさ苦しい。女のつるつるとした滑肌が恋しくなったのかもしれない。君の髭がセクシーだと囁いていやがったくせに、随分といい加減な男だ。
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