君と結婚するまであと100日_0(仮)じゅうじゅうとあちらこちらから肉を焼く音が聞こえる。
「ヤマさんちょっと相談」と末っ子から言われてしまえば詰め込まれた予定をなんとか空けて付き合ってやりたいと思うのが大和だった。
「タマ、どうした?」
大和が席に着くと環がもうすでに席に着いていてちびちびと烏龍茶を飲んでいた。
成人してから酒を飲むことも決してないわけではなかったが、環はあまり酒を好まなかった。
「なんか頼みなよ」
タブレットで注文する形式のこの店は何度か来たことがあって、慣れた手つきでビール……を選ぼうとして烏龍茶にした。
環の顔を見ていたらビールを飲むのは違うと感じたからだ。
つまみをいくつか選び「で?」と環に促す。
「ヤマさんの来てからにする」
少しだけ緊張しているのかどこか居心地悪そうに環は座っていた。たいして時間も経たないうちに大和頼んだ烏龍茶とつまみが揃った。
「ヤマさん酒飲まねーの?」
「タマの相談乗ってからな」
「おー。あんがと」
おつかれ、と言いながらグラスを合わせる。
初めて出会った頃は環とこうやって居酒屋で乾杯するなんて想像もしていなかった。
あれからもう数年。
その間に住んでいた寮を出ていき、大和は実家の近くに。環は相方で恋人の壮五と二人で暮らし始めた。
「あのさ、ヤマさん。ヤマさんに最初に言っておこうと思って」
「おう、なに、お兄さんがびっくりするようなこと?」
「んー……どうかな」
考え込むように環は呟いてから、
「まだ誰にも言ってないんだけど、俺、そーちゃんと結婚したいって考えてる」
つい先日、同性でも結婚できるような世の中に変わった。
今までひっそりと恋人として生活していた環と壮五がその先、つまり家族になることを考えるのも何らおかしな話ではなかった。
「これ、まだそーちゃんにも言ってない」
「じゃあ俺に言うのはおかしいんじゃないか」
「んー。そうなんだけどさ。ヤマさん、俺たちのリーダーだからプロポーズするって言っておいた方がいいよなって」
そう言ったあと、煽るように環は烏龍茶を飲み干した。
「……」
付き合い始める前から環は壮五を、壮五は環を、互いに大事にしあい、そしてそうなるのが当然のように恋人になった。恋人になってからも決して穏やかな日々ではなかったが、二人は寄り添っていた。互いでなければ意味がないと言うように。
その二人をメンバーは優しく見守っていた。
「そりゃあ、さ。俺たちアイドルだし、みんながみんないいって言わないってわかってんよ。でもそーちゃんと家族になれんだって思ったらやっぱなりたいって、思った」
環も壮五も家族にいい思い出はあまりない。だからこそ一緒になりたいと思う気持ちはより強いのだろう。
ぷは、と大和は思わず吹き出した。
「何」
「いや、タマ、俺に言ってからって言ってるけどもう決まってるでしょ」
「まあ」
大和に相談、なんて言いながらも環の眼は真っ直ぐで例え大和が反対しても壮五と結婚したいと言う気持ちを貫き通すだろう。
「俺に言うより先にソウに言えよ。ソウに返事もらってから俺に相談しなさい」
「……」
こくりと環が頷くのを見て大和は頼んだつまみを環の皿に乗せていく。
環と壮五が結婚する。
アイドルならば反対した方がいいのかもしれない。けれどそんな気持ちにはならなくて、ただただ「よかった」と言う気持ちが込み上げてきた。これでは泣いてしまうんじゃないかと必死で烏龍茶と一緒に流し込んだのだった。