Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    帽子屋(とある星の語り部)

    うちよそは、穏やか雰囲気で。
    うちの空は、ほんのりビターな雰囲気で。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 😻 👍 💕 😭
    POIPOI 26

    蓮兎✖️レア
    一部、残酷描写が入ります。

    その道の先運命の分岐点、それは誰にでも存在する。

    ----

    《何故こうなった?
     俺は何を間違えた?
     あの時か?いつ?…どうして‼︎どうして‼︎》

    激しい雨が降る雨林の一角。
    目の前の現実が受け止められない蓮兎は、喉から血が出るほど声を張り上げ泣き叫んでいた。

    彼の目の前には

    最愛の恋星【レア】の変わり果てた姿。

    彼の胸の核は、レアが自ら突き立てたナイフによって粉々に砕け散っていた。

    ----
    side.蓮兎

    その日は、連日続くトラブルの対応に追われて苛立っていた。普段なら笑って聞き流す些細なことさえ、蓮兎を苛立たせる要因になった。朝、レアと口喧嘩をしてしまい気になりながらも苛立ったまま仕事に出た。帰ったら謝って仲直りするつもりだった。

    ----

    「蓮兎!この書類、神殿まで届けてくるね‼︎」
    「すみません蓮水…この資料も一緒にお願いします。」

    慌ただしく神殿に報告書を提出に飛び立つ蓮水を見送り、漸く一息つけると椅子に座ろうとした瞬間。門番専用の執務室のドアをノックする音。
    周りを見渡しても自分しか居らず、小さく舌打ちしてドアを開けると泥で汚れた2枚羽の星の子が、慌てた様子で飛び込んできた。

    「どうしました?何かお困り事ですか?」

    目線を合わせて膝を降り、優しく蓮兎が尋ねると、

    「友だちが川に落ちて戻れないの…私の枚数じゃ助けられない。光も消えちゃって…木の根っこの中に逃げてるんだけど…震えてるの!お願い!助けてください」

    場所を確認すると蓮兎は、星の子を戻ってきた門番仲間に預け救助に向かった。

    ----

    「何で、このエリアの門番も守護(治安部隊)もいないんだよ⁈ふざけんなよ‼︎俺の担当エリアじゃないぞココ!」

    悪態をつきながら、目的の場所を目指す。

    雨林は常に雨が降るため地盤が緩く、崩落や落石が起こりやすい。この時も近くで大きな崩落があり、エリア担当の星の子が救助などに向かい一時的に手薄になっていた。

    助けを求めた星の子も崩落に巻き込まれたが自力で脱出し、救助が来る前に門番の元へ助けを求めたのだ。蓮兎が教えられたポイントに到着すると今にも最後の羽が散りそうな震える星の子がいた。すぐに暖め、救助にきた同僚に預けると蓮兎は崩落現場の片付けを手伝うことになった。

    一通りの片付けを終わらせ、疲れた体を引きずって執務室に戻ると、救助された子と助けを呼びにきた子が仲良く蓮兎を待っていた。

    「門番のお兄さん。助けに来てくれて、ありがとうございました!」
    「遅くなって、すみませんでした。落ち着いて救助を待っていましたね。君は、冷静で度胸がある凄い星の子です」
    「えへへ///」

    「君も必死に友達を助けようと、私たちの所まで飛んできたんですね。羽が何枚も散ったと聞いて驚きました。勇敢で優しい星の子です。良い友に巡り合いましたね」
    「えへへ///」
    「ふふふ///」

    蓮兎が褒めると、2つの星は目を見合わせて照れたように笑った。

    「それで何故まだここに?どこか怪我でも?」
    「私たちお願いがあるの?」
    「お願い?神殿までの道案内なら「違うの‼︎」…え」

    蓮兎の目の前に、2つの白い蝋燭が差し出される。

    「「私たちの育手(そだて)になって下さい‼︎」」

    「ごめんなさい。俺は育手はできません。というか、君たちバディだったんですね。」
    「「えーーーーーー⁈⁇どうして??」」

    どうしても自分たちの育手になって欲しいと駄々を捏ねる星の子たちを、何とか宥め神殿まで送り届けると執務室に戻る途中の疲れた顔の蓮水と会った。

    「あれ?蓮兎。神殿に来てたんだ?」
    「お疲れ様です蓮水。申請書類と報告書の提出、時間がかかったみたいですね…」

    「まぁね…一部、資料が付いてないだの誤字があるだの…少しくらい大目にみてくれればいいのにさ」
    「最近、崩落や落石多いですよね。エリア整備の拡張申請出した方がいいかな?」

