「料理は科学」
つまり、そこには確りとした法則がある。それは理解しているものの、兎に角加減が分からない。
「……本当にこれでいいのか?」
とろとろと小さな炎を揺らす焜炉と睨み合いをしながらアルベールは疑いの眼差しを背後に向けた。
そこには木漏れ日の緑と白の斑な光の下、モーニングティーを嗜みながら書類に目を通すユリウスが居る。ゆったりとした部屋着で、足を組んで椅子に座っている様子は普段よりずっと寛いでいるように見えた。
「それで充分だ。君は火を過信し過ぎだよ。何でも強く火を焼べれば良いというものではないというのは散々に思い知ったはずだろう?」
「う゛……」
それが先日の生焼けの丸鶏の件を揶揄されているならば、アルベールに反論の余地は無い。ユリウスは最初から口をつけなかったが、その分まで戴いたアルベールはその日散々な目にあったのだから。
「わかった。言う通りにするから、次の指示を出してくれ」
「それは構わないが……鶏の方の下拵えは済んでいるのかい?」
その言葉に、ぴたりとアルベールの動きが止まる。それから、眉を下げ無言のまま視線だけを彼へと向けた。
それがまるで悪戯の見付かった仔犬のようで、ユリウスは思わず苦笑する。
「……今日も昼餉になってしまうねぇ」