机上の空論「それを使え」
足元に投げて寄越されたリボルバー。黒を身に纏った男は拳銃にするにはあまりにも優雅な所作でそれを拾い上げた。視線の先には壁にぐったりと身体を預ける銀髪の青年と、その喉にナイフを当てる下卑た笑みを浮かべる男がいた。
「六分の五だ。それを引けばいいんだからカンタンな話だろう?変な気は起こすなよな、ビックリしてこの白髪野郎をザックリやっちまうかもしれねえからなあ!」
雪のような前髪を鷲掴みにして脅しをかける男は己の目的を見失っているのか。或いはただ見たかったのかもしれない。自分を追い詰めた冷静な貌が恐怖に駆られ命を懇願する様を。
「六分の五、と言ったかい?」
だが、期待は叶いそうに無い。
「確かに弾倉と銃弾の数だけ見ればそうなるだろう。しかし弾詰まりが起きないとはいえリボルバー式の拳銃も百発に二発程度は不発に終わるというデータもあってね」
手にした銃の弾倉をチャリ、と回し、声はよどむことなく続く。
「もちろん環境や銃のメンテナンスも大いに影響する。素人目だがこの銃はしばらく手入れをしていないだろう?最後に撃ったのはいつだったか覚えているかい?」
「何をグダグダ言ってやがる!!さっさとやれってんだこっちにはがっ…!?」
痺れを切らした怒鳴り声は、途中で自らの呻き声に潰された。
「ああすまない、回りくどかっただろうか。結論から言うと、君の望むような結果は得られないという事なんだ」
コツコツと音を立てて近付いてくる足音と、音もなく己の手元から抜け出す気配を感じたのを最後に、男の意識は暗く沈んだ。
「……相手を怒らせずに時間稼ぎ出来ないのかあんた」
「すまないね、方法なら他にいくらでもあったのだけど」
穏やかな笑みで元人質を迎え入れた黒い男は、手にしたままの拳銃を倒れた男の頭に向けた。
「こちらから嵌めたとはいえ君の髪を乱暴に触られて私もつい苛立ってしまったんだ」
そう言ってカチリと一発、空砲を鳴らした。