    「蓮兎…これ以上忙しくするとレア君との時間がまた減るよ?最近、ゆっくりできないて愚痴ってたじゃん」
    「それは…そうなんですけど」

    「あれ?そういえば…さっき神殿でレア君見たよ?」
    「ここで?」

    「うん。珍しいなぁと思ったけど、師匠と一緒に楽しそうに話してた。」
    「紹介してから師匠、すごくレアのこと可愛がるんですよ」

    「お?ヤキモチ⁇」
    「見ていれば分かるでしょ?あれは完全に爺と孫」
    「あはははははは!確かに」

    蓮兎が肩を竦め呆れた様に言うと、蓮水は大笑いしていた。

    「はぁ笑ったwwねぇ蓮兎、今日はもう上がったら?申請書なら俺が書いておくし。まだレア君、近くにいるはずだよ?一緒に帰りなよ」

    蓮水の提案は嬉しかったが、朝の喧嘩で後ろめたい気持ちと、蓮水も恋星との時間が取れていないことを知っていた蓮兎は、申し出を断った。

    「いや、一緒に書いた方が早く終わるでしょう。蓮水もゼラに早く会いたいでしょうし、さっさと終わらせてしまいましょう。」

    「え?いいの?」
    「師匠が一緒なら大丈夫ですよ。それに、数日前にレアとの同居申請を師匠に渡したんです。受理されれば、正式に一緒に暮らせる。」

    「良いなぁ…俺はゼラとの同居申請は受理が難しくて却下されてばかりなのに」
    「所属エリア外への転居に加えて所在地秘密じゃ難しいですよ。ゼラが雨林に来れば良いのに」
    「いろいろあるんです〜」

    「それなら気長に行き来を楽しんで下さい」
    「勝ち誇った顔がムカつくー」

    たわいも無い普段通りの蓮水とのやり取りだった。この時、蓮水の提案を受けてレアを迎えに行っていれば何か変わっていたのだろうか。

    ----

    蓮水と執務室に戻り申請書類の整理をしていると、休憩に来た同僚がニヤニヤしながら近づいて来た。

    「れ〜んと!お前がご執心の捨て地様ヘアの子、さっきお前の担当門に来てたぞ。」
    「レアが?」

    「そう。そのレア君。なんか元気なかったけど喧嘩でもしたのか?」
    「あー朝にちょっと…怒ってましたか?」

    「いや?怒ってるっていうより…落ち込んでたかな?『蓮兎いませんか?』て聞かれたから神殿に行ってるって言ったら青ざめて飛んでったぞ?」
    「神殿に?」
    「たぶん?」

    「申請書類も出来たし、俺が神殿に持って行くついでに見てこようか?また行違っても面倒だろうし、蓮兎は部屋で待ってたら?もしかするとレア君帰ってるかもしれないしさ」

    書類を手に蓮水が声を掛けるが、蓮兎は首を振ると蓮水が持っていた書類に手を伸ばした。

    「神殿には俺が持って行きます。蓮水は先に上がってください。俺の部屋にレアがいたら、すぐに戻るから待っているよう伝えてください。」
    「えーー⁈早く帰ってあげなよ。」

    「お願いしましたよ?行ってきます」
    「ちょっと!蓮兎」

    後ろから蓮水が呼ぶ声が聞こえたが、聞こえないふりをして蓮兎は神殿を目指した。
    嫌な予感が脳裏をよぎるようになっていたが、蓮兎は気のせいだと思い頭を振った。

    ----

    神殿に到着後。書類の提出に思いのほか時間がかかり、急いで師匠の柴郡の執務室に向かう。途中、珍しく厳しい表情の姉弟子に呼び止められた。

    「蓮兎ちゃん、何処に行くの?」
    「彩葉姉さん、お疲れ様です。何処って師匠のところですよ。」

    更に、彩葉の表情が厳しくなった。

    「さっきレアちゃんが師匠の執務室に飛び込んできてね。泣きながら『ごめんなさい』て謝ってたのよ。あんなにレアちゃんを可愛がっている師匠に泣きながら謝るなんて、何かあったのかしら…?」
    「レアが泣きながら師匠に謝ってた⁈なぜ⁈」

    「私は、師匠に部屋から出されたから詳しくは分からないのよ。少ししたら暗い顔したレアちゃんが出てきたから声を掛けたんだけど…」
    「どうしたんです?」

    「泣きながら『迷惑かけてごめんなさい。蓮兎は悪くないです』て言うのよ。ねぇ蓮兎ちゃん…何があったの?」
    「朝、喧嘩して…でも!帰ったら謝ろうと」

    「喧嘩?」
    「最近、トラブル続きでイライラしてて...朝から心配したレアが、今日だけでも休んだらどうだって言ってきたんです。いつもなら笑ってお礼言うのに…おれ…酷いこと言って飛び出しちゃって…」

    「酷いことって?」
    「『役目の無いレアと違って俺は忙しいの!仕事のことに口出ししてくるなよ、面倒な奴だな!』って…レアも『心配して言ってるのに!』て怒って…ついカッとなって飛び出してしまったんです」

    「そうだったの…でも…それが何故、師匠に謝ることになるのかしら?仕事について何か言ったのかしらね?」
    「わかりません…」

    「蓮兎ちゃん。師匠への用事が急ぎじゃないのなら、先にレアちゃん追いかけたほうがいいんじゃない?私がレアちゃんと別れたの、ついさっきだし追いつくと思うの。師匠には私から伝えておくから追いかけなさい」
    「いえ、先に師匠に会いに行きます。蓮水が先に家に戻っているし、蓮水と話せばレアも落ち着くでしょう。」

