「では、これを」
ユリウスはアルベールに手を出させると、そこへ手にしていた物を落とした。片掌に丁度乗る重厚な金属のそれは、「Yurius」と彼の名前が刻まれた札が付いていた。今し方搭乗したばかりの騎空艇で充てがわれた個室の鍵である。
「本当にいいのか……?」
まだ納得がいかないといった顔で鍵をまじまじと見詰めるアルベールの手を下から包んで握らせる。上からも掌を乗せ、両手で彼の手を包むと、小さく首を縦に振った。
「私は研究要員として呼ばれたようなものだからね。部屋を出る用事は殆ど無い。それに部屋を態々訪れるのは親友殿ぐらいなものだよ」
ユリウスからの提案は他意もなく至極合理的な筈だった。しかし、アルベールは他に何かを思いついたのか、別な提案をする。
「なら、俺の鍵はユリウスが持っててくれ」
アルベールがポケットを探り、自分の鍵を見つけると、ずぃとユリウスの前に差し出した。
「……どうせ、研究だ何だとそこいらに資料を溢れさせるんだろう?それなら……………」
そこまで言って自分の言葉に他の意味が含まれてしまうのに漸く気付いたのだろう。
自分から部屋の鍵を突き出しておきながら、アルベールの声の覇気は徐々に失われ、代わりにほんのりと首筋から耳朶へ朱が色付いていく。
最後はただ唇だけが音の無い言葉を紡ぐだけになった。
「それは、毎宵のお誘いと受け取って良いのだね?」
その言葉に、顔は更に赤く染まる。首は動かず、代わりに喉が鳴らされるのが聞こえた。