二月十四日 二月十四日の夜。ふらりと訪ねた屋敷でテリオンは、思いがけず熱烈な歓待を受けていた。両手で力いっぱいにテリオンを抱き締めながら、サイラスは喜色満面に歓喜の声を上げる。
「ああ! 今日という日にキミが訪ねてきてくれるなんて、何て喜ばしい偶然だろう!」
聞けば今日は何とかという聖人の祝日で、家族や友人または恋人など親しい相手への感謝や愛情を、花や菓子に込めて贈り合う日なのだとか。サイラスも生徒を始め方々から親愛の証とやらを貰ったのだろう。部屋の隅に大きさも包装も様々なプレゼントが山と積まれているのが見える。
「それで、私もキミのために用意していた物があるのだが……ふふ、まさか買ったその日に開けることになるとはね」
「大袈裟な奴だな。ただの祝日だろう?」
そんなものにかこつけなくても、あんたの気持ちは伝わってるさ。そう思った時、テリオンの頬にそっと白く大きな手が添えられた。
「旅に出るまではそうだった。でも今の私にとって二月十四日はキミと出会い、キミと想いを通じ合わせ、こうして繋がり続けていられることへの感謝を捧げるための特別な日に変わったんだ。そこへキミが訪ねてきてくれた。この喜びは、どんな言葉をもっても表現し尽くせないだろう」
優しく細められた青い瞳から溢れんばかりの愛情が降り注いでくる。まるで蜜の雨を浴びているような気分だったが、こういうのも悪くないと思ってしまう自分も相当──甘味に毒されてしまったようだ。
砂糖菓子のような口づけを受け、目を閉じたテリオンは思いを巡らせる。後ろ手に隠し持った小さな箱を、いつどうやってサイラスに渡そうか。
<Happy valentine!>