    「でも…」

    この時も喧嘩の延長上だと自分に言い聞かせ、彩葉に別れを告げると、蓮兎は足早に柴郡の執務室に向かった。

    ----

    雨林管理の星の一つである柴郡の執務室は、神殿の奥にある。ノックし来訪を伝えると、中から応答があった。

    「失礼します。柴郡様、雨林第一の門【門番:蓮兎】参りました。」
    「あぁ、蓮兎か。鍵は開いているから中へどうぞ」

    執務室に入ると、柴郡が2組のティーセットを片付けているところだった。一つのカップの中身は、そのまま湯気がたっていた。

    嫌な予感に冷や汗が出始めた蓮兎だったが、柴郡に促されるまま応接セットのソファに座った。

    「柴郡様、お時間よろしいでしょうか?」
    「今はだれもいない、いつも通り師弟として話をしよう」

    「…師匠、お話したいことがあります」
    「蓮兎。私も聞きたい事があってね。」

    「あの…師匠!レアのこ「以前も言ったが、レアは随分と不安定な子だね。自分に自信がないのだろうが、あの歪な純粋さは見るに堪えないよ。いつかお前の重荷になるかもしれない。別れる気はないのかい?」無理です!」

    「俺は、レアを愛しています。愛する星一つ守れずして、『導き手:柴郡』の弟子も雨林の門番も名乗れません。どんなことがあっても、レアと一緒に生きていきたいんです!」
    「あの子も本心から、お前と生きたいと思っているのかい?」
    「当然です!いつだってレアは俺のことを…」

    不意に、今朝の喧嘩が脳裏をよぎった。

    「レアは、私に『自分じゃ蓮兎の足枷になる。』と言っていたよ?」
    「そんなこと⁉」

    「私は雨林の管理者として、所属する星の子を管理する責任がある。そして、お前の師として導く責任もあるんだよ。誤った道へ向かうなら、修正することも私の役目だ。わかるね?」
    「分かっています。しかし、俺がレアと愛し合うことに誤りがあるなんて思えません。仕事も使命も真面目に努めています。恥じることも後ろめたいことも、俺にはありません!」

    「後ろめたいことはない…か。では、レアの方は?」
    「え?」

    「数日前に、正式な雨林での同居許可を求めてきただろう?分かっているだろうけど、身元のはっきりしない星の子を内部に招くことはできないんだよ蓮兎」

    口の中が酷く乾いていた。

    「お前。レアの出自を知っていて、私に隠して申請しただろう?」

    普段の穏やかで、どこか頼りない雰囲気の師匠ではなく『導き手(管理者)』としての柴郡が、蓮兎を鋭い眼差しで見ていた。

    ----

    あの後、どんな会話をしたのか覚えていない。ただ。始終、厳しい表情の柴郡が何か言っていたのは覚えている。

    『最後に部屋から出るとき、師匠は何と言っていたっけ…』

    働かない頭で考えながら、ふらふらと自室へ戻ると蓮水が待っていた。

    「蓮兎!遅かったねずっと待ってるのに、蓮兎もレア君も帰ってこないから、俺心配でさ‼」
    「蓮水?レアが帰ってきていない?」

    「うん。もう何なの?喧嘩にしては...って!蓮兎どこ行くのさ⁈」

    蓮水の声を無視し無我夢中で雨林中を飛び回ってレアを探したが、レアの姿は何処にもなかった。

    羽を回復するため光のキノコの下に飛び込むと先客の星の子が、迷惑そうにこちらを見た。謝罪を込めて軽く会釈しすると、相手が赤い蝋燭を差し出してくる。面倒に思いエモートで断るが、鳴き声を発して「灯せ」と催促してきた。

    『急いでんだよ、こっちは‼』

    イライラしながら蝋燭を灯すと、スパイダーケープの女性の星の子だった。

    「あら?まぁまぁの顔ね。フジ君の方が何倍も素敵だったけど、あのニセモノのせいで死んじゃって。本当、最悪よ。」

    ブツブツと話し出す気味の悪い星の子だと思ったが、気にせず羽を回復していると急に蓮兎の腕を掴んで可笑しなことを言い始めた。

    「それでね、さっきニセモノがフラフラ飛んでるのを見つけたから思わず、闇花が咲く場所に突き飛ばしてやったのよ。面白いくらい、あっけなく転ぶのwやっぱり、ニセモノは出来が悪いわね気持ち悪い。それで言ってやったのよ『さっさと消えればいいのに親殺しの化け物』てwあいつ、面白いぐらいガタガタ震えだして見ものだったわwでも、すぐに水に攫われちゃって見失ってしまったの…あ~あ、残念。もっと虐めて苦しめてやろうと思ったのになぁ」

    甘えたような声で気分の悪くなる言葉を吐く女に舌打ちすると、蓮兎は女の腕を振り払い、その場を後にした。後ろから、女の独り言が聞こえた。

    「ニセモノのくせに、生意気にもフジ君から名前までもらっちゃって…レア(特別)なんて名前、あいつには勿体ないのよ。バカみたい」

    勢いよく振り返るが、女の姿はすでに消えていた。
    蓮兎は体の芯が一気に冷えるのを感じ、声の限りにレアを呼び、探し回った。

    ----

    変わり果てたレアの姿を見つけたのは、それから間もなくのことだった。

    ----

    雨林の中でも、ひと際強風が吹き、激しい雨が降るその場所は罪を犯した星の子を処刑する、一部の星の子しか知らない場所だった。

    「れ…レア?どうしてこんな場所にいるんだ?寒いだろう?早く俺の部屋に帰ろう。なぁ…れあ?」

    雨に濡れ、すでに光の消えた体の傍には、レアが自ら刺し砕いた核が冷たい光を放ちながら散らばっていた。蓮兎は、狂ったように泣き叫んだ。激しい風と雨の音が、蓮兎の泣き叫ぶ声とともに木霊していた。

    ----
    side.レア

    連日続くトラブルの対処に飛び回り、疲れて帰ってくる蓮兎を心配し「一日ぐらい休んだら?体がもたないよ」と朝から声を掛けた。
    いつもなら「心配してくれてありがとうレア」とキスの一つでもしてくる蓮兎が、珍しく苛立った目でレアを見てきた。

    「役目の無いレアと違って俺は忙しいの!仕事のことに口出ししてくるなよ、面倒な奴だな!」
    「はぁ?!!!心配して言ってるのに、なんだよその言い方‼大体、そんなフラフラで門番なんて体力がいる仕事できるのかよ?!!!鏡見てから言えよ、バカ‼」

    「レアには関係ないだろ‼遅れるから、もう行くからな‼」

    普段なら絶対にしない乱暴な物言いと目の前で乱暴に閉められたドアに、レアは泣きたくなった。生来のものかは分からないが、レアは触れ合いを好む。
    忙しい蓮兎に気を使って遠慮していたが、レアは寂しくて仕方がなかった。
    そして何より、出自の関係から所属エリアを持つことも仕事を持つことも出来ない自分を不甲斐なく思っていただけに、蓮兎の言葉はレアの心に深く突き刺さった。

    「…そんなこと、言われなくても分かってるよ。俺が役立たずだってこと…でも、蓮兎が言ったんじゃないか…愛してるって…一緒に生きようって」

    その場で、ぽろぽろと涙を流すレアの背中は悲壮感に満ちていた。

    ----

    何時までも泣いていると気が滅入ってしまい、思わず自死を考えてしまう癖か顔を出してくる。暫く前にも蓮兎に知られて、お仕置きと言う名で激しく抱かれたばかりだった。

    「怒り方がワンパターンなんだよ。何かあれば、すぐに抱いてきてさ…嫌じゃ無いけど…激しいんだよ馬鹿蓮兎。」

    ご無沙汰な情事を思い出していると、不意にドアをノックする音が聞こえた。

    「レア。そこにいるかい?柴郡だが、ここを開けてくれないか?両手が塞がっているんだ」
    「パパ⁈」

    驚いてドアを開けると、両手一杯の荷物を持った蓮兎の師匠【柴郡】が立っていた。

    ----

    「急に来て悪かったね。蓮兎が忙しくて退屈しているんじゃないかと思って顔を見に来たんだ。」
    「ありがとうパパ///でも、パパも忙しいんじゃないの?俺に時間を使うくらいなら、休んだ方が…」

    「レアは優しいね。大丈夫だよ、管理職は部下が忙しい時は割と時間に余裕があるものなんだよ。逆に、部下が暇になると忙しくなる。面倒なお役目だよ」
    「へー、管理職ていうのも大変なんだね」
    「仕事なんてどれも面倒で厄介で大変なものだよ」

    一度、冗談半分で『パパ』と呼んだのを思いのほか気に入ったらしい柴郡が、身内だけの時なら『パパ』と呼んで良いと言った為、レアは柴郡だけの時や蓮兎たちといる時は、柴郡を『パパ』と親しみを込めて呼んでいた。

    蓮兎の部屋のソファセットに座り、レアは柴郡と談笑を始めた。

    「レアは最近、困ったことなど無いかい?」
    「困ったこと?」

    お土産だと言われて渡された珍しい本や最近話題の小説、シンプルながら質の良い服など袋の中身を見ていると、レアが一喜一憂する表情を楽しんでいた柴郡が尋ねてきた。

    「えっと…お土産がたくさんあり過ぎて…本当にもらって良いのかな?…て」

    レアが困惑した顔で答えると、柴郡は笑い出した。

    「良いに決まっているwwwレアの為に持って来たのだから全部、君のものだよ。気に入らないものがあれば取り替えてくるから、遠慮なく言いなさいwww」
    「と、取り替え⁈気に入らないなんて、そんなことないよ!全部素敵!すごく気に入った。ありがとうパパ///」

    本気なのか冗談なのか分からない発言に慌てて答えると、柴郡は目元を緩ませレアの頭を撫でた。

    「本当にレアは、純粋でかわいいね。蓮兎たちも昔は素直で可愛いかったのに…段々、可愛げがなくなってくるんだから…」

    呆れたように溜息をつく柴郡だが、その顔は弟子を想う優しい師匠の顔だった。
    レアは自分には無い、彼らの師弟関係が羨ましくなった。

    「パパは…蓮兎たちのこと…とっても大事にしてるんだね」
    「あの子たちを育てると決めた以上、私は死ぬまで師匠だからね。まぁ気が向いている間は、大切にしないこともないかなwww」

    おちゃらけたように笑う柴郡だが、その目はどこまでも優しかった。

    「あの小さかった雀が、嫁まで紹介する程に成長したのかと思うと時間の流れは早いね」

    レアが彼らの師弟関係を羨ましく思い、落ち込み始めていると柴郡が、そんな事を言い出した。

    「へっ?嫁?嫁って誰の?誰か結婚するの⁈」
    「おや?蓮兎から聞いていないのかい?」

    蓮兎の名前が出た瞬間、冷や汗と共に顔を青ざめる。信じたくは無かったが、自分と別れて知らない誰かと結婚するつもりなんだと先走って考えていると、柴郡が不思議そうにレアを見た。

    「数日前に蓮兎が、レアとの正式な同居許可を求めて来たんだよ。蓮兎は雨林所属の門番だからね、所属を持たない相手と一緒になるなら神殿に申請を出さないといけないんだよ。婚約者と同棲するからって出して来たから、てっきりプロポーズでもしたのかと思っていたんだが…私、蓮兎に怒られるかな?」

    レアの顔は首まで真っ赤に染まり、恥ずかしいやら嬉しいやらで百面相していた。

    「い、一緒に生きよう、ては言われたよ///でも、けっ結婚とか婚約とかの話は///その…///まだ…///」

    「そうか。蓮兎が色々と計画しているみたいだから、とりあえず知らなかったフリをしてくれるかい?あの子はサプライズ好きだからね。私が1番のネタバラシをしたなんて知ったら、面倒だwww」
    「あはは…」

    (蓮兎、そんな風に考えてくれてたんだ///)

    「あの子は寂しがり屋だが、根は素直な良い子だ。思い込みで動くことが多少あるが…君を守り助けてくれる。上手く手綱を引いておくれ。師匠として、君たちが手を取り合って幸せになる事を願っているよ。」

    そう優しく微笑み、レアの頭を撫でる柴郡は『優しい師匠』そのものだった。

    ----

    「さて、せっかくだから散歩にでも行かないかい?晴れ間エリアに出来たカフェのケーキが絶品らしいよ。」
    「カフェ?ケーキ‼︎」

    部屋で会話を楽しんでいたが、柴郡がレアを外に誘った。

    「テラス席で食べるケーキが最高だそうだ。レア。私とデートしてもらえるかな?」

    ウインク付きで手を差し出して来た柴郡に、笑いながらOKをだすと手を繋いで蓮兎の部屋を出た。

    ----

    晴れ間エリアに到着すると、目的のカフェは大繁盛しており席も全て埋まっていた。

    「おや困ったね」
    「俺、近くの丘の上とかでも大丈夫だよ。柴郡様」

    外では柴郡の役職も考慮して『柴郡様』と呼ぶ様にしているレアが、近くの丘を指差す。
    しかし、丘の上もテイクアウトを楽しむ星の子が多く賑わっていた。柴郡に気付いた店員が、慌てて席を作ると言って来たが、彼はやんわりと断った。

    「大丈夫だよ。私たちだけ特別席では他の子に悪い。空いている場所を見つけるから気にしないでくれ」

    店員にそう伝えて、柴郡はレアを連れテイクアウトの列に並んだ。

    「そういう訳だから、どこか別の場所で食べようか。良いかい?レア。」
    「俺は何処でも良いよ…じゃなかった。何処でも大丈夫です。柴郡様!」

    答えるレアに、柴郡は可笑しそうに笑った。

    ケーキを2種類ずつ買い、何処で食べようかと辺りを見渡していると柴郡が神殿の方を指差した。

    「レア。よかったら私の執務室で食べよう。」
    「えっ?パパ…じゃなくて柴郡様の執務室⁈俺が入って良いの⁈」

    「私が許可しているんだから構わないよ。せっかくだ、美味しいお茶もあるから淹れてあげよう♪私の部屋にあるバルコニーは峡谷に続く道が見える。良い眺めだよ。」
    「わぁ!行ってみたい…です///」

    柴郡が楽しそうにレアをエスコートし、執務室に向かう。執務室の奥にあるバルコニーには4人掛けの小さなガーデンテーブルが置いてあり、様々な植物のプランターが置かれたお洒落な空間だった。

    「うわーー‼︎凄く眺めも良いしおしゃれだね‼︎」
    「彩葉が、ガーデニング好きでね。趣味で勝手に飾るんだよ。私の執務室なんだけどな…」

    肩をすくめ、お茶の準備をしながら柴郡が答える。

    「可愛い彩葉お姉さんらしい趣味だね」
    「直接、彩葉に言ってあげるといい。大喜びするよwww」

    買ってきたケーキと柴郡が淹れたお茶で、世間話などの会話を楽しんでいた。ケーキを食べ終え、お茶のお代わりを飲んでいる時、柴郡が話題を変えてきた。

    「美味しいケーキだったね。次は蓮兎と行くといい。」
    「うん!凄く美味しかった!ありがとうパパ!蓮兎はどのケーキが気にいるかなぁ♪」

    「…ところでレア?話は変わるんだがね」
    「何?パパ」

    「蓮兎との同居は、レアも望んでのことで間違い無いかい?いや、あの子が先走って進めているんじゃないかと心配もあってね。」
    「えっえっと…確かに同居申請を出したなんてのは初めて聞いたけど…俺も蓮兎と一緒に居たいから、むしろ嬉しかったです///だから間違いじゃないよ///」

    「そうか。それなら良かった」
    「へへ///」

    嬉しそうに笑うレアを見つめていた柴郡の雰囲気が、不意に変わった。

    「パパ?」
    「ねぇレア?さっきも話したんだが、所属不明の星の子と蓮兎が一緒に暮らすには申請が必要なんだ。」
    「う、うん…?」

    「所属エリアがない星の子なんて沢山いるからね。大体は他の事が分かれば、私に直接持って来なくても基本直ぐに申請は通るんだよ。」
    「えっと…どういう意味?」

    「『生まれたエリア』が分かれば、その土地の大精霊が星の子の誕生を証明してくれる。門を潜って星の子は生まれるから、分からないことはない。大精霊のいない暴風域生まれだって門を潜って生まれるが、暴風域は一目で分かる特徴があるから疑いようもない」

    そう言うと、柴郡は白い自らの瞳を指さす。レアはガタガタと震え出した。

    「『鶯色の瞳を持つ星の子:レア』。君は何処の生まれだい?」

    重い沈黙が、辺りを包んだ。
    柴郡が続ける。

    「蓮兎が直接持って来るから、最初は師匠である私に交際を認めて欲しいのかと思ったが、付き合っている相手がいると知った段階から反対なんてしていない。結婚ならまだしも、同居許可を今更とりに来るのが不思議でね。」

    柴郡の普段は暖かさを感じる優しい声が、今は死刑宣告をする裁判官のように温度を感じられなかった。

    「付き合っている星の子がいると知った段階で、ある程度の調べはしていたんだよ。簡単にだが」
    「……⁉︎」

    「両親となる星の子がいたこと、つまり育手がいたこと。何処でどの様に育ってきたのか迄は、直ぐに調べはついた。随分と苦労してきたね。だからこそ、蓮兎と幸せになるなら全力で応援するつもりだった。「ぱ、パパ…あの、おれ…おれは」肝心の『生まれたエリアの門』だけが分からなくてね。」

    目に涙を浮かべ、ガタガタと震えながらレアは、すがる様な視線で柴郡を見つめる。

    「『精霊の願いから生まれる星の子』が星の子によって生み出される…つまり、『作為的に生命を作る』行為は禁忌だ。それは、かつて精霊にのみ許された行為。まさに世界を回す信仰の根幹を揺るがす大罪だ。」

    柴郡の冷たい瞳が、顔を上げられないレアを射抜く。

    「雨林所属の導き手【指導者:柴郡】としては、禁忌【ホムンクルス】の存在を認めることは出来ない。」

    レアにとって、死刑宣告も同じだった。
    静寂が2つの星を包む中、柴郡が話を続ける。

    「蓮兎は…レアの出自を知っているのかい?」

    弾かれた様に顔を上げたレアの表情こそが答えだった。

    「だと思ったよ。私に直接持って来たのも、私がレアを可愛がっているのを知っていて、何とか出来ないかと甘えたんだろう。仕方のない子だ」

    「蓮兎は悪くありません…おれ、俺が全部悪いんです。ニセモノが本物の星の子を好きになったりしたから…ごめんなさい。ごめんなさい。蓮兎は悪くありません。俺が消えるから、どうか蓮兎のことは…!」
    「レア?私が求めている答えは別にある。とりあえず詳しい話をしたいから蓮兎を連れて、ここに戻っておいで。蓮兎を含めて話をしよう。」

    「でも!」
    「レア。蓮兎を呼んでおいで?これからの話をしよう。私は、怒っているわけじゃないよ。」

    レアの絶望的な表情とは裏腹に、柴郡の表情は何処までも静かだった。

    ----

    青ざめたまま、フラフラとレアは蓮兎のいるはずの門に向かう。まさか同じ神殿内にいたとは思わず、ようやく辿り着いた蓮兎の職場で『神殿に行った』と聞き、足元から崩れ落ちる感覚に襲われた。

    急いで神殿に向かうために珍しく経路の一部をショートカットしたことで、神殿から職場へ戻る蓮兎と会うことが出来なかったことが不運だった。

    この時、ショートカットせず神殿に向かっていれば…

    「どうしよう…どうしよう…俺のせいで蓮兎まで…俺だけが消えるなら良い…でも蓮兎はダメだ!どうしよう…ごめんなさい…ごめんなさい…生きててごめんなさい!」

    レアの頭の中は、絶望で満たされていった。

    ----
    side:柴郡

    項垂れたレアが執務室を後にして暫くすると、弟子の彩葉が戻ってきた。

    「あら?ケーキの甘い匂い♪誰か来てたんですか?師匠。」
    「レアが来ていたんだよ。テラスでお茶を少しね」

    「レアちゃん?珍しいわね?師匠が私たち以外をテラスに誘うの。そんなに気に入ったんだぁ、レアちゃんのこと♪」
    「あれだけ懐かれれば悪い気はしないものだよ、お嬢さん」

    普段通りの軽い受け答えをしていると、ニヤニヤした彩葉が近づいてきた。

    「ということは♪蓮兎ちゃんが申請して来たレアちゃんとの同居許可、何とか出来そうなんですね♪」

    嬉しそうに笑う彩葉とは対照に、柴郡は渋い顔をしている。

    「レアの出自は分かっているだろう?解決しないといけない問題は山積みだ。とりあえず、蓮兎を呼びに行かせたから戻ってきたら詳しく話すつもりだよ。まったく、手のかかる弟子達だ…蓮水も懲りずに何度も文章を変えて持ってくるし、面倒で仕方がない。」
    「そんなこと言って〜頼られて嬉しいんでしょ?し・しょ・お♡最後は、助けてくれる頼れる師匠を持てて幸せだわ♪」

    「調子の良い子だ…出来ないこともあるんだから、私の手を煩わせないで欲しいものだよ。面倒でしかたない。」
    「うふふwww」

    彩葉が、声を上げて笑い出す。

    「それで方法はどうするんです?とりあえず両親が死んだ後、レアちゃんを引き取り虐待していた出生の秘密を知る「スイ」とかいう女を消しますか?」
    「物騒な弟子だね。それでは、レアの幼少期からの虐待によるマインドコントロールは解除されないよ。」

    「どうするんです?」
    「最終的には消えてもらうさ。でも、レアの意向を聞いた上で一先ずの生死は保留にしよう。その上であの女自らレアに『興味がなくなった』或いは…あり得ないが『贖罪の言葉』を伝えさせれば、レアの精神は落ち着くだろう。監視さえしていれば消すのは、レアの精神が落ち着いたのを確認してからでも遅くはないだろう?落ち着くかは、蓮兎の頑張り次第だろうからね。気長に様子を見よう。」

    「物騒な師匠♪確かに、消すのはいつでも出来るわね。言わせる方法なんて幾らでもあるわ♪そういえば、神殿前のエリアで最近見かけたって報告があったけど…レアちゃん大丈夫かしら?」
    「今日は途中のエリアで、大きな崩落があったらしい。そんな日にウロウロはしないだろう。蓮兎と合流すれば、あの子が守るさ。」

    「うふふ。秘密を知る星が一つで良かったですね。簡単に済むわ♪」
    「生まれを暴風域にでもしておけば、後からの加護で目に色が入ったことにすれば良い。なんとでも言える。」

    「こういう時、暴風域生まれの導き手がいると便利なんですねw」
    「怒るぞ。彩葉」

    柴郡が睨む。
    彼がそのことをネタにされるのを嫌っていることを思い出した彩葉は、慌てて謝った。

    「申し訳ありません。師匠…調子に乗りました」
    「はぁ…次からは、気をつけなさい。お嬢さん」

    「ごめんなさ〜い」

    普段通りの柴郡に戻ると、彩葉もホッとして胸を撫で下ろす。

    「しかし、不幸中の幸いだった。」
    「何がです?」

    「レアには悪いが…生みの親が生きているなら、そちらを異端審問に掛けて、レアを監視という名で保護するつもりだった。だが、これだとレアに自由がないし親も処刑確実だ。レアには酷だろう?」
    「たしかに」

    「死んでいる以上、真実が明るみに出ないなら不問にできる。真実を知る星を消せば、レアの安全は確実だ。ホムンクルスという事実も黙っていれば、バレはしない。もちろん、私たちが秘密を漏らすことはないだろう?」
    「当然ね!可愛い弟の最愛は、私にとっても可愛い弟よ!ぜったいに守ってみせるわ‼︎」

    「頼もしいね。そんな訳で、詳しい説明と口止めも含めて蓮兎を呼んでくる様に言ったんだが…少し遅いな」

    青ざめたレアが執務室に飛び込んできたのは、この瞬間だった。

    泣きながら『ごめんなさい』と繰り返すレアに驚いた柴郡と彩葉だったが、柴郡がレアを落ち着かせるため彩葉を一旦、外に出し話し始めた。

    ----

    「レア、どうしたんだ?蓮兎は一緒ではないのかい?」
    「ごめんなさい…パパ。俺が…ホムンクルスの…ニセモノの星の子モドキが全部悪いんです。蓮兎は何も悪くありません。俺が消えるから、蓮兎は許してください!お願い!柴郡様!蓮兎だけは!蓮兎だけは!」

    「落ち着きなさい、レア。すまない、私の言い方が悪かったんだね。お前自身の存在を否定するつもりで言ったんじゃないんだよ。指導者として認知は出来ないが、私自身としては黙っていればどうとでも出来ると話したかったんだ。お願いだから、落ち着いておくれ?きちんと説明するから。な?」

    しかし、正気を失った様に泣きながら謝り続けるレアを柴郡が抱きしめ宥めるが、一向に泣き止む気配がない。

    「蓮兎の足枷になるつもりなんて無いんです…でも、俺の存在が足枷になるなら消してください…蓮兎は悪くない…悪いのは全部…全部俺なんです」
    「レア、落ち着こう。何か温かい飲み物を持ってくるから落ち着いたら私と話そう」

    うわごとのように繰り返すレアを落ち着けようとソファに座らせ、柴郡は飲みものを取りに隣の部屋に移動した。時間にすれば、ほんの短い時間だったがレアは「俺がいちゃいけないんだ…」と呟くと、ふらりと立ち上がり執務室のドアを開けた。

    心配して外で待っていた彩葉が近づいてくるが「迷惑かけてごめんなさい。蓮兎は悪くないです」と繰り返すばかりで、事情が分からない彩葉は困惑する。

    「レアちゃん。何があったのか分からないけど、蓮兎ちゃんの部屋まで送るから私と帰りましょう?」
    「…俺だけで大丈夫だよ彩葉お姉さん。迷惑かけるわけにはいかないよ」

    「迷惑?そんな筈ないでしょ。私がレアちゃんの事が好きでやっているんだから、気にしないの!ほら行きましょう♪」

    強引にレアの手を握り、神殿の出入り口を目指す。
    始終暗い顔で下を向いて黙ってしまったレア。何と声を掛けたものかと彩葉が考えていると、出入り口から外を見たレアが急に狼狽し悲鳴を上げた。

    「レアちゃん⁈どうしたの⁈」
    「あ、あの…ごめんなさい。急に虫が飛んできてビックリして…」
    「虫?」

    彩葉が周りをキョロキョロと見渡した一瞬、握った手の力が緩んだ隙を見て、レアが手を離し距離をとる。

    「ごめんね、彩葉お姉さん!俺自分で帰れるから、お姉さんは仕事に戻って?心配してくれてありがとう!それじゃ‼︎」
    「ちょっと⁈レアちゃん!レアちゃん‼︎」

    慌てて追いかけようとした彩葉だが、後ろから同僚に声を掛けられ振り向いてしまう。視線を戻すが見失ってしまい、慌てて飛び立とうとしたが声を掛けてきた同僚から『スイ』の目撃が雨林最初の門近くであったと報告が入り、同僚を向かわせ柴郡の元に急ぎ戻った。途中、蓮兎と会いレアを追うよう伝えたが『スイ』のことは伏せていた。関係を知っているのか分からなかった為だった。蓮兎が柴郡の元へ向かったため、最初のエリアに向かい探すが『スイ』は見つからなかった。

    ----
    side.レア

    彩葉の手を振り払い、レアは無我夢中に神殿前のエリアをめちゃくちゃに飛んでいた。

    「どうしよう…スイさんがいた!なんで?俺を探して?まさか、誰かが俺のこと話したの?どうしよう!どうしよう!これ以上、みんなに迷惑かけたら嫌われちゃう!蓮兎にも嫌われたら俺!」

    『面倒なやつだな』
    朝の喧嘩のときに言われた言葉が、脳裏に響いた。

    飛ぶ速度が落ちた瞬間、後ろからの強い衝撃で闇花が咲く一角に落ちた。
    上を見上げると、スイが鬼のような形相で睨んでいた。

    「見つけたわよ。フジ君を殺したバケモノ!よくも逃げたわねあんたは、苦しんで苦しんで苦しまなきゃいけないのに何で逃げたのよ!親殺しのバケモノ!ニセモノの癖に逃げるんじゃないわよ!生みの親を殺したくせに逃げるの?卑怯者!あんたなんか、誰からも愛されないお荷物の癖に!」

    頭上から降り注ぐ雨と共に、スイの罵倒がレアを極限まで追い詰める。何も言い返せずガタガタと震えていたレアだったが、突如横から来た波に足を取られ流されてしまう。

    スイのキャンキャンと頭に響く声が、脳裏に焼き付いていた。

    しばらくして、目を覚ますと見慣れない寂しい場所。流されて濡れたからだろう。羽も何枚か失っていた。

    「はは…俺の最後には相応しい場所だね。みんな、ごめんね。俺なんかが生きてたから、父さんも母さんも不幸になった。もっと早くに、こうするべきだったんだ。蓮兎が邪魔ばっかりするから、みんなに迷惑かけたじゃないか…違う…蓮兎が悪いんじゃない…全部俺が悪いんだ。ごめんなさい…ごめんなさい蓮兎。愛してるって言ってくれたのに、一緒に生きようて言ってくれたのに…愛してるよ。さようなら」

    近くに落ちていた錆びたナイフを拾い、自分の核へと勢いよく刺した瞬間、核が砕ける音と、遠くで自分を呼ぶ蓮兎の声が聞こえた気がした。

    ----




    ----
    side.

    「レア?その後ろに背後霊のようにしがみついて私を睨んでいる蓮兎…どうにかならないのかい?」
    「ごめんね、パパ。なんか怖い夢を見たとかで、今朝からずっとなんだ。見かねた蓮水くんが、休みを出してくれて…」

    「そんな時に来てすまなかったね。連日のトラブルで、とうとう壊れたか…今日は早く休みなさい。」

    哀れみのこもった目でレアと蓮兎をみると、柴郡は本題を切り出した。

    「先日、蓮兎が出してきた申請書なんだがね。」

    蓮兎の肩が、大きく跳ねた。
    レアが不思議な顔をし柴郡が首を傾げながら、言葉を続ける。

    「受理しておいたから、住む家が見つかったら言いなさい。私の方で処理しておこう。」
    「え?受理されたんですか?」

    「その為に出したんだろう?私に秘密にしている事もあったようだが…まあ、事情を考慮して何とかしてあげたよ。優しい師匠を持って幸せ者だね。蓮兎。」
    「師匠」

    「レア、詳しい話は蓮兎から聞きなさい。私から話すと機嫌が悪くなるからね」
    「う、うん?わかった」

    必要な書類を受け取り、急に上機嫌になった蓮兎にレアが首を傾げる。

    「さて。私の用事も終わったし、新しく出来たカフェでお茶でも飲んで帰ろうかな。レア、今度蓮兎が元気になったら、一緒に行ってみると良い。テラス席で食べるケーキが絶品らしいよ」

    そう言うと両手いっぱいに持ってきた土産をレアに渡し、柴郡は帰るため玄関に向かった。柴郡がドアから外に出て振り向く。

    「『私はね、慕ってくれる者に甘いんだよ。何かあれば隠さず相談しなさい。私が出来る事なら、力を貸すよ』」

    夢で聞いたような気がした言葉だった。
    柴郡が穏やかな表情で蓮兎とレアを見つめ、ドアをしめた。

    ----

    翌日。出勤した蓮兎は昨日、とあるエリアで大きな崩落があったと聞いた。
    友だちの救助のため助けを呼びに来た星の子がいたが、不運にも執務室が不在の時で、結局助けは間に合わなかったらしい。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤😭😭😭😭😭💖💖😭😭😭🌋🌋🙏🍼🍼
    Let's send reactions!
    Replies from the creator